第17話:運命の人
初めてレイに会った日のこと、今でも覚えてる・・・。突然空から現れて、そして突然キスされて・・・。
あの時は、レイが自分の「運命の人」だなんて思いもしなかったんだ―
「あれ?レイ、部屋にいない・・・」
ヒロさん達と別れてから、私はお城に飛んでやって来た。お城に来れば、レイに会えると思ったからね。
いつものようにお城の周囲は厳重な警備だったけど、空高くから一気にレイの部屋めがけて急降下する。この方法だと、低空飛行で真横からお城に侵入するよりは目立ちにくいんだ。そんな感じで、今日もなんとかレイの部屋のベランダにたどりついたけど、中にレイの姿はなかった。おそるおそるベランダの窓を開けてみると、鍵はかかってなく、すんなりと中に入れた。
「レイ、レイ〜」
ちょっと大きな声で名前を呼んでみたけど、返事はない。
「どこにいるんだろう・・・。さすがにこの部屋を出て、お城の中を探すわけにはいかないし・・・」
う〜ん、と腕組みをして考えていると、部屋の外からバタバタという足音が聞こえてきた。とっさに奥の部屋に隠れる。だって、レイ以外の人に見つかったら、絶対不審者だと思ってつかまっちゃうもん。
「レイ!レイ!おい、部屋にいるのか!?」
ドアがドンドンとノックされ、誰かが部屋に入ってきた。と同時に私の心臓もドキドキ高鳴り出す。ううっ、どうかお願い!見つからないで!、と祈るような気持ちで隠れていたら、
「やはり、ジャスミン嬢と行ったのだろうか・・・」
という声が聞こえてきた。さっきはパニックになって何も気づかなかったけど、この声、聞き覚えがある・・・、そう!王様だ!私は思わず、奥の部屋から飛び出した。
「王様!レイがどうしたんですか!?」
「よ、四葉ちゃん!?」
突然現れた私を見て、王様はすっごく驚いた様子だった。私だってこっそりレイの部屋に忍び込んでることを王様に知られたくなかったけど、今は一分一秒を争う状況ゆえ、そんなことも言ってられないよね。王様も最初はびっくりしてたけど、私がレイに関して何か知っていると気づいたのか、話をし始めてくれた。
「実はね、四葉ちゃん。レイがジャスミン嬢と地震を沈めようと、魔物の森に向おうとしているらしくて・・・・」
「え!?魔物の森に!?」
魔物の森といえば、さっき空に舞い上がった時、赤く光っていた場所にある森のはず。大変!レイとジャスミンさんが先に魔物の森にたどりついて、2人で地震を沈めてしまったら、レイの記憶は完全に戻らなくなっちゃう!いそがなきゃ!2人が行動を起こす前に!
私はあわてて、
「王様!情報どうもありがとうございました!」
とお礼を言って、外に飛び出そうとした瞬間、「ワー!!」と下から歓声が聞こえてきた。
「何の声・・?」
私と王様は顔を見合わせ、ベランダから下を見下ろしてみる。するとそこには1台の馬車を大勢の人が取り囲んでいる光景が見えた。人だけでなく、テレビカメラのようなものも見える。その光景を見た王様が、
「しまった・・・、レイとジャスミン嬢が一緒に地震を沈めに行く、という情報が外部に漏れてしまったみたいだな・・・」
と頭を抱えながらつぶやいた。私は首をかしげながら、
「え?外部に漏れたら、何か都合が悪いことがあるんですか?」
と聞くと、王様はコクリとうなずく。
「レイは次の国王となる身の者だ。そういう身分の者が、一人の特定の女性と行動を共にするということは、外部の人間から見ると『特別な関係』だと思われてしまうんだよ。だから恐らく、明日の新聞やニュースで、『ジャスミン嬢、次期女王決定か!』という見出しが躍ることになるだろう・・」
「次期女王・・・」
ああっ!?そうだ、すっかり忘れていたけど、レイってばこの国の王子だったんだ!!レイとつき合うってことは、つまりこの国の女王になる、ということにもつながるんだった・・・。
そんな重要なことを思い出した瞬間、私の中で迷いが生じた。レイが記憶を戻せば、私が女王様になる可能性だって出てくる・・。でも、私はそんなすごい人になれるような器でもないし、やってのける自信だってない・・・・。それだったら、このままジャスミンさんが女王になれば、貴族出身だし、私よりずっと素晴らしく国を治めることができるかもしれない・・・。そうだ、きっとその方が良いはず・・・・。
「四葉ちゃん」
王様の声にハッとして顔を上げる。王様はにっこり微笑みながら、
「レイに何があったのか分からないが、レイは四葉ちゃんに迎えに来て欲しいと思っているはずだよ。だってアイツは、四葉ちゃんのことが本当に大好きなんだから」
と言ってくれた。その瞬間、私の頭の中にレイとの思い出がいっぱいあふれ出してきた。レイにいっぱいひどいこと言ってきたし、怒らせたこともあったし、つらい思いをさせたこともあった。でもそれでもレイは、いつもいつも「四葉、大好きだよ!」と言って、私のことしっかりつかまえてくれていた。そんなレイの手を、私がここで離していいの?レイと一生会えなくなってもいいの?もうあの笑顔を近くで見れなくなってもいいの?二度と「四葉」って呼んでもらえなくてもいいの?
