第5話:試験!試験!
高円寺家の朝―
「で、ルリ。学校はどうなんだ?」
パパが新聞を読みながら、ルリに聞いてきた。ルリはウィンナーをフォークでさしながら、うれしそうに答える。
「すっごく楽しいよ!パパ!毎日、陸に会えるし、生徒会もめっちゃ楽しいし、お友達も優しいし、私立の時より楽しいかも♪」
ルリとしては素直な感想を答えただけだが、パパの胸には「グサッ」と突き刺さるものがあった。
『くそっ!!公立の生活になじめず、絶対1、2週間ぐらいでギブアップすると思ってたのに!ルリのやつ、思いっきり楽しんでるじゃないか!しかも、まだあの弁当屋の息子のことが好きだなんて!!だが、あきらめんぞ!!絶対ルリを私立に戻してみせる!!』
その時、パパの頭に名案が浮かんだ。
「そういや、ルリ。確かもうすぐ中間試験だったよな?」
「うん、試験みたいだよ」
「そういえば覚えているかな?パパと約束したこと」
「へ?何の約束?」
ルリはパパと何の約束をしたか全然記憶がなくて首をかしげたが、パパは覚えているようだ。
「ほら、公立に行かせる代わりに、一生懸命勉強するって約束だよ」
そう言われて、ルリは「ああ」と思い出した。
「うん、したよ。勉強するって」
パパはニヤリと笑った。
「それなら、今度の中間でどの教科も平均点以上取れるな♪」
「ええっ!?」
予期せぬ事態に驚いたルリは、屋敷内に響き渡りそうなぐらい大きな声で叫んだ。
「パ、パパっ!?それはどう考えても無理だよ!?ルリの成績を知ってるでしょ!?万年、赤点組って!!」
「何が無理なんだ?約束したなら、それぐらいは実行してもらわないと、パパも納得がいかないよ」
パパが冗談で言っているようではないので、ルリは思わずショボンとしてしまったが、それだけでは済まなかった。パパはニッコリ笑いながら、
「ということで、ルリ。今度の中間で平均以上取れなかったら、私立に戻すからな♪」
と、とどめをさすような言葉を言った。その瞬間、ルリの目の前は真っ白になった・・・・。だって、今まで試験といえば、ほぼ50点以下で、ひどいときは10点台の時もあった。そう、平均点以上なんて取ったことなんてない。なので、平均点以上なんて、夢のまた夢のような話なのだ・・。
「平均以上取ったらいいだけじゃないか。難しいことでもないだろ?」
放課後、生徒会で朝パパに言われたことを皆に相談したところ、陸からこんな答えが返ってきた。しかも、「しれっ」とした顔で。ルリとしては、陸に「それは大変だ!?」とあわててほしかったのだが・・・。
「むっ、難しいことだよ!!だって私、平均以上とったことって、めったにないもん!!」
「んなこと、自信持って言うなよな・・」
そんなルリと陸の会話を聞いていたハルカが、横から口をはさんできた。
「平均以下って、あなた学校で何を学んでいたわけ?」
あきらかにルリのことを軽蔑したような目で言ってきたので、ルリは萎縮してボソボソと小さな声で答える。
「え・・・その・・別に勉強しなくても、誰も何も怒らなかったから・・・」
その答えは、ハルカを怒らせた。
「バッカじゃないの!?誰も怒らなくても、勉強するのが当たり前じゃない。あなた何のために学校に来てるの?学校は遊び場じゃないのよ!」
真面目なハルカゆえ、「学生=勉強」というのが当たり前で、勉強しない人の気持ちが全然分からないのだ。陸とハルカに同情してもらえなかったルリは、思わず、
「じゃ、じゃあみんなは平均以上の成績をとってるの!?」
と聞いてみたところ、生徒会室のすみの方でマンガを読んでた凪が、
「陸は、学年1位で、ハルカちゃんは二位で、おれが三位だったりしてるよ」
と答えたため、さらにルリはショックを受けた。
「わ・・・私だけ、バカだったんだ・・・」
うずくまってどんよりしているルリを見た陸が、
「とにかく、勉強したらいいだけの話だろ?何もそこまで落ち込まなくても・・」
と励ましたが、ルリは、
「べっ、勉強したって、絶対無理だもん!平均以上なんて!!教科書開いたって、全てのことがチンプンカンプンで、ちっとも分からないし、すぐ眠くなって全然やる気になれないもん!!」
と、後ろ向きな発言ばかりする。そして、とうとう陸もブチッときたのか、
「じゃあ、私立に帰ったらいいじゃん!」
と冷たく言ったので、ルリは地獄に落とされたような気持ちになった。さらに追い打ちをかけるようにハルカが、
「そうよ。勉強する気がないなら、エスカレーターで大学まで行ける、私立に帰ったらいいじゃない」
とトゲのある言葉を浴びせたため、ルリはショックのあまり放心状態に入ってしまった。だが、1人だけルリの味方がいた。
