第3話:生徒会に入ります!
「知ってるー?この前の集会で現れた会長の恋人って『高円寺グループ』の社長令嬢さんなんだって!」
「高円寺グループといえば、日本だけでなくて、世界でも有名な大企業じゃん!?」
「すっげー!高原会長、逆玉だよな!うらやましー!!」
「貧乏から一気にセレブじゃん。まるで『シンデレラ』の男版のような話だよな」
そんな会話があちこちから聞こえてくる廊下を、陸は苦虫をかみつぶしたような顔で歩いていた。
『なにが「シンデレラ」の男版だよ!?おれがいつ、ルリと結婚するって言ったんだ!?何も言ってないのに、変なウワサが学校中に広まっていて・・・・最悪だ・・・』
ウワサをたてる生徒達に、「それはウソだ!」と大声で叫んでやりたかったが、あまりにも人数が多すぎて、一人一人の誤解を解くのは難しそうだ。だからといって、朝礼等の公の集会でで説明するわけにもいかない・・・。まったく、ほんとに困ったことになった。
陸は暗くなる気持ちを吹き飛ばそうと、グッと顔を上げ、
「ま、人のうわさも75日って言うし、ほっとけばいつか消えるだろう」
と思い込もうとした時に、
「いや〜、すごいな、陸!学校中がおまえのウワサで持ちきりだぞ!」
と凪がうれしそうに声をかけてきた。せっかく気持ちを切り替えようとした時に、またこの話題とは・・・。陸は嫌そうな顔で、
「あんなウワサ、本気にしてんのかよ?あれはなー」
と説明しようとしたが、凪は聞く耳持たずしゃべりまくっている。
「ったく、あんなかわいい恋人がいること、なんで隠してんだよ?しかも、めっちゃ大金持ちのお嬢様なんだろ?か〜、うらやましいね〜!おれにも誰かお金持ちのお嬢様、紹介してくれよ〜。おれも逆玉に乗りたい!!」
「あ・・あのな・・・何回も言うけど、おれとルリはー」
その時だった。陸と凪は背後から凍るような冷たい風が吹いてきているのを感じた。季節は初夏なので、そんな冷たい風が吹いてくるはずがない。でも、何かを背後に悪寒を感じる。恐る恐る2人が振り返ってみると、そこには、目に見えない冷気を放出しているハルカが立っていた。なぜかよく分からないけど、非常に怒っている様子だ・・・。ハルカは陸の方にツカツカ歩いてきて、
「陸!なんでこんな重要なことを私に話してくれなかったの!?あんな世間知らずのお嬢様につきまとわれてたなんて、私一言も聞いてないわよ!?」
と叫んだ。他の生徒達の間では「ルリは陸の恋人」という説が流れているが、ハルカの間では「ルリは陸のストーカー」という説が出ているようだ・・。いつも以上に不機嫌なハルカゆえ、陸もちょっとびびりながら説明する。
「ほら、ハルカが旅行に行っていた時にルリと出会ってさ。で、別に大したことなかったから、ハルカに言うほどでもなかって・・・」
「大したことじゃない?大したことよ!!」
「いや、ほんとに大したことじゃなかったんだって・・」
「大したことないことじゃないわよ!!じゃあなんでこんなにウワサが広まってるの?!」
怒りまくっているハルカを、凪はニヤニヤしながら眺めていた。いつも冷静なくせに、陸のことになると取り乱すハルカを見るのが凪は好きなのだ。だがこのまま責められていたら陸がかわいそうゆえ、助け舟を出してやる。
「というか、陸。ルリちゃんとはどこで出会ったの?あんなお嬢様と庶民が出会うことって、なかなかないだろ?」
凪にそう聞かれ、陸は決まり悪そうにポリポリ頭をかきながら、
「その・・アイツが変なヤツにからまれてたから、こう助けたのがきっかけというか・・」
とボソボソと答える。
「なるほど!そりゃルリちゃんも陸にほれるよな♪悪者に囲まれ大ピンチの時に、突然かっこいい男の子が自分を助けてくれたら、それだけで恋に落ちるよな〜。陸が、王子様のように見えたんじゃないの?」