そんなの・・そんなの・・・・・・絶対やだよ!
「王様、ありがとうございました!私、絶対レイを連れ戻してきます!」
私の顔に笑顔が戻ったのか、王様はホッとしたような表情を見せた。
「お願いするよ、四葉ちゃん」
全ての迷いは消えた。レイが王子様だとか、私が将来女王様だとか、そんなことは今は考えない。だって、レイが大好きなんだもん!その気持ちだけは、ウソじゃないんだ!
その頃、家に戻ってきたカレンは、テレビをつけて「ええっ!?」と驚きの悲鳴をあげた。
「ジャジャ〜ン!緊急特番!レイ様の結婚相手は、ハクモクレン家のジャスミン嬢でほぼ決定!」
衝撃的な見出しに、びっくりしすぎてソファーからすべり落ち、おしりが痛かったが、そんなこと言っているヒマではない。
「な、な、なんですの!?これは!!ちょ、ちょ、ヒロ!?ヒロ!?ヒロに電話ですわ〜!!!」
カレンはあわてて携帯電話のボタンを押し始めた。
レイとジャスミンさんが乗っているであろう馬車を上空から追いかけていく。さっきまで、たくさんの報道陣(?)が馬車の後を追いかけてきてたんだけど、魔物の森が近づくに連れ、不気味さがただよってきたのか、1台、1台と引き返していき、今は誰も後を追ってない様子だ。
「魔物の森」は魔界の外れの方にある森で、そこでは人以外で魔法を使える動物、すなわち『魔物』が住んでいるって、ヒロさんが言っていたっけ。昔は魔物もあちこちで見られたそうだけど、人間界と同じく魔界でも都市部の開発が進み、魔物は森や山奥に追いやられたんだって。そのせいか、ここ何十年「魔物」の姿を見たという報告もされてないけど、魔界を守る守り神である役割を担っているのは今も昔も変わらないみたい。だから、魔界を治める王族が間違った行動を行おうとしたり、世の中が悪い方向に進もうとすると、天変地異を起こしたりして、警告するんだって。不思議だよね・・・。
霧が森一面にただよい始め、視界が悪くなってきた。馬車を見失わないように、じょじょに降下しながら後をついていく。その時、急に馬車が止まった。そして扉が開き、レイとジャスミンさんが馬車から出てきた。外に出るや否や、ジャスミンさんはレイの腕にしがみつき、
「レイ様、霧がただよっていて、私、怖いです!」
と今にも泣きそうな顔で言っている。や・・ヤキモチやいている状況ではないけど、でもやっぱりなんか気に入らない気持ちになっちゃうよ・・・。ほんと、ヤキモチなんてかっこ悪いけど、恋している女の子なら、この気持ち分かってくれるはず。だけど、今は状況が状況ゆえ、グッとおさえなくちゃ。レイも記憶を失っているわけだし・・ここはおさえて・・・・。と、必死にガマンしてたけど、ジャスミンさんがますますレイにくっついて、
「レイ様・・・私・・・、ずっと前から・・・」
と言い始めた時、とうとう自分を抑えきれなくなったのか、
「レイ!」
と思わず叫んでしまった。その後すぐに「しまった!?」と口をふさいだけど、時すでに遅し・・・。レイとジャスミンさんがこっちに振り返り、私を見つけてしまった。レイは私の顔を見るや否や、
「き、君は、確かヒロの知り合いの彼女さんだったよね?」
と言って来たので、「へ?」と首をかしげた。『ヒロの知り合いの彼女さん』って何?どういうこと?全然話の流れが見えないんだけど、今はそんなことどうでもいいや!レイの記憶を戻しにやって来たんだもん!