「もー、2人ともそんなに冷たい言い方しないで、ルリちゃんに勉強教えてあげなよ」
「凪くん!」
ルリの肩を持つ凪をハルカがキッとにらみながら言う。
「それだったら、安藤くんが教えてあげたらいいじゃない」
すると凪はうなずいて、
「ああ、いいよ♪じゃあ、おれが―」
と言いかけた瞬間に、凪の携帯が鳴る。着信者を見た凪は、ルリの方に振り返ると、
「ごめーん、ルリちゃん。デートの約束が入っちゃったから、今日は勉強教えてあげれないや。また今度ね」
と言って、そそくさと生徒会室から出て行った。
「ああ・・・凪くん・・・」
せっかく一筋の光を見出せたと思ったのに、結局は味方を得ることができなかったルリだった・・。
『どうしよう・・、このままじゃ私立に戻されちゃうよ・・・・。平均無理、とか言ってる場合じゃなくて、死ぬ気で勉強やらなきゃ・・・。だって、このまま陸と離れるなんてヤダもん・・・・』
ヨロヨロしながら生徒会室を出て行くルリに陸が声をかける。
「ルリ?どこ行くんだ?」
ルリは振り返ることなく、か細い声で答えた。
「帰って勉強します・・・」
「ええっ!?あのルリ様が勉強を!?」
「今まで、自ら勉強机に向うことがなかったルリ様が!?」
「ああ・・天変地異とか起こらなかったらいいんだけど・・・」
高円寺家では、帰ってきてからおやつを食べることなく、まっすぐ机に向ったルリのことを、使用人達が騒ぎ立てていた。今までずっとルリの世話をしてきた北浜も、ルリが勉強している姿など今まで1回も見たことがないから、「驚きの光景」というしかないのだ。
使用人達の間で騒がれていることも知らないルリは、机に向かい、数学の教科書を広げた。
「よーし!やるぞ!!私だって、真面目にやれば平均以上ぐらい取れるんだから!!」
そう意気込んで、教科書に載っていた問題に取りかかった。しかし・・・・
「ダメッ!!全然分からないっ!!」
1分もしないうちに、ギブアップしてしまった・・・。何のことかさっぱり分からないのだ。
「もう・・どうしよう・・・・」
がっくりして、机にうなだれた。
「このままじゃ、平均点以上なんて絶対無理だよ・・・」
まだ何もやってないのに、すでにあきらめモードに入っていたが、すぐ考えを改めて起き上がった。
「って、あきらめてる場合じゃないわよ!!これで、へこたれるルリ様じゃないんだから!!北浜!北浜〜!!」
ルリに急に呼ばれ、北浜があわててルリの部屋にやって来た。
「ハイ!?ルリ様、どうなされました!?おやつですか!?」
「おやつじゃないわよ!あのね、どうやったら短期間で勉強ができるようになるかな?とにかく時間がないから、短期間で賢くなりたいの!!何かいい方法はない?」
「え?短期間で・・・・えーと・・・」
「ええっ!?家庭教師をつける!?」
次の日、ルリから試験対策を聞かされた陸は、急な展開に驚いた。でも、ルリは自信満々の顔で、
「短期間で頭が良くなるには、やっぱり誰か賢い人に、基本から教えてもらったほうがいいと思ったの♪ね、良い方法でしょ?」
と言うので、陸は、
「う・・うん・・・」
と疑問は感じたが、とりあえずうなずいた。
「パパにもお願いしたら、最高の先生をつけてくれるんだって!ね、北浜!」
ルリの後ろに控えていた北浜が、メモ帳をパラパラめくりながら、
「ハイ。有名大学のイケメン大学生に、先生として来てもらうことなりました」
と先生の紹介をした。説明を受けた陸は、
「は・・はあ・・」
と答えた。
「さてと」
ルリはバッグを肩にかけると、
「絶対、ここの学校に残れるようにがんばってみせるね!さー、帰って勉強するぞ〜!!じゃあね、陸!」
とはりきって教室を出て行った。そんなルリの後姿を陸は心配そうに眺めていた。
「一流の家庭教師を即採用なんて、お金持ちらしいやり方よね」
「でも、ま、ルリなりにがんばってるみたいだけどな」
「がんばっても、全教科平均以上なんて無理よ。あの子、基礎が全然できてなさそうだし」
帰り道、本屋に寄って参考書を探しに来ていた陸とハルカは、ルリの「家庭教師」の話題で盛り上がっていた。確かにハルカの言うとおり、一流家庭教師をすぐに探して雇う、というのはお金持ちらしいやり方だと思った。でも、それだけルリが勉強に対してやる気を見せているので、決して悪いことだとは思わない。
その時だった。参考書を探していた陸の後ろから、こんな声が聞こえてきた。
「え?お金持ちのお嬢様の家庭教師のバイトやるの?」
「ああ、しかもフツーのバイトじゃないんだぜ。娘の成績が上がらないように、適当にでたらめ教えるだけで、1日5万円もくれるんだから!」
「何それ!!めっちゃおいしーバイトじゃん!!」