「だからって、陸が嫌がってるのにつきまとうなんてサイテーよ!!」
茶化す凪を押しのけて、ハルカがさらに怒りを爆発させようとした時だ。何かがハルカの横を通り過ぎた。そして次の瞬間には、
「りーく!会いたかった!」
とルリが陸の背後から抱きついていた。突然、うわさの主体があらわれたので、陸もハルカも凪もびっくり!?陸はルリを背中からブルブルと落としながら、
「お、おまえ、なんでこんなとこにいるんだ!?というか、なんでうちの制服着てんだよ!?私立の制服は!?もう学校始まってるだろ!?」
と言うと、ルリはにっこり笑いながら、
「あのね、今日からここに通うことになったの!」
とうれしそうに言った。が、陸は予想外の展開にびっくりしすぎて、思わず言葉が出てこない。そしてさらに事態は悪化した。
「高原陸くん。ちょっと顔をかしてくれないか?」
怒ったような低い声が聞こえて、陸が振り返ると・・・・そこにはルリの父親がいた―
「いやー、我が中学に、世界の高円寺グループのご子息が通っていただけるなんて、光栄でございます」
ここは校長室。なぜか陸はここに連れてこられ、ルリ、ルリパパ、校長先生と一緒にイスに座って話を聞いていた・・。校長の歓迎の言葉の後に、ルリパパは「オホン」と咳払いしてから話し始めた。
「本来ならルリは名門私立で大学まで過ごさせる予定でしたが、本人の強い希望で社会勉強の一環にと、私立を休学して公立に通わせることにしました」
それを聞いた瞬間、陸は『私立を休学!?っていうか、何があったんだよ、おっさん!?絶対反対しただろうけど、結局はルリに負けたのかよ!?』と思ってしまった。すると、ルリパパは突然机をバンとたたいたため、陸も校長もびっくりして飛びあがった。
「ですが、この学校のひどさといったら、言葉にならないですよ!!ぼろすぎる!!汚いし、地震がきたら即倒れそうですし、不審者も外からいくらでも入れそうなぐらいセキュリティー設備もないし!問題ありまくりじゃないですか!!これじゃ親として、ルリを安心して学校に通わせることができません!」
そう言うと、ルリパパはスーツの裏ポケットから何かを取り出した。陸は何を取り出したのか、思わず身を乗り出して注視してみると、それは「小切手」だった。
「というわけで、学校を建て替える寄付をいくらかさせていただきたいのですが、どれぐらいの額が必要でしょうか?」
校長は、ルリパパの行動に最初はびっくりしていたが、でもお金に目がくらんだのか、
「いや〜、それはありがたいです!ちょうど学校を建て替えたく思ってましたので―」
と手をすりスリさせながら金額を提示しようとしていたため、
「待ってください」
と言って陸が止めた。思わずルリパパは陸の顔をにらんだ。陸もそれにひるむことなく、意見を言い始めた。
「ここは私立ではなく公立なんです!他の公立学校だって、建て替えをしたいけどお金がないから我慢しているのに、うちだけ『特別』なのは不公平になるんです!」
ルリパパは、陸のこうした正義感強いまっすぐな性格が大嫌いだった。
『くっ!!このクソ生意気な弁当屋の息子が!!本当は金が欲しいくせに、かっこつけてルリの気を引こうとしよって!!』
逆に陸は、ルリパパの何でも金で解決させようとする姿勢が大嫌いだった。
『娘のために学校を建て替えるって、この親父はどこまでバカなんだよ!?なんでも「金」「金」って金を出せば、世の中を動かせるなんて思うなよ!!』
バチバチっと熱い火花を飛ばしている陸とルリパパの間に、ルリがひょこっと入ってきて、
「陸に言うとおりだよ。学校なんか建て替えなくていいよ」
と言ったので、この戦いは陸が勝利をおさめた。負けた悔しさか、パパは陸をうらめしそうな顔で見ながら、
