第4話:ルリの追っかけ?
「り〜く!」
ルリが中庭で陸を呼び止めた瞬間「パシャ」という音がする。あわてて振り返るが何もない。「パシャ、パシャッ」という音、最近ルリはよく聞くのだが、何の音かよく分からない。辺りをキョロキョロ見回していると陸が、
「どしたんだ?ルリ」
と声をかけてくる。
「あのね、陸。なんか最近、『パシャ、パシャ』っていう音がよく聞こえるの。なんだろう?」
ルリにそう言われ、陸は首をかしげる。
「パシャパシャ?パシャって魚が水の上を飛び跳ねるような音か?」
「う〜ん・・そんな音じゃないような気がするんだけど・・」
陸も辺りを見回してみるけど、これといって音が鳴るようなものは何もない。
「何もないし、水もないし、魚もいないぞ。気のせいじゃないのか?」
「気のせいなのかな・・ま、いいや♪陸が一緒にいてくれれば、怖くないもん!」
そういって、陸の腕にギュッとしがみつくルリだったが、
「ジャマ、離れろ」
と軽くあしらわれる。つれない陸に、プウッとほおをふくらませてみたが、でもそんなそっけない点も大好きなルリだった。
ルリと陸が立ち去った後、中庭の茂みがガサゴソと動き出し、カメラを持った黒ぶちメガネの男の子が1人飛び出してきた。
「高円寺るりちゃん・・・やっとぼくのイメージどおりの女の子に出会えたよ!!彼女のような女の子が現れるまでに、どれだけ待ったことか!!君こそ、ぼくの『天使』だよ!!」
そう叫んでいる彼は、写真部部長の柳原太一、中学2年生。写真大好きのカメラ小僧だ。
柳原は、隠し撮りしたルリの写真フィルムが入っているカメラを大事そうに抱えながら、校内3階のすみにある部室に小走りで帰っていく。勢いよくドアをあけると、そこには5名の部員達がテーブルを囲んで部長を待っていた。
「皆の衆!今日もルリちゃんの新作写真を10枚ぐらい撮ってきたぞ〜!!」
「お〜!!さすが部長!!やりましたね!!」
テーブルには今まで撮ったルリの写真が何枚も並べられていて、柳原はその一枚を手に取り見つめながら、
「サラサラの長い髪に、パッチリ大きな瞳。そして、ちょっと天然ボケで、単純すぎるほど素直な性格。これだけでも、ぼくのツボをついてくるけど、さらに『誰かを一途に想う』清純派キャラだ!!彼女こそ、ぼくが探していた『ヒロイン』なんだ!!」
と叫ぶと、部員達も「お〜!!」と掛け声を合わせた。
青葉中学写真部では、先輩の代から学園の「美少女写真集」を部誌をして発行してきている。これは学校中の男子にとても人気で、写真部の活動費の原動力になっている。それゆえ、学校内美少女写真を撮ることが写真部の任務なのだが、柳原はほとんどの美少女の写真を撮り終え、企画は行き詰っていた。今まで撮った写真の使い回しでは新鮮味が欠けるし、既存の美少女達を撮り直しても面白みがない。そんな時、突然空から天使が舞い降りてくるかのようにルリが現れたのだ。ルリが突然体育館に現れた時、柳原は一目でルリのファンになってしまった。それ以来、ルリの写真ばかりを追いかけているのだ。そう、ルリが「よく聞こえる」といっていた「パシャ、パシャ」の音は、柳原がカメラのシャッターを押す音だったのである。
「部長、これでほぼ次の『美少女写真集』は完成したも同然ですね!」
と、ある部員が言うと、柳原は首を横に振った。
「これで満足するのはまだ早いぞ。やはり写真を愛する者としては、やっぱりルリちゃんにいろんな衣装を着せて、写真撮影をしたいわけだ!そう、たとえば『メイドさん』とか、『ナースさん』とか、ね、ね!」
「さすが部長!!志が高い!あ、でも、ルリちゃんって大金持ちだから、メイドさんの経験はなさそうですが・・・。どちらかというと、メイドさんを雇っている立場では・・・」
「バカ!誰も素質までは期待はしてない!ただ着るだけでいいんだ!」
と、写真部でバカな話をしていると、突然シャーッとカーテンが開いて、女の子が3人写真部に乗り込んできた。
「さっきからルリルリって、うるさいわね!!」
「メイドなんて、もう古いのよ!」
「そうそう!時代は『王子』の時代なんだから!!」