お金持ちのお嬢様・・・、娘の成績が上がらないように、適当に教える・・・、1日5万円・・・。陸の頭の中で「まさか・・・」という考えが駆け巡ったが、
「って、考えすぎか・・・」
と思い直した・・。いくらなんでも、ルリの父親がそんなひどいことをやるなんて・・、いや、あの父親ならやりそうだが、でもまさか・・・・。
「どしたの?陸」
ハルカに急に声をかけられ、ハッと我に返る。
「あ、いや、なんでもない。さ、帰って勉強するか」
さっきの会話が気にかかった陸だったが、バイトをやると言っていた大学生の姿はもう本屋にはなく、そのまま帰るしかなかった。
ルリに家庭教師がついてから3日目―
「うん!日々、頭が良くなってきてるみたい!毎日、先生から出されたドリルをこなしてるんだよ!!」
ルリが陸にそう自慢しながら、毎日やっているというドリルを見せてきた。
「ふ・・ふーん・・・」
陸はルリが差し出してきたドリルを受け取り、どんな勉強をしているのか見てみたが、一瞬にして陸の顔は真っ青になった。
「ル・・ルリ・・、おまえこれを毎日やってるのか!?」
陸の驚きように、ルリは首をかしげる。
「うん?そうだけど、何かあるの?」
ルリは何も気づいてないようだったが、ドリルの内容は小学校レベルの計算問題がずら〜っと並んでいるものだった。それを見た瞬間、陸の頭の中には、この前本屋で聞いた話が思い出された。
『や、やっぱり、本屋で聞いた話は、ルリの家の話だったんだ!!あの親父!何考えてるんだよ!!』
陸は教室を飛び出し、外で待機していた北浜に声をかけた。
「北浜さんっ!お願いがあるんですけど!!」
陸を「将来のご主人様になる人」と勝手に慕っている北浜は、
「はい!なんですか?陸様!」
と飛んでやって来た。
その頃、高円寺家では、仕事の合間でいったん家に帰ってきたパパが家庭教師の学生とリビングで話をしていた。
「どうだね。ルリの勉強の様子は」
「ええ、もちろん試験範囲とは全然違うところを教えていますので、安心してください」
計画通りに物事が進んでいることを確認したパパは、満足げな笑みを浮かべ、
「それを聞いて安心したよ。これでルリもあきらめがついて、大人しく私立に戻って『めでたし、めでたし』だ!いや〜、愉快愉快!」
と言って大笑いした時だった。
「やっぱりね、そういうこと考えるのは、ルリの親父さんだけだよな」
そう言って、突然ドアから陸が入ってきたので、パパはびっくりして飛び上がった。
「なっ!?なんで弁当屋の息子がうちにいるんだ!?おまえ、どこから入ってきた!?」
大慌てするパパとは正反対に、陸は冷静で、
「北浜さんに許可をもらって、お邪魔させてもらってます」
と答え、ずずいっとパパに歩み寄った。
「それより、あなたって本当に最低ですね。ルリ・・いや、お嬢さんはあなたに家庭教師をつけてもらったことを本当に喜んで、毎日小学生のドリルをがんばって解いているんですよ。今度の中間で絶対平均以上を取ろうと思って。それなのに、だまされていた、なんてことを知ったら、完全にあなたはルリに嫌われますね」
陸の最後の言葉が、パパの胸にグサッと刺さった。確かに、陸の言うとおりだ。ルリは公立に残りたくて、必死に勉強しているようなのに、それを自分が妨害していたことを知ったら、絶対嫌われるに違いない。もし二度とルリに口をきいてもらえなかったら・・なんて考えただけでも恐ろしい!!急に青くなってうろたえ出したパパは、陸に、
「た、頼むっ!!このことはルリにー」
と言い出そうとした時、後ろから、
「あれー!?陸だ!!」
とルリの声がした。ルリの登場で、陸とパパは同時にビクッとしてしまった。陸としては、ルリが家に帰ってくるまでに、パパへの説教を終わらせ帰る予定だったのだが、思いのほかルリが早く帰ってきてしまったため、計画が狂ってしまった。そんな陸の気持ちを知らないルリは、興奮しながら、
「なんで!?なんで!?なんで陸がうちにいるの〜!!」
とめちゃくちゃ喜んでいる様子だ。なんとかその場をごまかそうと、
「いや・・その・・これは・・」
と陸が適当に何か言おうとした瞬間、突然横にいた北浜が言った。
「ルリ様これはですね!家庭教師の先生に急用ができてしまって、辞めることになってしまったので、今日から陸様が新しい先生になられることになりました!!」
「ええっ!?」
突然の急展開に陸は叫んでしまった。新事実を知ったルリは、
「えっ!?陸が私の家庭教師に!?陸が私だけの先生に!?」
となんかあらぬ方向に想像が働いて、一人ぽわわ〜ん状態になっている。陸は北浜の袖をひっぱり、小声で、
「ちょ、ちょっとどういうことですか!?」