「というわけで陸くん・・・・君のせいで学校が建て替えられなくなったんだから・・・」
と言うと、ビシッと人差し指で陸を指し、
「君が命がけでルリを守れ!!もしもルリに何かあってみろ!君の家をつぶすから♪」
と笑顔で言ったので、陸は「ええっ!?」と叫んだ。
「ちょ、ちょ!?家をつぶすって、何考え―」
「じゃ、私は仕事に行くからルリのことは頼んだぞ♪」
そう言って、ルリパパは校長室を出て行ってしまった。「ルリを守らなかったら、家をつぶす」という条件を出された陸は、しばらく放心状態のままその場で立ち尽くしていた。あの親父の言うことだ。どんな汚い手を使ってでも、陸の家をつぶすだろう。というか、そんなの恐らく朝飯前に違いない・・・。まだぽけ〜っとしている陸の横でルリは、
「パパも許してくれたし、これからはずっと一緒にいれるね、陸♪」
とうれしそうに言っていたが、陸としては「ずっと一緒にいる」ではなく「ルリの面倒をみる」という役を押しつけれただけのような気がした・・。しかもルリに何かあったら「家がつぶされる」という特典つきだ・・・。その時だった。突然校長室のドアが開いて、ハルカと凪が飛び込んできた。どうやら外で会話を聞いていたようだ。
「陸、どういうことなの!?陸の家をつぶすって、脅迫じゃない!!」
「ハハハ、陸もすごいところに嫁ぐみたいだな」
突然現れたハルカと凪にルリは興味津々で近づいていった。
「誰誰?陸のお友達さん?」
ルリにそう聞かれ、陸は、
「うん・・お友達さん・・」
と答えた。ルリはハルカの前に出て、
「あ、私―」
と自己紹介しようとしたが、ハルカはルリをキッとにらんだ。
「あなたね!お嬢様の気まぐれか何か知らないけど、遊び半分でここに転入しないでくれる?」
ハルカのストレートすぎるセリフに、凪はびっくりして、
「ハ、ハルカちゃん。そんなこと転校初日から言わなくても・・・」
とフォローしようとしたが、ルリはハルカの方に一歩踏み出した。全然ひるんでないルリに、ハルカは一瞬ビクッとしてしまう。
「遊び気分じゃないよ。陸に会うために見張り役の人達から逃げ出すのも大変だったし、転校するのをパパに納得させるのだって一筋縄ではいかなかったよ。でも・・・・でもね、私!陸が大好きだから、私の人生全てかけて、ここにやって来たの!決して遊び気分じゃないよ!」
そんなルリの真剣な告白を聞いて、陸もハルカも凪もハッと驚かされた。ハルカにいたっては、返す言葉が見つからなくて、ずっと石のように固まったままだ。凪は陸の肩にポンと手を置き、
「陸、これはもうルリちゃんと結婚するしかないなあ。おめでとう!」
と祝福したので、陸は、
「なんで急にそこまで話が飛ぶんだよ!?結婚なんか絶対するか!!」
と否定はしたものの、真っ赤になっている顔は隠せなかった。その時、
「高原くん」
と校長が陸を呼んだ。
「校長先生?なんですか?」
「君と高円寺さんは同じクラスにしたから。いいかね?彼女の面倒をしっかり見るんだぞ!!ケガをさせたり、誘拐されたりしないように、君が彼女を守るんだぞ!!」
校長はそう陸に命じると、飲みかけていたコーヒーを再びすすり始めた。陸はがっくり肩を落とした・・・。
『結局のところ、校長もおれにルリを押し付けるんだな・・・』
ルリは思わずうれしくなって、陸に抱きついた。
「わ〜い!!陸と同じクラスだね!!」
「いいか、ルリ!おとなしくするんだぞ!おれの家がかかってるからな!!」
「は〜い!!」
「・・・不安だ・・・」
そんなルリと陸のやり取りを横で見ていたハルカに凪がズズイッと近寄る。
「ハルカちゃん的には、陸にぴったりくっついてルリちゃんの行動を監視したいところだけど、クラスが違うから残念だよね〜」