現れた女の子達はマンガ研究会の部員達だった。というのも、学校内に部室が少ないため、マイナーな部は1つの部屋を半分に仕切って活動しているのだ。そういうわけで、ここの部室は写真部と漫研が仕切って使っているのだが、あまり大きな声で騒ぎすぎると、すぐに隣まで筒抜けてしまう。なので、相手の部が何の話をしているかも、聞きたくないけど聞こえてしまうのだ。そしてさらに両者はとても仲が悪かった。写真部が美少女を追いかけているなら、漫画研究会は美少年を追いかけているせいか、いつも意見が食い違い、けんかになるのだった。
漫研の部長河原すみれは、瞳を輝かせながら語り始める。
「やっぱりこの学校の『王子』といえば、高原生徒会長と、安藤凪様の『W王子』よ!立ってるだけで絵になるし、見てるだけで頭の中には妄想が広がって・・・・、ああ!あの2人が『禁断の恋』におちれば、私達の部誌もいつもの5倍は売れるはずなのに〜!!」
1人妄想の世界に走っていっている河原の横で、柳原は漫研の部室のテーブルに置かれていた部誌を手にとり、中をパラパラと見てみた。すると少女マンガの世界特有のキラキラした大きな瞳の絵で、陸と凪がかっこよく描かれているのだが、内容はまさに「禁断の恋」だった・・・。すぐさま部誌を閉じると、
「こんなくだらない漫画に登場させられたら、会長も安藤くんもさぞ迷惑だろうな!!あ〜、鳥肌がたつ!!」
と柳原が文句を言ったため、河原も負けずに戦闘モードに入る。
「くだらないマンガとは、何よ!!私達のマンガを侮辱する気なの!?そっちこそ何よ、スケベな写真ばっかり撮ってるじゃない!それこそ高円寺さんも迷惑よ!あ〜、やだやだ、カメラ小僧って!」
「スケベな写真って失礼な!!あれは『芸術』作品だ!!ほら、よく見てみろよ!!」
「全然芸術じゃないけど」
「おまえの目は節穴か!!ま、マンガ描いて現実から逃避しているような人達には、リアルな写真の素晴らしさは分からんだろうけどな〜」
その言葉にマンガ研究会部長河原すみれの怒りは、とうとう爆発してしまった。ビシッと柳原に指を向けると、
「それじゃあ、どっちがすごいか勝負しましょうよ!!今度発行するお互いの部誌、どっちがたくさん売れるで!」
と写真部に挑んできたので、柳原も「売り言葉に買い言葉」か、
「おう!のぞむところだ!!」
と受けてしまった。一気に緊張が写真部とマンガ研究会の間で走る。にらみあっていた柳原が、
「負けたほうの罰ゲームは?」
と聞くと、河原は、
「負けたほうが、さらに部室が削るというのはどう?」
と提案した。柳原はグッとこぶしを握る。
「分かった!やってやろうじゃん!!」
ただでさえ狭い部室を半分にして使っているのに、これ以上削られたら、どちらの部も活動の場を失いそうである・・。なので、この勝負、絶対負けられないのだ。
「とはいったものの、ルリちゃんに、どうやって写真を撮らせてもらおう・・・。単刀直入には頼みにくいけど・・」
マンガ研究会と「部誌の売上げ」で競うことになったものの、柳原はどうやってルリに写真のモデルになってもらおうか悩んでいた。いきなり「メイド服着てください!」なんて頼んだら変な人だし、無理やり連れ去ったら、それこそ事件になりそうだし・・・。そんなこんなで、頭をモヤモヤさせながら悩んでいると、前方からルリがスケッチブックを持って走ってくる。次の授業が美術なのだろうか?まあ、そんなのはどっちでもよくて、思わず柳原の目はルリに釘付けになる。サラサラのロングヘアーに、ウルウルした大きな瞳、愛らしい唇・・・、どれをとっても柳原の好みのタイプなのだ。
ルリとすれ違おうとした瞬間、思わず柳原は、
「あ、あのっ!!」
と声をかけてしまった。知らない人に声をかけられて、「ふぇ?」と首をかしげるルリ。
「あ、あのっ、おれ、写真部部長の柳原太一っていいます!」
そう自己紹介すると、柳原はルリの手をガシッとつかみ、顔を近づけ、
「お、お願いがあるんですけど、ぜひぼくの写真のー・・」
と言いかけた時だった。
「ルリに何か用か?」
柳原の背後に、陸がいつのまにか立っていた。あきらかに柳原を「あやしい人」と疑っているような目をしているので、柳原もあわててルリから手を離し、
「あ・・その・・ええと・・人違いでした!!ごめんなさい!!」
と謝りながら、その場から走り去った。
陸は逃げる柳原の背中を見ながら、
『確かあいつ、写真部の部長・・・・?なんでルリに声を?』
とあやしんでいると、ルリが目の前をうれしそうにピョコピョコ飛び跳ねている。
「うれしいな♪」
「へ?何が?」
「フフ、だって、陸がヤキモチ焼いてくれたもん♪他の男の子からの誘惑から、守ってくれるなんて!!」