聞くと、北浜は、
「陸様、お願いします!!その、今から新しい先生を探すのも大変でして・・・。それに、学年一位の成績をお持ちの陸様ですし、きっと立派に先生を務められると、私、確信しております!」
と頭を下げながら必死にお願いするので、陸も何も言えなくなる。それにルリはもうすっかりその気になって、
「陸〜!!早く私の部屋においでよ!!」
とやる気満々のようだ。「仕方ない・・」と腹をくくったのか、陸はカバンを手に取り、ルリの後をついていこうとしたら、後ろからパパが、
「ルリの部屋で2人きりでなんて、パパが許しません!!リビングでやりなさい!!」
と叫んだ。陸はフッと苦笑した。
『ルリをだましてたくせに、よく言うよ』
「変じゃないよね・・」
ハルカは家の玄関の鏡を見ながら、髪を整え、外に出た。もうすっかり日は暮れ、近所の家にも電気があちこち灯っている。今夜は隣の陸の家で、一緒にテスト勉強をする約束をしているのだ。小さい頃から、テスト前にはいつも一緒に勉強をすることが多くて、今もそれは変わらず、お互い分からないところを教え合いながら勉強するのでとても効率がいいし、何より、ハルカとしては陸と2人で過ごせる時間がとても貴重でうれしいのだ。
「こんばんわ〜」
陸の家の玄関をガラッと開けて中に入ると、おばさんがひょこっと姿を現す。
「あら?ハルカちゃん?陸と一緒じゃなかったの?」
その言葉に、ハルカは首をかしげた。
「え?陸、いないんですか?確か、私より先に家に帰ったはずなんですけど・・」
壁にかけてあった時計を見ると、もう夜の8時近くだ。いつもならすでに家に帰ってきている時間なのに、おかしい。
「どうしたのかしら・・・。こんな時間まで帰ってこないことなんてなかったのに・・・。何の連絡もなくて、心配してるのよ・・」
おばさんの心配そうな顔を見ていると、ハルカもどんどん不安になってきた。真面目な陸のことなので、こんな時間まで遊んでいるはずがない。そうなると、何かの事件に巻き込まれてしまったのではないか・・・。陸に何かあったら、自分はこの先、どうしたらいいんだろう・・・、とそんなことを考えてしまいそうな時だった。突然、奥から陸の父親が泡だて器をにぎりしめ叫びながら走ってきた。
「かっ、母さん!!こ、高円寺グループのルリお嬢様のお付の人から電話があって、陸が家庭教師やるから、今夜は帰ってこないそうだっ!!」
「ええっ!?」
ハルカと陸母は思わず叫んでしまった。
『陸がルリさんの家庭教師!?しかも泊まりって、どういうこと!?というか、なんでそんなことになってんのよ!?』
ハルカはショックのあまり倒れそうになった・・・。
「じゃあ、まずは数学から始めるぞ」
北浜に無理やりルリの家庭教師に任命された陸は、ルリと一緒に試験勉強を始めた。しかし、この家のリビングの広さは、4畳半生活に慣れている陸には落ち着かない広さだった。天井には、西洋のお城の舞踏会シーンに出てくるようなゴージャスなガラスのシャンデリアが、キラキラ輝いている。ソファーも、学校の生徒会室に置いてあるような座り心地が悪いものではなくて、体がソファーに深く沈んでいくような質の良いものだ。リビングの向こうに見えるのは、バーカウンターのようなもので、その後ろにあるガラスケースの中にはお酒のビンがびっしり並んでいる。家具もどれも世界の一流品というものばかりが置かれていて、庶民の陸にしてみると、ほんとに生活しにくそうな空間である。
「テスト範囲は10ページ〜45までだから・・」
そう説明する陸の横顔をぽ〜っと見つめているルリ。こんな夜中に、大好きな陸がすぐそばにいてくれるなんて、幸せすぎて頭の中はさっきからポワワンポワワンしている。きっと結婚したら、こんなふうに1日ずっと陸と一緒に過ごせることができるのに、と妄想がどんどん膨らんでいたのだが・・・、
「ルリ。おまえ、人の話を聞いているのか?」
と陸に急に声をかけられ、ハッと我に返る。あわてて教科書を開きながら、
「き、聞いてます、聞いてます!えーとテスト範囲は106ページまでだったっけ?」
と間違ったことを言ったので、陸はイラッとした。
「違う!!45ページまでだ!!ほら、早くこの問題を解け!!」
「はっ!ハイ!!」
陸が次から次へと、問題の解き方やらコツを教えてくれるのだが、なかなかついていけないルリは、どんどんパニック状態になっていく。しかも、
「だから、そこは違うって、何回も言ってるだろ!?」
としょっちゅう怒られるばかりなので、ますます頭の中は混乱し、最後は思考停止し、ウトウトし始めた。そんなルリに、陸は、
「寝るなーっ!!」