と凪が話しているのも無視して、ハルカは自分のクラスに戻り始めた。フツフツと沸いてくる怒りをぶつける術もなく、廊下をひたすら無言で歩く。
『なによ・・あの子・・・。陸本人の前で、「好き」とか大声で言っちゃって・・・・。なんでそんなこと言えるのよ・・・』
陸のクラスに転入してくることになったルリは、クラスメイトの前に立って自己紹介を始め出した。
「高円寺るりです、よろしくお願いします」
そう言ってペコリと頭を下げると、
「おー!高原の彼女さんだ〜!!」
「本物のお嬢様よ!かっわいい〜!!」
という声があちこちから飛んできた。ルリは幼稚園の頃から私立に通っていたので、公立に通うのは今回が初めてだ。確かにパパがさっき感想をのべていたように、私立に比べて建物はボロいし、地震が来たら間違いなく壊れそうだ。それに、あちこちにゴミが落ちているのも気になった。掃除はしてないのだろうか?他にも私立ではクラスメイトも、カバンはブランド物を持ってきている人が多かったし、学校指定のスクールバックも某有名デザイナーのデザインしたものだった。だが、ここは違う。ブランドを持っている人は誰もいないし、スクールバックもビニールでできたピラピラしたものだった。でも、ま、そんなことはどうでもいい。陸さえいれば、ルリはそれでいいのだ。
自己紹介はまだ続いていた。ルリは持ってきていた大きなカバンの中をごそごそとあさりながら、
「ええと、皆さんとお近づきのしるしに、この『ゴルバ』の高級チョコを1人1箱あげちゃいます!!」
と言って、チョコレートの箱をばらまこうとした。その瞬間、「ピー!!」とどこからともなく笛が鳴ったので、ルリはびっくりしてこけそうになった。笛を鳴らしたのは陸で、ルリをにらみながら言った。
「転校のあいさつにチョコなんかあげる中学生なんているかっ!!友達作るのに、『モノ』をあげるなんてもってのほかだ!!」
ルリはキョトンとしながら、
「え?でも今まではいつも何かあげてたよ?」
と答えると、陸は、
「それはルリがおかしいんだ!!一般的には、モノなんかあげません!!」
と言って、チョコの入ったカバンを没収して、ルリの世話役で廊下に待機していた北浜に渡した。
「これは家に持って帰ってください」
一般常識のない家で過ごしている北浜にとって、陸はものすごく「かっこよく」見えた(ただ普通のことを行っているだけだが)。それに、ルリが何か無茶をやろうとしても、誰一人止める人もいなかったし、北浜が注意してもルリは全く聞こうとしなかった。だが、陸の言うことだけはルリもきちんと聞くようだ。なので北浜は教室の外から陸を見つめ、
「あ・・あの人なら、ルリ様をしっかり教育してくれるかも!」
と期待で胸を躍らせてしまった。北浜の手では、ルリは完全に手に負えないゆえ・・・。
チョコを没収されたルリは、急に不安になってきた。
「り、陸っ!チョコなしで、どうやってみんなと仲良くしたらいいの?」
陸はクルッと振り返ると、
「モノなんかあげなくても、みんな仲良くしてくれるさ」
と答えた。陸は当たり前のことを言っているだけだったが、ルリにはなかなか理解できないことだった。というのも、今までいつも友達を作る時に何かプレゼントを贈っていたからだ。モノをあげるとみんなすぐに自分と仲良しになってくれた。途中で、縁が切れそうになっても、そこでまたモノをあげると、またみんな仲良くしてくれて、一人ぼっちにならずにすんだ。そういうのが当たり前だったゆえ、「モノ」の力なしでは不安でしょうがない。
「モノをあげないでも、みんな仲良くしてくれるのかな・・・。なんか・・無理なような気がする・・・」