そう言って、目を輝かせているルリに、陸がポツリと一言。
「ヤキモチじゃねーよ。おまえに何かあったら、うちがつぶされるんだよ。おまえの親父に」
その瞬間、ルリは「ガーン」とショックを受けた・・。そうだった・・、確かにルリの父が陸にそんなことを言ってた記憶がある・・・。
どうやら、陸がルリを守るのは、「自分の家」のためらしい。
「そっか・・残念・・」
と落ち込むルリだったが、陸に、
「おい、早く美術室に行くぞ。もうチャイムが鳴るんだから」
と声をかけられたので、あわてて走り出した。
「ああ・・やばかった・・・」
陸にひるんで逃げた柳原は、ふ〜っと一呼吸ついた。すっかり忘れていたが、いつも陸がルリを見守っているのだ。なので、ルリの写真を撮るためには、なんとか陸と引き離さないといけない。それはそれで難しそうだ。だが、決して柳原はあきらめたわけではない。
「待ってさえいれば、ルリちゃんが1人になるチャンスだってあるはずだ!絶対あきらめないからな!!」
執念だけは人一倍持っている柳原だった。
その日の放課後、生徒会室にやって来た陸は、ハルカと凪に昼間の出来事を話し始めた。
「へ?写真部がルリちゃんの写真を撮ってるの?」
マンガ雑誌を読んでいた凪が驚いて顔を上げる。
「ああ、なんか撮ってるらしい。めんどうなことにならなかったらいいんだけど・・・」
頭を抱えている陸に、ハルカは眉をつり上げながら、
「そんなの陸の勘違いじゃないの?写真部がルリさんの写真を撮る理由が分かんないんだけど」
と一言。ハルカ的には、陸がルリのことで頭をいっぱいにしているのがイヤなようだ。凪はそのことに気づいているが、全く気づいていない陸は、
「いや、ハルカ。ルリが最近『パシャパシャ』って音がするって言ってて、おれも気のせいかと思ってたけど、それってよく考えたらカメラのシャッターの音っぽいだろ?それに今日は写真部の部長がルリにせまってたんだぞ。絶対、なんかあるって」
と、ひつこくルリのことを心配している。陸がルリの心配をしているのは、ルリの父から「世話役」と任命(?)されたからである、というのはよく分かっている。だけど、なんか面白くない。ハルカはイライラしすぎて、思わず「バンッ!!」と激しく机をたたいて立ち上がった。
「なによっ!ルリルリルリって、そんなにルリさんのことが大切なの!!」
ハルカが突然怒り出したため、陸はビクッとしてしまう。そんなハルカの様子を見ていた凪が笑いをこらえきれず、
「ププッ、もしかして、やきもち?」
と小声で言ったため、ハルカはドキッとして我に返った。凪の方に振り返ると、凪はまだこっちを見てニヤニヤ笑っている。ハルカは、こんな感じですぐ人のあげ足をとる凪の性格が大嫌いだ。逆に凪は、自分の一言一動にイライラするハルカを見るのが楽しくて仕方ないため、毎度毎度ハルカを怒らせると分かっていても、ついついやってしまうのだ。
「余計なこと言わないでくれる?安藤くん」
「アハハ、ごめんごめん。余計なことだった?図星かと思っちゃったんだけど?」
「!?」
と、ハルカと凪がケンカをしている横で、陸はまたもや、
「そういやルリは?放課後、生徒会室に来るって言ってたけど」
と、ルリの心配をしていたため、ハルカはまたムカッとして、
「ルリさんなら、コピーを取りに行かせたけど!!」
とトゲがある口調で答えた。その瞬間、陸は急に不安にかられた。
「コピー・・、コピーって資料室だよな・・・。ルリが1人でコピー・・・・。な、なんかすごく心配だ!」
そう言うや否や、陸は生徒会室を飛び出し資料室に向って走り出した。呆れかえってポカ〜ン口をあけているハルカに、凪が一言。
「いや〜、陸ってば心配性だよね〜。ハルカちゃんもあれぐらい陸を心配させてみたら?」
ハルカはさらにムカッとした。
「ルリ!!」
資料室に飛び込んだ陸が、ルリの名前を呼んだ。ルリは今にも泣きそうな顔で振り返り、
「陸〜!!どうしよう、コピーが止まらないよ〜!!」
と言ったため、陸はズサーっと床に滑り込んでしまった。が、今は倒れている場合ではない。すぐさま起き上がると、コピー機を見てみた。すると、そこには真っ青になるような光景が広がっていた。
「ご、ご、ご、500枚って、いったい何枚コピーしてんだよ!!5枚でいいんだぞ!!」
そう、ルリは5枚のコピーをなんと500枚もコピーしていたのだ!