と叫んだので、ビクッと飛び起きた。今にも怒り出しそうな陸の顔を見たルリは機嫌をとるためか、
「そ、そのっ、寝てないけど、ちょっと休憩しようよ。せっかく陸がうちに遊びに来てくれてるのに、勉強するだけじゃもったいないよ」
と提案してみた。これで陸も機嫌を直してくれるかと思ったが、それは逆効果だった。
「帰る」
そう言って、陸はカバンをつかむと玄関に向って歩き出した。ルリはびっくりしてあわてて呼び止める。
「え!?ま、待ってよ、陸!!」
だが、陸は止まることなくスタスタ歩き続ける。
「だって、ルリ、全然勉強する気じゃないのに、これ以上続けても意味ないじゃん。この前まで、すっげーやる気見せてたのに、おれが勉強教えることになったとたん、急にうわの空になって・・。やっぱり、誰か違うヤツに教えてもらえよ」
陸に指摘され、自分が間違っていたことにやっと気づいた。でも、陸はもう戻ってきてくれる気配がない。自分がバカなのは分かっている。自分のせいで陸を怒らせたことも分かっている。陸にすがりついても、もう相手にしてくれないかもしれないが、体は勝手に陸を追いかけていた。
「待って!ごめん、陸!!」
突然、後ろからルリに抱きつかれた陸はびっくりして振り返ると、ルリは目にいっぱい涙をためながら、
「私っ、もう寝たり、ボーっとしたりしないから、帰らないで!!今度こそ、本当にがんばるから!!」
と必死に陸に訴えてくる。まったく、泣いて反省するなら、最初から真面目にやっていればいいのに。でも、それができないのがルリなんだけど、一度反省したら次は失敗しないようにがんばるのもルリである。だから陸も、
「分かったから、もう泣くな。ほら、はやく戻って、勉強し直すぞ」
と言ってルリを許したので、ルリも「うん!」と大きくうなずいた。そんな2人を、ドアの隙間からパパと北浜がじ〜っと見ていた。
次の日―
朝のあわただしい登校時間、青葉中学校の前に1台のリムジンが止まった。公立中学校の校門前には不似合いな、真っ黒でゴージャスな車の到着に、登校していた生徒達は皆驚き足を止める。
「なんだ?なんだ?」
「あんな映画に出てくるような車体の長いリムジンなんか初めて見た!!」
車の運転手が先に降り、ドアをカチャっと開けると、中からルリと陸が現れたので、生徒達は皆びっくり!
「おおーっ!!高円寺さんと会長が一緒に降りてきたぞ!?」
「えーっ!?リムジンで一緒に登校ってどういうこと!?」
大騒ぎの生徒達の様子を見た陸は、
「やっぱり歩いてくるんだった・・・」
と後悔したのだった・・。
「中学生で、同棲(どうせい)って早くない?ま、『愛』を語るのに年齢なんて関係ないから、おれは全然気にしてないけど」
廊下で顔を合わせた凪に、さっそく今朝のリムジン登校のことをからかわれる陸ゆえ、必死に否定する。
「誰が同棲だっ!!だから、あれは誤解だって!!」
だが、陸がむきになればなるほど、凪はからかいたくなる気持ちをおさえきれない。
「え〜、だって全校生徒の間でウワサになってるよ。『会長と高円寺さんは、もう婚約してる』とか、『どこかの高級マンションで、同棲生活を始めている』とか、『高円寺グループの次期社長は生徒会長』とか。リムジンなんかで、一緒に登校してくるから、こんなことになっちゃったんだよ」
「だ〜か〜ら!!あれは無理やり北浜さんが乗せたんだって!!おれは歩いて学校に行く、って言ったのに、『遅刻するから、乗っていって下さい!』って言って―」
その時だった。
「陸、ちょっと」
陸が振り返ると、そこにはハルカが立っていた。
「ハルカ?」
ハルカはキッと陸をにらむと、昨日から積もりに積もっていた怒りをぶつけた。
「どういうつもりなの?私やおば様に何の連絡もしないで、ルリさんちに泊り込んで家庭教師なんて!どれだけ心配したと思ってるの!!」
ハルカの話を横で聞いていた凪が、
「ええっ!?泊り込みで家庭教師!?そりゃ、1つ屋根の下で男女が一夜を過ごしたんじゃ、ハルカちゃんも心配するよね〜!!で、陸、何かルリちゃんとあったのか!?」
と真面目な雰囲気を壊すようなチャチャを入れてきたので、ハルカはすかさず、
「安藤くん、うるさいっ!!」
と叫んだため、凪は「ハイ・・・」と大人しくなった。陸は決まり悪そうに、苛立っているハルカに謝った。
「連絡しなかったのはごめん・・・でも・・・」
陸は、机に座って必死に歴史の年代を暗記しているルリを見ながら、
「あいつのことほっておけなくて・・・こうなったというか・・・」
とつぶやいた。ハルカが何か言おうとした時、
「ハイハイハイ!!陸、ここの問題なんだけど―」