1時間目が終わり、休み時間がやってきた。友達を作るには最適な時間だ。とりあえずルリは辺りをキョロキョロ見回してみた。すると隣に座っている女の子と目が合った。思わず「ビクッ」として目をそらしたが、数秒後、また目を向けてみた。その女の子は、髪を二つに分けていて、ちょっと大人しそうな顔をしている。話しかけても、無視したり怒ったりはしなさそうだが・・・。
女の子は次の授業の準備をしようと、机の上にノートや教科書を並べている。ルリの心臓がドキドキ高鳴る。
『は・・話しかけなきゃ!!で、でもなんていえばいいの?「お友達になってください!」?ちょっとストレートすぎるかなあ・・。なんかもっと上手い声のかけ方は・・』
そんなことを考えているうちに、隣の女の子は席を立ってどこかに行こうとしている。あわてたルリは思わず、
「あっ、あのっ!!」
と声をかけた。女の子がクルッとこっちに振り返る。
「どうしたの?高円寺さん」
呼び止めるまではよかったが、次になんと言えばいいのかセリフが思い浮かんでこない。
「あ・・あの・・」
「?」
極度の緊張のせいか、無意識的にルリは財布に手が伸びていた。そう、いつものクセで「お金」で問題を解決しようとする時に、財布を取り出すのだ。「お金」で友達を買うことができるのなら、なんて簡単で楽なことだろう?こんな変な苦労なんかしなくてもいい。そんなお金の誘惑に負けそうな時だった。背後から冷たい空気を感じ、ゾクッとするルリ。ゆっくり振り返ると、陸がにらんだ目でこっちをジッと見ている。恐らく、『おまえ、金で解決しようとしてないだろうな?』と陸が言いたがっているのが、ルリは一発で分かった。もうお金は使えなくなった・・・。ここでお金を使ったら、きっと陸に嫌われることは間違いないからだ・・・。それだけは絶対イヤなのだ!
ルリは財布をひっこめ、グッと勇気を出した。
「あ、あのっ!もしよかったら、校舎の案内してください!!」
頭を下げながら、『お金を渡してないから、断れるかな・・』と不安がグルグル頭の中で回っていたが・・・・
「いいよ」
「へ?」
ルリはびっくりして頭を上げると、女の子はにっこり笑って、
「いいよ、校内案内してあげる」
と言ってくれた。ルリはパアッと目を輝かし、
「ええっ!?ほんとにいいの!?」
とまた聞いてしまった。女の子はクスッと笑い、手をルリの前に差し出してきた。
「私、木ノ実優希って言うの。よろしくね」
「優希ちゃんだけじゃなくて、他のみんなもお金なしで親切にしてくれたんだよ〜!!」
放課後、廊下を歩きながらルリは陸にうれしそうに今日一日の報告をし始めた。陸にとっては、お金なしで友達を作るのは当たり前のことだが、ルリにとっては初めてのことだったようで、まだその興奮冷めやらず、といった様子だ。
「だから言ったろ?お金やモノを渡さなくても、みんな仲良くしてくれるって。というか、それがこの世界では当たり前のことなの。今までのおまえの育ってきた環境がおかしいんだよ」
陸にそう言われ、思わず「うっ」とうなるルリ。どうやら陸にとっては「驚き」でも「喜び」でもなく当たり前のことのようだ。
「そっか・・これがフツーなんだ・・・」
自分にとっては「すごい!」ことでも、陸にとってはそんなに大したことなかったようなので、なんだかちょっとさみしいルリ。シュンとしているルリの様子に気づいた陸は、ポンとルリの頭に手を乗せた。
「でも、ま、ルリにしてはがんばったんじゃないの?」
珍しく自分を陸が誉めてくれた!しかも、いつもしかめっ面か怒った表情しか見せない陸が、久しぶりに自分に笑顔を見せてくれている。ルリのテンションは「グーン!!」と一気に上がっていき、ここが廊下のど真ん中だということも忘れて、
「陸!大好き!!」
と陸に抱きついてしまった。抱きつかれた陸はびっくりして、
「おっ、おい!!やめろって!!ここは学校の廊下だぞ!!」