「え?5枚ってどうやって設定するの?スタートボタン押せばよかっただけじゃないの?」
きょとんとしているルリに陸は叫ぶ。
「おまえ、コピーしたことないのかよ!!コンビニとかで!!」
「うん、ないよ」
「・・・・・・・」
そうだ・・、ルリはバリバリのお嬢様なのだ・・。コンビニでコピーなんかするはずないし、家でも召使か誰かが代わりにコピーをしてるはずだ・・。コピーの操作を知らなくても、全く不思議ではない・・。
陸は目の前に山のように積まれている500枚のコピーの束を見て、大きなため息をついた。
「1枚10円もするコピーが、500枚で5000円・・・。おれの1ヶ月のこづかいより高い・・・」
部活で使うコピー代は、全て部費から引かれるので、財政難の生徒会としては5000円の出費は痛いのだ・・。
それを聞いたルリはキョトンとして、
「たった5000円でいいの?それぐらいなら出すよ」
と言っている。さらには、
「でも、コピーって1枚10円なんて、とっても安いんだね〜!!すごい、コピーって!!」
とうれしそうに言っている。そんなルリを見た陸は一言。
「おれ・・・やっぱりおまえと一緒に生活していく自信がないかも・・・・。金銭感覚が違いすぎる・・」
「ええっ!?」
ルリと陸がそんなやり取りをしていると、
「とりあえず、5000円は生徒会費から何とかして、ミスコピーは再利用に回して、無駄は避けましょう」
とハルカが間に入ってきた。ルリのミスでヨロッときていた陸は、
「ごめん、ハルカ。フォローしてもらって」
と、ハルカの提案で少しだけ元気を取り戻したみたいだ。ハルカはキッとルリをにらみながら、ヨロヨロしている陸の手をとり、
「いいのよ、陸。元はといえば、私がルリさんにコピーを頼んだのが悪いんだから。やっぱりお嬢様育ちじゃ、何もできないみたいね」
と言って、ミスコピーを抱えて生徒会室に戻っていく。そんな2人の後姿を、ポツンと1人立って見つめているルリ。
「そっか・・みんなコピーの使い方ぐらい知ってるんだ・・・。私ぐらいなのかな・・コピーのとり方も知らないのは・・」
ションボリしていると、ポンと肩をたたかれる。振り返るとニコニコ笑っている凪が立っていた。
「大丈夫♪誰だって最初は失敗するんだから、ね♪」
凪にそう励まされたルリだったが、でもやっぱりちょっと悲しかった。
「下校の時刻です。校内に残っている生徒は・・・・」
下校の時刻を知らせる校内放送が響き渡る頃、ルリはまだ中庭のベンチに座って、落ち込んでいた。
「陸に喜んでもらいたくて、生徒会の仕事とかがんばろうと思うのに、いっつもその逆で困らせるか、怒らせてばかり・・・・。私と違って、ハルカちゃんはしっかり陸のお手伝いしてるのに・・・・・。どうしたらいいんだろう・・。どうやったら陸は喜んでくれるのかなあ・・・」
誰かを喜ばせることがこんなに難しいことだとは思わなかった。パパは、ルリがニコニコしてるだけで喜んでくれるし、私立にいた時のクラスメイト達も、ルリがいるだけでニコニコしてくれていた。でも、陸はちっとも喜んでくれない。陸の笑顔を見たこともほとんどない。逆に、怒った顔や困った顔だったらもう何千回と見ているような気がする。いったいどうしたら陸は喜んでくれるのだろうか・・・。
その時だった。
「高原会長を喜ばせたいの?」
ふっと顔を上げると、目の前に見覚えのある顔が。そう、確か朝、ルリに声をかけてきた男の子だ。
「あ、確か、写真部の部長さん!」
「おお!覚えてくれていたんだね!!うれしいよ!!それより、会長さんとケンカしたの?」
柳原はやさしくルリに声をかける。なのでついルリもポツリポツリと言葉が出てしまう。
「ケンカ・・じゃないけど、陸を困らせてばっかりだから、どうにかして喜ばせたいんだけど・・」
シュンとしているルリを見た柳原はニヤリと笑い、1つ作戦に出てみた。
「おれ、会長の喜ばせ方知っているよ」
「ええっ!?本当!?」
ルリは驚いて柳原の顔を見る。柳原は大きくうなずき、
「それはね、写真集を作ることだよ!!」
と提案した。単純ゆえすぐにだまされるルリだが、さすがに今回は、
「写真集?なんで写真集なの?」
と疑問を持ったようだ。そう聞かれて、一瞬ドキッとした柳原だったが、すぐさま適当なウソをつく。
「ええっと、それはね。男なら誰でも、かわいい女の子の写真集を見たら喜ぶものなんだよ。だから、高原会長もルリちゃんのかわいい写真をいっぱい見たら、きっと喜んでくれるって!」
ルリは陸が自分の写真集を見ながら、喜んでいる場面を想像してみた。想像の中の陸は、写真集をながめながら満面の笑みで喜んでくれている。うん、悪い気はしない。なのでルリは手を上げて、
「ハイハイ!やるやる!私やりたい!!陸が喜んでくれるんだったら!!」
と自ら志願したため、柳原は心の中でガッツポーズを決め、
「じゃあ、さっそくスタジオに行こう!」
と言って、ルリを連れて学校を出たのだった。
その頃、陸は大量のミスコピーの処理をし終わって生徒会室に帰ってきた。ま、紙はなんとか無駄にはならなくて済んだが、5000円の出費はやっぱり痛い・・。
「ルリー、コピーはどうにかなったから・・って、あれ?ルリは?」
生徒会室には凪しからおらず、辺りをキョロキョロ見回す陸。
「ルリちゃん?ルリちゃんなら、ここには戻ってないよ?おれはずっと陸と一緒にいるんだと思ってたけど」
「え?おれはてっきり凪と一緒に、生徒会室に戻ってきてるものと思ってたんだけど・・」