とルリがやって来て、陸に教科書を見せて質問し始めた。陸も真剣にルリの勉強を見てやっている。ハルカの中で、モヤモヤしていた気持ちが、どんどん膨らんでいく。昨日だって、本当はハルカが陸と一緒に勉強するはずだった。なのに、いつのまにかルリが陸を奪い、陸もルリをほっておけない、と言う。そんな悔しい想いがどんどん重なってきて、抑えておこうと思っていた言葉がポロッと出てきた。
「ルリさん、そんなにこの学校にいたいの?」
ハルカの言葉に、ルリは教科書から顔を上げる。ルリのキョトンとした顔を見ると、ハルカはまた怒りがわいてきたのか、さらに口調を強めて言葉を投げつけた。
「あなたが公立に残りたい理由って「勉強したいから」とか、そういう真面目な理由じゃなくて、陸と一緒にいたいだけでしょ?そんなくだらない理由で、勉強するなんて―」
ハルカの言葉をさえぎって、ルリが叫んだ。
「くだらないことじゃないよ!!陸のことが大好きだから、「これからも一緒にいたい」、って思うのが当たり前じゃないの?ハルカちゃんだって、もし好きな人と離れ離れになる状況になったら、一緒にいられるようにがんばらないの!?」
逆にルリに質問され、ハルカは「ええっ!?」とあわててしまった。うろたえているハルカを見て、凪は思わず「クスッ」と笑ってしまった。ルリはハルカに歩み寄る。
「私ががんばってる理由は、『陸と一緒にいたい』っていうのが一番だけど・・・、ハルカちゃんや凪くんとも、もっと一緒にいて仲良くなりたいもん!!まだいろんな話もしてないし、一緒に遊びに出かけてもないし、これからもっともっと思い出作っていきたいもん!!」
ルリに「一緒にいて仲良くなりたい」と言われ、思わずドキッとしてしまったハルカ。ほんとに苦手だ。こんなふうにストレートに気持ちをぶつけてくる人には、どう対処すればいいのか分からないのだ。それに、自分はルリと仲良くなりたい、とは思ってない。だから、こっちもストレートに「仲良くなるつもりはない」と言ってやればいいのだ。そうだ、言ってやろう、と思ったハルカだったが、目の前で大きな目でまっすぐ自分を見つめているルリを見ると、なぜか言葉が出てこない。大嫌いなはずなのだが、全くのウソがない澄んだルリの目を見ていると、とどめの言葉が言えない。その代わり、口から出ていた言葉は、
「で、どこまで勉強できたわけ?」
だった。ハルカにそう聞かれ、ルリは数学の教科書をパラパラめくる。
「ええと・・まだこの部分ぐらいで・・・」
ルリの進行度の遅さにあきれたハルカは、
「まだたったのそれだけ!?それじゃ、陸も1人で教えるのが大変よね。まだ英語、理科、国語、社会だって残っているっていうのに」
と言ったため、
「ご・・ごめんなさい・・・・」
となぜか謝ってしまった。まだまだ先は長いことを悟ったルリは、ハアとため息をついた。そしてまた勉強しようと、教室に戻ろうとした時だった。ハルカが、
「特別に、私も教えてあげるわ」
と言った。
「え?」
ルリが顔を上げると、ハルカは窓の外を見ていた。
「だって、陸1人だけが負担を持つなんて、かわいそうじゃない。だから、私もルリさんに勉強を教えてあげるわ」
こっちは向いてないが、明らかにハルカの耳が赤くなっている。きっと照れて、顔をそむけているのだろう。でも、ハルカの優しさはじゅうぶんルリに伝わってきたので、
「ハ・・ハルカちゃん・・・・」
と、感激して思わず涙がポロポロ出てきた。大泣きしているルリを見たハルカはギョッと驚き、
「な、何泣いてるのよ!?」
と言うや否や、ルリが
「ありがとう〜!!」
と抱きついてきたので、ますます恥ずかしくなって照れるハルカ。
「ちょ、ちょっと恥ずかしいじゃないの!!離れなさいよ〜!!」
「ありがとう!ありがとう!ハルカちゃん!!」
そんな美しい(?)友情を見ていた凪も、
「じゃあ、おれもルリちゃんの協力しちゃうよ♪おれももっとルリちゃんと仲良くなりたいしね♪」
と言ってきたので、ルリは、
「ありがとう!凪くん!!」
と感謝した。その後、凪が小声で
「あと、びみょーな三角関係が気になるし」
と言ったのを、ハルカは聞き逃していなかった。絶対あの男、勉強を教えるということよりも、ルリと陸と自分の行動を観察するのが楽しみでやって来るに違いない、と思ったハルカは、キッと凪をにらんでやった。ルリは「苦手」だが、凪は完全に「嫌い」なタイプである。
こうして、ルリの必死の試験勉強が始まる。
数学担当、陸。
「まず公式を覚えろ。公式を覚えたら、問題を見た時に、どれを使えば解けるか自然と分かってくるはずだから」
英語担当、ハルカ。
「とりあえず、単語を読み書きできるようになりなさい。それができたら、次は構文を暗記するわよ」