と必死にルリを突き放そうとするが、なかなか離れない。なんかまるで、一度かみついたらなかなか離れないスッポンのようだ。しかも騒動を聞きつけた野次馬達がゾロゾロやって来て、ウワサのカップルを物珍しそうに眺め始めた。
「ちょ!?おい!!これじゃ、さらにウワサを広めることになるだろ〜!!はなれろ〜!!」
でもルリはギャラリーなんか全然気にならないようで、パッと顔を上げ陸を見つめる。
「ねね!陸、今から放課後デートに行こうよ〜!!私、放課後デートにあこがれてたの!!制服でデートってステキよね!」
「誰が行くかっ!それに、おれはこれから生徒会だ」
そう言って、やっと陸はルリを自分から離した。ルリはポンと手をたたく。
「生徒会?ああ、そういえば陸は生徒会長だったね!!私も行っていい?」
「え?生徒会に?」
「うん!ジャマしないから見学だけでもさせてよ〜!」
陸はしばらく考え込んでいたが、ここで断ったらまた何か騒動が起こるような気がしたため、
「ま、ジャマしないでじっとしてるんだったら別に来てもいいけど」
と許可した。
その頃、生徒会室では昼食だけでは物足りなかった凪がコロッケパンをモシャモシャと食べているところだった。もちろん、学校では昼食以外の飲み食いは厳禁である。でも凪はしょっちゅう生徒会室で隠れてパンやらお菓子やらを食べているのだ。ま、凪だけでなく他の部の生徒達も黙って飲食していることは知っているのだが。その時、
「おじゃましま〜す!」
とドアが開いて、ルリと陸が部屋に入ってきたので、凪は一瞬びっくりしてコロッケがノドにつまりそうになった。先生がやって来たのかと思って。
陸はパンを食べていた凪を発見し、
「凪〜、また先生に内緒でパン食ってんのかよ〜。ばれたらまたお説教されるぞ」
と言ったので、凪は頭をポリポリかきながら、あやまる。
「わりーわりー、腹減っててガマンできなくて、つい食べちゃってたよ。それより何?陸ってば、彼女連れてきてどうしたの?」
凪に「彼女」と言われて、ルリもまんざらではない様子だ。
「やだ〜、彼女なんて♪でも、ウソでもないよね、陸♪」
「誰が彼女だ・・・。絶対、おれはルリとはつき合う気はないからな」
陸にそう言われ、ルリは「ぷうっ」とほおをふくらませてみせた。
「ふーんだ。そんなこと言ってても、最後は私のこと好きになるんだからね、陸」
1人ブツブツ言っているルリをほっておき、陸は凪の紹介を始めた。
「で、ルリ。こいつは生徒会書記係の安藤凪だ」
「よろしくね、ルリちゃん♪」
やさしそうに微笑む凪の瞳を見て、ルリは『この人はいい人かも』という判断をした。なのでルリは陸にこそっと聞いた。
「ねえ、陸。凪くんもお金をあげなくても、お友達になってくれるかな?」
そう聞かれた陸は、凪を見つめ、一瞬考えたが、
「・・・・なってくれると思うけど・・でも・・」
と答えた。心配そうな目でこっちを見ている陸に、凪はニコッと笑い、
「もちろんお金をもらわなくても、お友達になるけど、くれるっていうんなら、喜んでもらうよ〜♪お金大好き人間だから♪」
とルリに手を出しながら言ったので、陸は「ぽかっ」と凪の頭をたたいた。
「おまえ、ルリの教育に悪い!」
凪は頭をさすりながら、ルリに舌をチョロッと出して笑った。
「っていうのは冗談。お金なんかなくても、もうルリちゃんとおれは仲良しだもんね♪」
ルリも凪が気に入ったのか、
「うん!よろしくね、凪くん!」
と言って握手した。なんか本能的に凪とは気が合いそうな感じがしたルリだった。握手しているルリと凪を見て、陸はなんか嫌な予感がした。
『もし・・この2人がセットになって暴走したら、果たしておれは止められるのだろうか・・・』