机の上を見ると、ルリのカバンが残ったままだ。
「カバンがある・・ということは、まだ帰ってないことだよな・・・。って、あいつ、どこ行ったんだよ!」
窓から運動場を見回している陸の背後で凪が、
「そういえば、さっきルリちゃん、陸に怒られてしょんぼりしてたなあ〜。もしかして、誰かに甘い言葉でもかけられて、ついていっちゃったんじゃないの?」
と半分冗談交じりで言ってみたのだが、陸は思いっきり真に受けてしまった。
「あ・・・ありえる・・・・、ルリなら・・・・」
あの単純バカな性格だったら、口車に乗せられればすぐ誰にでもついていくはずだ。そんな状況のところへ、ハルカが資料を持って部屋に入ってきた。
「陸、この書類にはんこを・・・」
と、言いかけようとした瞬間に、
「おれ!ルリを探しに行って来る!!」
と勢いよく陸が生徒会室から飛び出して行ったため、ハルカが持っていた書類が風でババッと飛ばされてしまった。ハルカはあわてて陸の背中に向かって、
「ちょ、ちょっと陸!!どこ行くのよ!!書類にハンコ押してもらいたいんだけど!?」
と叫んだが、陸はすでに遠くの角に消えていた。ぽか〜んと立っているハルカに、凪が耳元でささやいた。
「陸をおとしたいなら、いっつも気にかけていないと心配なぐらいの女の子の方がいいのかもね」
今日2回目の凪のイヤミにハルカはとうとうブチッと切れる。そして思いっきり、凪の足を踏んづけてやったのだ。
「かわいくない女で、悪かったわね!!フン!!」
そしてハルカもしぶしぶ陸の後を追ったのだった。踏まれた足を抱えながら凪は苦笑する。
「いたたた・・。でも、見ていて飽きないんだよな〜、ハルカちゃんって」
凪もピョコピョコはねながら、2人の後を追いかけた。
陸はいつのまにか写真部の部室の前に立っていた。もし、ルリを連れ去るとしたら、今一番学校内で怪しいのは写真部だからだ。でも、学校外でルリが連れ去られていたとしたら、それはもう陸の手ではどうにもならない事件だ。なので「学校内にいてほしい!」と切に願った。
「コンコン」と軽くドアをたたき、部室に入る。
「失礼します・・」
と、陸が部室に入るや否や、写真部と同室の漫研の部員達が、
「キャー!!生徒会長よ!!生王子よ!!」
と異様なまでに騒ぎ出したため、陸は思わずびびってしまった。部員達が勢いよく騒ぎ出したせいか、描いていた原稿やらペンまでが宙を飛び、そのうちの1枚がフワリと陸の目の前に落ちてきた。
「ん?なんだ、これ」
原稿を見た瞬間、陸はかたまった。すると背後から、
「お〜い、陸!ルリちゃんいたか?」
と、陸を追いかけてきた凪とハルカも漫研の部室に足を踏み入れた。凪は、陸が何かを見て固まっている様子だったので、後ろからヒョイとのぞいてみた。するとそれには、
『陸:「凪!好きだ!」
凪:「陸・・、あ、でもここは生徒会室・・・」
陸:「そんなの構わない!!おまえが好きなんだ!!」』
という内容の描かれたマンガが載っていた・・・。しばらく固まっていた陸だったが、やがて、
「なっ、なっ、なにを描いているんだ、君たちは!?なんでおれが凪のこと好きだなんて言ってんだよ!!」
と叫んだため、漫研の部員達は、
「そ、それは同人誌で、私達の妄想の世界を描いているだけですっ!妄想ぐらい許してくださいよ〜!!」
と主張した。
「も・・妄想って・・」
あまりの過激な設定にショックを受けている陸とは逆に、凪は原稿をどんどん読み進み、
「へ〜、おれと陸のBL系って、うけるの?」
と質問をしたので、部員達はますます調子に乗り、
「はい!!学校中の女の子達に大人気なんですよ〜!!やっぱり会長と凪君は、青葉中のアイドルであり、王子ですから〜!!」
と再び騒ぎ出した。そこで凪は、陸の手をつかんでグイッと引き寄せると、
「んじゃ、仕方ない♪陸、そろそろおれ達の本当の仲をバラすか?」
と言って、キスしそうなぐらい顔を近づけたので、漫研の部員達は「キャ〜ッ!!!」とかなきり声で叫んだ。その声の中には、ハルカの叫び声も混ざっていたと思われる。でもハルカは、もしこれがルリと陸のキスシーンだったら、めちゃくちゃ怒ったと思うが、陸と凪ならなぜかちょっと許せるような気がした自分の気持ちに疑問を持ってしまった・・・。部員達にはいっさいの疑問がなく、2人がキスするところを見届けようと思ったが、すぐに陸が、
「って、何アホなことやってんだよ!今はルリを探してる最中だろ!?」
と言って、凪の頭をポカッと軽く叩いた。その瞬間、部員達からは「あ〜あ・・」と残念な声がもれる。いつもマンガの中の妄想の世界を、現実で実写でやってほしかったようだ・・・。
陸がルリを探している、という話を聞いた漫研部長河原すみれは、
「会長、高円寺さんをお探しですか?高円寺さんなら、写真部部長に連れて行かれましたよ」
と答えたため、陸は目をまん丸くさせた。
「な、なに!?やっぱりあいつに!?」
「ハイ。なんか美少女写真を撮るそうで、メイド服とかアニメキャラの服を高円寺さんに着させるみたいです。男のロマンとか言ってましたよ」
陸はどんどん青ざめて倒れそうになった。するとそれに追い打ちをかけるように凪が、
「そして写真が、美少女マニアに高く売られちゃうんだよね〜」
と言ったので、完全に陸の頭の中は真っ白になった。自分がついていながら、ルリがそんなものに利用されるなんて・・・・。あまりのショックに、どんどん意識が遠のいていくような気がしたが、今は倒れている場合ではない!