理科担当、凪。
「難しい物理や化学の計算問題は、とりあえず置いておいて、暗記していれば確実に点が取れる問題だけは落とさないようにしようね」
国語担当、陸。
「古典と漢文は教科書の文章訳をそっくりそのまま覚えておけ。あと、古語の意味は現代の意味と違うのが多いから、そこも見落とすな」
社会担当、ハルカ。
「社会はもう90%が暗記よ!地理は、データーを資料集でチェックしておくこと!」
一通り、3人から勉強のレクチャーを受けたルリは、いろんなことをつめこみすぎて、頭の中がパンク寸前になっていたが、
「わ、分かった!!とにかくみんなが教えてくれたところを重点的に勉強するね!!」
と必死にがんばる。かなりヨレヨレになってきているルリを見たハルカは、
「なんかいっぱい、いっぱいよ。少し休んだほうがいいんじゃないの?」
と心配になって言ったが、ルリは笑顔で、
「大丈夫!だってみんなが一生懸命教えてくれたから、私もがんばらなきゃ!」
とがんばる意欲を見せた。そして、もう時計の針が11時近くを指していたので、
「みんなは先に寝てくれていいよ。北浜、部屋の案内をしてあげて」
と言うと、部屋の外で待機していた北浜がスッとやって来た。
「ハイ!では皆様、お部屋へどうぞ」
すると、凪が隣にいたハルカの肩をグイッと引き寄せ、
「じゃ、おれはハルカちゃんと一緒の部屋で♪」
と言った。凪に抱き寄せられたハルカはとっさに身の危険を感じたのか、
「気安く触らないでよ!!誰が安藤君と一緒の部屋で寝るもんですか!!」
と思いっきりグーでパンチしたため、凪は床にドサッと倒れた。
「いててて・・も〜、ハルカちゃんったら、冗談が通じないんだから」
凪はなぐられたほおを押さえながら言ってみたが、ハルカは全く無視し、ルリにノートを差し出していた。
「ルリさん、これ、私がまとめたノート。とりあえず要点はおさえているから、参考にして」
思わぬプレゼントにルリは、目を丸くする。すると凪も、
「じゃあ、おれも♪試験に出そうなところを書き出してみたから、また見てみて」
とびっしり書き込んでいるレポート用紙をルリに渡した。ルリはハルカと凪を交互に見ながら、
「ハルカちゃん・・凪くん・・・・ありがとう・・・」
と心から感謝した。そんな3人を陸は優しい目で見ていた。
時計は深夜1時過ぎをさしていた。みんなが寝静まってからもルリは1人で勉強をがんばっていた。
「えーと・・確かここは公式を使って・・・あれ?解けないや」
その時、背後から、
「ルリ」
と声をかけられ、振り返るとそこにはカップを持った陸が立っていた。
「陸!?ど、どうしたの!?」
「ほら、ハーブティー入れてきたから、ちょっと休めよ」
そう言って陸はテーブルにカップを置いて、ルリの前に座った。カップからは、レモングラスだろうか?柑橘系のいい匂いが温かい湯気と一緒に辺りに香った。ルリは、とっても優しい陸に思わずドキドキしてしまい、
「あ、ありがとう!!わあ、とってもいい匂いだね」
とちょっと震える手でカップを持ち上げた。いつも怒られてばかりなので、優しい陸には慣れていないのだ。ルリはハーブティーを飲みながら、
「陸、まだ寝てなかったの?」
と質問すると、陸は頭をポリポリかきながら、
「おまえんちのベッドと布団があまりにも高級すぎて、なかなか寝れないし、寝たとしても、いつルリに『ここの問題が分からない〜』って起こされるかと思うと、不安で眠れなくなったというか・・」
と答えたので、ルリはガーンとショックを受けた。
「ご、ごめんね、いろいろと私が迷惑かけて―」
また陸に迷惑をかけてしまった、と悲しい気持ちになったルリだったが、陸の反応は意外だった。
「でも、ま、せっかくだから、もうちょっと勉強見てやるよ」
「え?」
顔を上げて陸を見たが、イヤそうな顔はしてない。それどころか優しく微笑んでいるので、ますますルリにはわけが分からなくなってしまい、
「ええっ!?見てくれるって、延長料金とか払わなくていいの!?」
と思わず叫んでしまった。確か、家庭教師の先生は規定時間より多く勉強を見てもらったら延長料金を払っていたような気がしたからだ。だが陸は、
「あのなあ・・金なんか要らねーよ。『仲間』が困ってたら助け合うのが普通なの」
とちょっと照れくさそうな顔をしながら言った。
「な・・・仲間・・?」
「そう。ハルカや凪だって、何か見返りが欲しくてルリに勉強を教えてるわけじゃないだろ?2人ともルリががんばってるから、自然と応援したくなっただけだよ。だから―」
「私・・」
ルリが陸の顔をまっすぐ見つめ言った。