そんなふうに楽しそうに話している3人の声を、生徒会室の外でハルカが聞いていた。すごくイライラする。きっと今の状態で中に入ったら、間違いなく怒りで切れそうだ。だからこうやって外で気持ちを落ち着かせようとしているのだが、ルリと凪のバカげた笑い声が聞こえてくるたびに、ハルカの怒りはますます激しくなっていくのだった・・・。
「で、ルリちゃんは、今日は生徒会を見学に来たの?」
「うん!陸の仕事している姿が見たくて♪で、仕事が終わったら放課後デートするんだ〜♪」
ルリと凪が楽しそうに話をしている時だった。突然「ガラッ!」と大きな音でドアが開いた。皆が一斉に振り向くと、そこには重々しい表情をしたハルカが立っていた。
「あ、ハルカ、来てたのか?」
「よっ!ハルカちゃん♪」
ルリはハルカを見た瞬間、朝会った女の子だということを思い出した。そして、生徒会にやって来た、ということはハルカも生徒会の一員なのだろう。一見したところ、とても美人で頭が良さそうだ。今までルリの周りにはいなかったタイプゆえ、ぜひ仲良しになりたい。
「あ、あの」
ルリが呼びかけようとした声を、ハルカの声がかき消した。
「高円寺さんだったわよね。今から大事な会議を始めるから出て行ってくれない?」
ちょっと強めの口調だったため、凪は『あ、ハルカちゃん、かなり怒ってるな・・』と瞬時に分かったのだが、空気を読むのが苦手・・というか読んだことがほとんどないルリは、ひるむことなくハルカに向ってペラペラ話し始めた。
「それなら大丈夫だよ♪私、会議中は黙って、陸だけ見てるから♪会議の内容とか聞いても、全然分からないと思うし」
「ルリ・・おれのことなんか見てなくていいから、もう帰れよ・・。外で北浜さん待ってんだろ?」
「北浜なんか待たせておけばいいのよ。だって会議が終わったら、陸と放課後デートだもん♪」
その時だった。
「いいかげんにして!!」
『バン!!』とハルカが勢いよく机をたたいたので、ルリも陸も凪も「しーん・・」としてしまった・・・。ハルカは「キッ」とルリをにらんだ。
「あなたが今まで私立でどう過ごしてきたのか知らないけど、ここは遊びでやってるんじゃないのよ!!早く出て行ってよ!!」
思いも寄らないことをハルカに言われ、ぽか〜んとしているルリをかばって凪が間に入ってきた。
「ちょ、ハルカちゃん言い過ぎだよ。ルリちゃんは転校してきたばっかりで、学校のこといろいろ見て回りたいと思うし、見学ぐらい別にいいじゃないか」
凪が入ってきたことで、ますますハルカは機嫌が悪くなる。
「転校してきたばっかりだからって、何してもいいわけ?生徒会では学校の重要なことを決めてるのよ!外にもれたら大変な内容のことだって扱ってるのに、見学なんてもってのほかよ!!安藤くんは口をはさまないで!」
「で・・でも、ハルカちゃん・・」
「あ、いいよ、凪くん。私、今日はもう帰るよ」
ハルカと凪の間にルリが入ってそう言った。すんなり引き下がる様子のルリを見て、陸はびっくりした。だって、いつも何があってもひつこくくらいついているルリなのに、今日はよほどハルカの言葉が効いたのだろうか・・・。
だが、やっぱりルリはただでは引き下がらなかった。ハルカの前に一歩進み出て、手を差し出す。
「そのかわり、ハルカちゃんにも私のお友達になってほしいの。よろしく!」
ハルカは差し出された手を見て、しばし無言だった。なかなか手をとってくれないハルカゆえ、ルリが顔をのぞきこもうとした瞬間、クルッと背を向けた。
「悪いけど、私、あなたみたいな人とは気が合わないの。二度と話しかけないで」
そう言ってハルカは、机の上に散らかっていた資料を整理し始めた。
ルリはその瞬間、小さい頃の苦い記憶が頭の中によみがえってきた。あれは確か幼稚園の頃だったと思う・・・