「撮影ってどこで行われているんだ!?」
「え・・確か、柳原くんちが写真屋さんだったから、たぶんそこのスタジオで・・・」
「スタジオか!」
そして陸はバッと部室を飛び出し、ルリの元に走った。
「頼む!!無事でいてくれ!!」
そんな陸の心配をよそに、ルリは柳原の家のスタジオに着き、たくさん並んでいる貸衣装に目を輝かせていた。
「わ〜!!すごいね!いろんな洋服がいっぱい!!」
ナース、ドレス、どこかの国の民族衣装っぽいもの、フラダンス、着ぐるみ等々、ざっと見ても50種類ぐらいの衣装がそこにはあった。柳原は、そこから1着の衣装を取り出す。
「じゃあ、ルリちゃん。まずはウェイトレスさんの衣装からいってみようか♪」
数分後、着替え室からルリが出てくる。
「柳原くん、これでいいかな?」
緑色を基調としたウェイトレス衣装に、真っ白のエプロンが映える。フリフリのスカートが、歩くびにヒラヒラ揺れるのが柳原の写真魂に火をつけた。
「おお〜っ!!ルリちゃん、かわいいよ!!」
だが、ルリは鏡を見ながらちょっと眉をしかめている。
「でも・・陸、ウェイトレスさん好きなかなあ・・」
「ええっ!?」
「辞める」と言い出すのかと、びっくりした柳原だったが、ルリはスタジオの奥にあった真っ白なウェディングドレスを指差し、
「私としては、あそこにあるウェディングドレスが良いと思うんだけど!!」
と目を輝かせながら言ったので、ホッとした。ルリとしては、ウェイトレスさんより花嫁さんのほうが興味があるらしい・・。柳原的には、ウェディングドレスはどうでもよかったが、写真家としてモデルをやる気にさせるために、
「じゃあ、後でドレスも着ていいからね♪」
と言うと、ルリは大きな目をさらに大きくして、
「本当!?やった〜!!すっごくうれしいよ〜!!」
と大喜びしている。その様子があまりにも無邪気だったので、柳原は一瞬良心がチクッとしたような気がした。するとルリがトトトっと柳原に駆け寄り、
「じゃあ私、陸のためにがんばってポーズ決めるから、柳原くん、写真お願いします!」
と頭を下げてきた。
「ヘヘヘ、私、あんまり写真って撮ることがないから、どんな顔していいか分かんないけど、陸を喜ばす協力をしてくれてる柳原くんのためにも、がんばるね!!」
この言葉とルリの笑顔で、柳原は完全に良心が痛んだ・・。「陸を喜ばす」というのは真っ赤なウソで、自分の写真集を作りたくて、だましてルリをここまで連れてきたのだ。でもルリはそんなことちっとも疑ってなくて、素直に「陸のために」と思いがんばろうとしている・・・。ルリがもうちょっと嫌な性格だったら、だましたまま撮影しても全然気にならなかっただろうが、ここまで素直すぎるとかえって辛い気持ちになってくる。
「あ・・・あの・・・ルリちゃん・・実は・・・」
柳原がルリに本当のことを言おうとした瞬間だった。突然スタジオのドアがバンっと開いて、
「ルリ!!無事か!?」
と陸が飛び込んできたので、ルリも柳原もびっくりして飛び上がった。
「陸!?」
「ル・・・」
陸はルリのウェイトレスさん姿だったのを見て、一瞬言葉を失った・・。もう、変な撮影会は始まっていたのだろうか?これは何着目なのだろうか?と、頭の中にいろんなことがワ〜ッと渦巻いていく。
「お、おまえっ!!なんてかっこうしてるんだ!?」
めちゃくちゃ怒っている陸にルリはびびる。
「え、だって、陸が喜んでくれると思って・・・」
「はあ!?なんておれが、ルリがそんな服を着たぐらいで喜ぶんだよ!?」
「ええっ!?喜んでくれないの?かわいいとか、なんとか・・」
「思うか!!というか、心配かけんな!!」
陸に攻められているルリを見かねた柳原は、
「会長!ルリちゃんは悪くないんです!!元はといえば、無理におれがルリちゃんを連れてきたんです!!」
と叫んだので、陸の怒りの矛先はルリから柳原に代わった。
「そうだ!原因はおまえだった!なんでルリの写真を撮ろうなんて思ったんだ!?」
「そ、それは・・・・学校中のルリちゃんファンの男子生徒のために写真集を作りたかったからです!!」
「へ?ルリファン・・?」
