序章『始動』

西暦20××年−−−−極東の島国、日本。
第2次世界大戦における敗戦から見事に復帰したこの国は、世界有数の経済大国としてその名を世界に轟かせていた。
だが、近年。日本は、その地位から脱却せざるを得なかった。
日本政府の経済破産。
これにより崩れかけた日本を立て直したのは、一つの企業だった。
ソニーコーポレーションの経済管理による、『企業国家』の成立。
これにより日本は『経済大国』から脱却したが、別の名を世界に広めつつあった。
世界で最も、ロボット技術が発展している国−−−『ロボット大国』と。
ソニーコーポレーションの開発した犬型ロボット『AIBO』がその発端であった。
AIBOに触発された日本の電子機器メーカーは、次々とロボットを開発。僅か数年の間にロボット技術を国内に普及させてしまったのだ。
……その中にある狂気に気付くことなく。

そして全ての始まりは、インターネット上にふとあらわれた一つのゲームだった。
『先行者』。中国のロボットを操作し、日本のロボットを撃破していくゲーム。
その洒落た設定とゲームとしての面白さが相まって、それはネット上に凄まじいスピードで広がって行った。
ソニーコーポレーションは「我が国のロボット技術を侮辱している」とネット上からそのデータを抹消しようとしたが、ユーザーの凄まじい反発により断念。
それほど、このゲームは人気があったのだ。
誰が作り、誰が広げたのかは分からない。
ただ『面白い』というだけで……それが何を意味するのか分からずに。
ユーザーは、熱狂していった。

東京某所……何処にでもあるようなマンションの一室。
本棚、ベッド、テレビ、そして一台のノートパソコン。
時計の針がきっかり3時を指した瞬間、その部屋のドアが開いた。
「っはぁーっ、あっつ〜……!」
明らかに日本の気候に対する文句を言いながら、一人の青年が転がり込んで来た。
言葉の割には律儀に着ていた上着を脱ぎ捨て、クーラーのリモコンを手に取ると同時にノートパソコンを起動させる。
「はぁ〜………なんでこんなに暑いのかなぁ……わざわざスーツ着て行かなきゃいけないのもねぇ……」
青年が愚痴をこぼしている間にもノートパソコンは起動準備を続け、クーラーは冷たい風を吐き出し室内の温度を調整しようと努めている。
「まぁでも、これで僕も社会人だし……あんまりゲームもやってられないな……」
起動したノートパソコンの液晶ディスプレイが、デスクトップ画面を示す。
「…よし、今日は自己ベスト更新!やったるぞぉ!」

中国某所……荒れ地がその肌をさらす、海に面した不毛な大地。
決してメディアに晒されることのない、この世界の『裏』の場所。
そこには、異様な光景が繰り広げられていた。
砂浜に乗り上げた、数多の箱のような形状の船……揚陸艇の前部が開き、搭載していたモノが砂浜へと『歩き出す』。
AIBO、ASIMO、TMSAK04……世界にその名を知らしめた日本の誇るロボット達が、次々と中国へと上陸して行く。
ただ、一般の人間の認識しているソレとは、様々な違いがあった。
大きさ−−−子犬サイズであるAIBOすら人間より大きく、TMSAK04に至っては十数メートルの大型ロボットになっている。
そして、装備−−−一昔前のアニメに登場したような武器を、そのロボット達は持っていた。
「……そろそろか、『ヤツ』が来る時間は?」
揚陸艇の上陸地点から数キロ離れた海上……空母『紫雲丸』。
地表を埋め尽くすような数のロボット達をモニターから眺めつつ、一人の男が艦長席に座っている男に声をかけた。
「そうだ……『ヤツ』にはS型装備のASIMO部隊ですら有効な打撃を与えられん」
「T−4・AIBOとの連係でようやく、か……」
「しかも『ヤツ』は戦闘可能限界が近付くと、部隊の中へと突出して自爆を敢行し……そして次の戦闘には何事も無かったように表れる」
「ほう……機体の捕獲は?」
「幾度も試みたが、無理だ。ヤツの自爆装置は機体の重要機構すべてを破砕する……近隣の機体もろともな。自爆装置だけをピンポイントで破壊出来なければ、捕獲は無理だ」
苦虫を噛み潰したような紫雲丸艦長の表情を見つつ、男はその口元を歪めた。笑いに。
「私がここに呼ばれる程だ……新兵器ともども、その性能を見せてもらおう」
その男の肩には、三佐を示す階級証が鈍く輝いていた。

そしてロボット達の上陸場所から十数キロ離れた、とある山の中。
山に偽装して作られた整備工場の中で、巨大な影の周りを数多の人影が動いていた。
数百メートルに渡り連なるロボット用ハンガーにその身を任せた数多の巨大ロボ。
その中の赤く塗られた一台を、一人の男が見上げていた。
サングラスに隠された瞳から、その思いを読み取ることは出来ない。
「……教官!」
一人の青年将校が、その男の横に立つ。
「どうした?」
「日本軍が上陸を開始したようです。確認された敵機種はAIBO、ASIMO、TMSAK04。情報部からの通信では『敵新型機開発情報有、必要極注意』(敵が新型機を開発したとの情報あり、極めて注意せよ)との事です」
振り向く男に、青年将校は軍人特有のきびきびとした口調で情報を語る。
「そうか……」
男が、少し考え込む様子を見せる。
「……俺のパイロットスーツを用意しろ。決着をつけねばならない相手が出て来るかもしれん」
「はっ!」
「全遠自機、出撃体勢−−−敵が新型機を量産すれば、こちらが劣勢になる。ここが正念場だ。貴様らの戦いに期待しているぞ!」
「はっ!!」
男の言葉に、それを聞いた全員が敬礼で答えた。

西暦20××年、中国……正史には決して知られることのない、戦争の中。
ソニーコーポレーション新入社員・遠山昇(とおやま・のぼる)。
日本陸軍特務三佐・川村一也(かわむら・かずや)。
中国陸軍機構部隊教官・王湖心(ワン・フーシン)。
世界の命運を握る3人の、結びつく筈のない運命が、今−−−−交錯する。

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