*****
「ルリちゃん、お金持ちだから、私達みたいな貧乏人とは気が合わないよ」
「ほんとほんと、いっしょに遊んでも全然面白くないや」
あの頃と今の光景がだぶって見える・・・。「お金持ち」を理由に、仲間はずれにされた時は、ほんとにショックだった。別に好きで「お金持ち」の家に生まれてきたわけではない。たまたまそうだっただけで、中身は他の人達と同じように普通の人間なのに・・・。
誰も相手にしてくれなかった中で友達を作るために、ルリはおもちゃやお菓子をクラスメイト達に配り始めたのだ。そうしたらいつのまにか、ルリの周りに人が集まるようになってきた。もうさみしい思いはしなくなったのだが・・・・
*****
ルリはハルカの方に顔を向けた。
『今も・・そうしたらいいの?ハルカちゃんにお金やモノをあげたら、仲良くしてくれるの?ううん、きっと違う。ハルカちゃんも陸と同じタイプだ。お金やモノをあげたぐらいでは、心は動かせられない人間だ・・・・。それならどうしたら・・・・』
気まずい空気の流れている部屋にいるのが凪は耐えられないのか、陸のソデをひっぱり、
「お、おい、陸!なんとかしろよ!?おれ、ここにいるのがもう耐えられないんだけど!!」
と小声で助けを求めたが、陸はあっけらかんとした顔をして、
「きっと大丈夫。今、あいつは必死に解決策を考えているはずだから」
と言って、ルリを見つめた。すると、ルリがやっと口を開いた。
「じゃあ分かった!私っ、生徒会に入る!!」
意外なルリの発言に、3人は「え?」と目が点になる。ハルカは眉をしかめながら、
「ちょ、あなた私が言った言葉の意味、分かってるの?」
と聞くと、ルリは「うん」とうなずく。
「だって、私とハルカちゃんは会ったばかりで、お互いのこと何も知らないでしょ?それにクラスも違うし、めったに会うことがないから、生徒会で一緒に過ごせば仲良くなれると思うんだよね♪」
ルリの突然の提案にハルカは半分驚き半分あきれたような顔で「はあ!?」と叫んだ。。
「なっ、何言ってるのよ!!あのね、生徒会っていうのは、誰でも入れるわけじゃないのよ!!選挙して選ばれた人達だけが―」
「おれが特別に許可する」
陸がルリとハルカの間に入ってきた。不安そうな顔のルリに、陸は『もう大丈夫』とウィンクしてみせた。
「選挙はしてないから役職につけるんじゃなくて、『雑用係』でもやってもらおうかな、ルリには。」
ハルカは陸の気がおかしくなったのかと思った。
「ちょっと!?陸、何考えてんの!?こんな子を生徒会に入れるなんて、正気じゃないわよ!?なんで!?なんでなの!?」
陸はハルカにニッと笑って、
「ルリとハルカには仲良くなってもらいたいから」
と言った。その瞬間、ルリがハルカの背後から抱きついた。
「わ〜い!よろしくね、ハルカちゃん!」
ルリは「喜びいっぱい」という表情をしていたが、ハルカは思いもよらない展開にどうしていいか分からない表情を見せた。
「じょ、冗談じゃないわよ!!私は仲良くなんかなりたくないのに!!」
こうしてルリが「雑用係」として加わった、「新・青葉中学生徒会」が始動し始めた。
ルリとハルカのいざこざもとりあえず落ちつき、会議が始まり出した時だった。「ピカッ!」とドア付近が光ったような気がして、ルリが振り返る。
「どしたんだ?ルリ」
「え・・・なんか・・ドアの外で何かが光ったような気がしたんだけど・・」
「夕日が窓ガラスで反射したんじゃないのかな?」
「あ、そうかも。なんでもないよね」
何事もなかったかのように、前を向き直したルリだったが、光は夕日の反射でも気のせいでもなかった。
生徒会室の外で、カメラを抱えた男の子が1人立っていた。ドアの隙間からルリを見つめ、ニッと笑う。
「見つけた、ぼくだけの天使を―」