予想外の発言に陸の目は点になった。
「ルリファンなんて、いるのか?」
「ハイ!会長は知らないかもしれませんが、ルリちゃんの清純派キャラに萌えている男子はけっこう多いのですよ」
その言葉に、また陸は意識が遠のいていきそうになった・・。自分の敵(?)は写真部部長だけではなく、その他諸々の男子生徒でもあるようで・・・・。
「だから、おれもその人気を利用して、写真集を作れば、部誌も売れて写真部をもっともっと大きくできると思ったんです!!」
柳原のさらなる発言が、陸の機嫌をさらに損ねた。
「ルリの写真集で、お金をもうけようと思ってたのか!?まだ学生の身なのに、そんな悪徳なことやろうとしてたなんて、許されない行為だぞ!?」
怒る陸に、柳原もビクッとする。そして陸はまたルリの方をキッとにらんで、
「ルリもルリだ!誰かが言った言葉をすぐに信じて、こんなところまでノコノコついてくるなんて!どれだけおれを心配させたらいいんだ!!」
と怒ったため、ルリは今にも泣きそうな顔になっている。せっかく陸を喜ばせることができる、と思って柳原についてきたのに、それが逆効果となって、さらに怒らせているのだ。もうどうしていいか分からなくなった・・・。その時だ。柳原が陸に叫んだ。
「会長!ルリちゃんを怒らないで下さい!ルリちゃんの笑顔は、ファンではなく、会長、あなただけに向けられるものなんですよ!!」
意外な言葉に、陸は「え?」と驚いた。柳原はカメラを握りしめながら話始めた。
「おれにだまされて、ここまで連れてこられたことも知らずにルリちゃんは、あなたに贈る写真を撮ると信じてがんばろうとしてたんです・・・。いつもあなたを怒らせてばかりだから、少しでも喜んでもらい、という一心な気持ちで・・・。かわいい写真を撮って、会長に贈れば、きっと会長も笑顔になってくれると思って・・・。だから、ルリちゃんを怒らないであげてください」
柳原にそう言われ、陸は後ろで今にも泣きそうな顔で小さくなっているルリを見た。ルリは消えそうな声で、
「ご・・ごめんね・・陸・・・」
とつぶやいた。
「・・・・・」
自分を喜ばせたくて、写真を撮ろうなんて・・・本当にバカなヤツ。そんな写真撮ったぐらいで、自分を喜ばせるわけがないのに、それを信じてこんなとこまでノコノコついてくるなんて・・・。でも・・・・
「ルリ」
陸に呼ばれ、ルリはビクッとする。そこへ陸を追いかけてきたハルカと凪もスタジオに姿を現した。
「おまえ、おれを喜ばせたいって言ってたけど・・」
ルリはまた陸にしかられるのではないかと思い、怖くて陸の顔を見れなかった。すると陸は、ルリの頭を軽くコンとたたくと、
「おれを喜ばせていたいと思うんだったら、おれの目の前からいなくなるな!!」
と言ったので、ルリは予想外の言葉に驚いて顔を上げる。すると、陸は照れているのかちょっと顔が赤い。
「そ、そのっ!おまえの姿が見えなくなるだけで心配になるんだから!!それで胃も痛くなるし!そのうち胃に穴が開くのかもしれないんだぞ!!だから―」
ルリが突然、陸の腕にギュッとしがみついてきたため、陸はびっくりする。すると、ルリは、
「陸!ごめんなさい!これから、ちゃんと私、陸のそばから離れないでずっと一緒にいるよ!!」
と必死に謝っているので、陸の顔にも安堵の表情が見え、
「ったく・・もう心配かけんなよ」
とルリのことを許したようだった。
その様子をちょっと離れたところから見ていた凪は、
「よかった、よかった」
と胸をホッとなでおろしていたが、ハルカは面白くない顔をしたままだった。苦虫をつぶしたようなハルカの顔に、またもや凪は「ぷぷぷっ」と笑いそうになったのだが、ここで笑ったら、今度は足を踏まれるだけではすまなそうだったので、必死に笑いをこらえていた。
そんな感じで、仲直りをしたルリと陸の間に柳原が、
「じゃ、仲直りしたところで、写真を撮らせて〜!!」
と割り込んできたので、
「はあ!?」
と2人は叫んだ。
「柳原、おまえ反省したんじゃなかったのか!?」
「反省しましたよ。だましたことは反省したから、今度は正々堂々と真正面から写真を撮ることを申し込んでるんじゃないですか」