「私っ、みんなともっと一緒にいられるように絶対、絶対がんばるよ!!みんなが応援してくれる気持ち、決して無駄にしないから!!」
ルリの「がんばる気持ち」は、ちゃんと陸にも伝わった。
「よし、じゃあ、20ページ開け」
「ハイ!!」
そんな2人をドアの隙間からパパがじっとのぞいていた。陸の行動が気になってずっと監視していたのだが、パパが心配するような怪しい行動には出なかったようだ。いや、それどころか・・・
「旦那様。ルリ様は公立で単に遊んでいるだけではないと思いますよ」
気づくと隣には北浜が立っていた。
「ルリ様は、陸様をはじめお友達と一緒に過ごし、日々立派に成長されていると思います。毎日ルリ様のお世話をさせていただいている私が、そう感じるのですから、間違いはないはずです」
北浜の言葉に耳を傾けながら、パパはもう一度ルリを見た。小さい頃から、バレエ、バイオリン、ピアノ、乗馬等々、ルリにいろんなものを習わせてみたが、一度も続くこともなかったし、「努力」の「ど」の字も見せなかった娘が、初めて何かに対してがんばっているとは・・・。当初の目的は「ルリを私立に戻す」ことで、平均点以上取られると困るわけなのだが、でも今は心の底から「ルリ、がんばれ」と応援したい気持ちに変わってきていた。
ルリの必死の勉強が続き、とうとう試験日がやって来た―
1教科目、国語。
「あ、ここの問題、ハルカちゃんが出るって教えてくれていたところが出た!」
2教科目、理科。
「やった!暗記問題が多いかも!!これなら、なんとか解けそう」
3教科目、社会。
「おお!昨日の夜にチェックしていたところが出てるなんてラッキー!!」
4教科目、数学。
「この証明・・・途中まではなんとか分かったけど、最後のやり方が・・・」
5教科目、英語。
「うーん・・、ここの文章、どうやって英文にするんだったっけ・・。確か構文があったはずなんだけど・・」
そして試験が終わり、テストが全部返って来た日の夜、パパは車を飛ばして大急ぎで家に戻ってきた。
「ル、ルリっ!!テストはどうだった!?」
廊下を走り、ルリのいるリビングに飛び込んだパパだったが、部屋に足を踏み入れた瞬間、体が固まってしまった。ルリの様子が、明らかに暗い・・。うつむいているので表情はよく分からないが、がっくり肩を落としている。テーブルの上には5教科のテストが並べられていた。
「あ・・・」
パパはルリにかける言葉を失ってしまい、しばらくドア付近で立ち尽くしたままだった。すると、ルリがポツリポツリとしゃべり出した。
「がんばったんだよ・・・でも・・・数学だけ平均点とれなかったの・・・・ヒック」
最後のほうは泣き声で言葉になってなかった。
「パ・・パパ・・ヒック・・ごめんなさい・・私・・・私・・・」
ルリは悔しくて悲しくて流れてくる涙を手でぬぐいながら、パパに謝った。今までこんな気持ちが分からなかった。何かに対して「がんばる」ことがなかったから、努力して実現しなかったことが、こんなにも悔しいことだなんて考えもしなかった。
「ご・・ごめ・・ごめんなさい・・・」
必死に謝るルリの頭に、パパは優しくポンと手を乗せた。ルリは涙でいっぱいになった瞳でパパを見上げる。パパは優しく微笑み言った。
「ルリががんばったことは、パパ、ちゃんと分かってるから。だから、また公立でがんばりなさい」
パパの予想外の言葉に、ルリは驚いて大きな目をさらに大きくして、
「パ・・パパ・・・」
とやっと笑顔を見せたので、パパも「うんうん」と大きくうなずいた。ルリはスクッと立ち上がると、
「パパ、ありがとう!!」
と駆け寄ってきたので、パパはルリを抱きしめようと両手を広げたのだが、ルリはパパの横をスッと通り過ぎると、
「陸!!やったよ〜!!私、これからも公立に通えるよ!!」
とパパの後ろで様子を見ていた陸に抱きついていった。意表をつかれたパパは、
「へ?」
と、ルリと陸の方を振り返った。
「やったな!ルリ」
「ハルカちゃんと凪くんにもお礼言わなきゃ!!」
ぽか〜んと口を開けているパパに、隣で北浜が、
「陸様もルリ様のことを心配して、来てくださっていたんですよ」
と説明した。仲良さそうなルリと陸を、うらめしそうな目で見ながらパパは思った。
「グググ・・・やっぱり私立に戻すんだった・・・・」
でも、ルリがこっちにふり返り、
「パパ!これからも私、公立でがんばるよ!!」
と本当にうれしそうな笑顔を見せたので、パパもちょっと悔しい気持ちもしたけど、「私立に戻さなくても、ま、いっか」という気持ちになり、パパ自身も少し成長したのでした。
こうして、なんとか試験を乗り切り、公立で生活を続けられることになったルリ。次はどんな事件が待っているのでしょうか?