さすが美少女の写真を撮ることに燃えている写真部部長だけあって、ちょっとやそっとのことでは引き下がらないようである。だが、陸としてもそう簡単にルリの写真を撮らせるつもりはない。一応、ルリパパから預かっているお嬢様であるし、何しろ「自分の家」が賭けられている。
「ダメだ!!ルリは物じゃないし、部誌で稼ごうなんて中学生らしくない考え方だ!!」
「会長、そこをなんとか!別にいやらしい写真を撮ろうとしているわけじゃないんですし」
「いやらしい写真って、こんな服着せてるだけで、普通の写真じゃないだろ!?ダメだ!!」
陸と柳原がかけ合っていrと、
「それじゃあさ、生徒会メンバーでメイドさんと執事の格好をして記念写真撮ろうよ♪」
と突然凪が乱入してきたので、陸と柳原はびっくりした。
「め、メイドと執事?」
「あれ?陸、知らない?今女の子の間では、『執事』が大人気なんだよ。『お帰りなさいませ、お嬢様』って言ったりするの」
「し・・知らない・・そんな世界・・・」
すると、陸達を追いかけてきていた漫研の部員達が、
「きゃ〜っ!!会長と凪様の執事姿が見られるの!?これは、ぜひ次の漫画のネタにさせてもらいますわ〜!!」
と叫んだかと思えば、柳原はハルカを見て、
「『ツンデレ』ハルカ様のメイド姿も写真におさめられるなんて!!これは絶対売れる!!ルリファンと、ハルカファンの2派に売れる!!」
と興奮している・・。そんな異様な光景を見たハルカは、
「冗談じゃない!!私はそんなくだらないことには参加しないわよ!!」
とクルッと背を向け、帰ろうとした。すると凪がボソリと一言。
「じゃあ、陸とルリちゃんがラブラブな写真を撮っても、平気なんだね」
この言葉は、ハルカの足をぴたっと止めた。自分がここからいなくなれば、恐らくルリは好き放題するだろう。凪も面白がって、ルリと陸がいちゃつくような写真を撮らせるかもしれない。そんなことは、絶対許したくない!!
「分かったわよ!!やればいいんでしょ!!」
半分やけくそのような声で叫んだため、凪は、けらけらと笑う。
「ハハハハ、ハルカちゃん素直だね〜」
「ハルカって、呼ばないで!!」
今日1日、ハルカと凪はけんか(?)ばかりの1日だった。
こうして、なんだか分からないけど、生徒会メンバーでコスプレ(?)写真を撮ったのでした。
その夜、陸はルリを世話役の北浜が待っている場所まで送っていく途中だった。ルリが、
「今日は、すっごく楽しかったね♪」
とのん気なことを言ったので、陸は押さえていた怒りが再び再燃してきた。
「『楽しかった』わけないだろ!!元はといえば、おまえが誰にもフラフラついていくから、こんなハメになったんだぞ!!」
「ごっ、ごめんなさい!!」
さらに陸に怒られるのかと思っていたルリだったが、陸が急にだまりこんだので、どうしたのかと思う。すると陸はルリに背を向けたまま、しゃべり出した。
「今回は、学校内のヤツだったから、おれの力でもどうにかなったけど、悪い人間にほんとに誘拐とかされたらどうするんだよ!そうなったら、おれの力じゃどうにもできないし、それにおまえの親父さんに合わす顔がほんとになくなるだろ・・・・」
陸がそう言った瞬間、ルリは陸が『おまえのそばにいるのは、家がつぶされないため』と言っていたのを思い出した。
「・・・・陸が、私のことを心配してくれるのは・・・やっぱり陸の家がつぶされないため?」
ルリがそうつぶやいたので、陸は思わず振り返った。ルリはちょっと悲しそうな顔をして、うつむいている・・。そんなルリに、陸は大きな声でこう言った。
「あのな、んなのうちの家より、ルリの命のほうが大事なのに決まってるだろ!!常識だ!!ほら!さっさと帰るぞ!!」
照れ隠しなのか、早足で歩き始めた陸を、ルリはうれしそうに追いかける。
「陸!だ〜い好き!!」
「バカッ!!こんなところで叫ぶな!!近所迷惑だ!!」
まだ陸の気持ちの中には「家のため」というのがあるかもしれない。でも、いつかそんな気持ちを無くさせるぐらい、自分のことを好きになってもらいたい、と思うルリであった。