「あ、あのね、レイ!私ー」
と、言いかけた時、
「ちょっと、あなた。レイ様に向って、そのような言葉遣いは失礼じゃない?」
私の言葉をさえぎって、ジャスミンさんが間に入ってきた。ジャスミンさんは冷たい氷ったような目で私をにらみつける。
「私とレイ様は、今から大変重要なことを行いに行こうとしてるのよ。ジャマしないでくれる?」
あまりの怖さに、一瞬ひるんで後ずさりしそうになったけど、負けてる場合じゃない!だって、元々はジャスミンさんが悪いんじゃない!魔法の石は壊すし、レイの記憶も奪っちゃうし!
私はなけなしの勇気をふりしぼって、一歩前に出る。
「わ、私だってレイに用事があるんです!ジャスミンさんこそ、ジャマしないでください!」
その言葉に反応したかのように、ジャスミンさんの目が紫色に光り出すのが見えた。そして次の瞬間、体に電流が走るような感覚に襲われた。
「っつ!?」
目の前が真っ白な光で覆われていく。朦朧(もうろう)とした意識の中でレイの声が聞こえる。
「ジャスミン!やめるんだ!」
だけど、ジャスミンさんはやめる気配を見せない。
「レイ様に失礼なことを言ったからには、遠くに追放いたしますわ」
追放!?追放ってどこに!?なんとか、この魔法を解かなきゃいけないけど、ダメ!抵抗したくても、力が出ないよ!!ますます強くなる電流のような衝撃の中、ジャスミンさんがニッと笑うのが見えた。
「さよなら、クローバー家の子孫さん」
と、その時だ。
「やめろーっ!!」
レイが突然私の目の前に飛び出してきた!
「レイ!?」
その瞬間、私とレイの姿が真っ白な光の中に消えていった・・・・・
「・・・葉、・・・葉、四葉!」
誰かに名前を呼ばれたような気がして、そっと目を開ける。
「んん・・・」
次の瞬間、目の前にあった顔を見て、びっくりして飛び上がった。
「ミ、ミキちゃん!?」
そう、人間界にいるはずのミキちゃんが目の前に立っているではないですか!?ええっ!?どういうこと?ミキちゃんがいるってことは、ここは魔界でなくて人間界なの!?
私のあわてぶりを見て、ミキちゃんは首をかしげている。
「ったく、どうしたの?四葉。こんな真冬にベンチで寝てたら風邪ひくわよ。というか、転校先から帰ってくるんだったら、連絡ぐらいくれてもよかったのに」
転校先、戻ってくるなら連絡・・・ってやっぱりここは人間界なんだ!?ジャスミンさんったら、私を人間界まで飛ばしちゃったわけなの!?ど、どうしよう〜!!
それだけでもパニックになっている私だったのに、さらに衝撃が襲う。ミキちゃんはクスッと笑い、
「でも、あいかわらずレイ君とは仲良しみたいね♪一緒に帰省するなんて、ほんとに2人は夫婦みたいなんだから♪」
と言った。え?レイ?人間界に飛ばされたのは私だけのはずじゃ・・・・。クルリを後ろを振り返った瞬間、私は心の中で「ギャッ!?」と叫んでしまった。だってそこにはレイがいたんだもん!しかも、魔界の王子様ファッションのままなんだよ!?こんな普通の住宅街には不似合すぎるファッションだ〜!!
「え・・?ここどこ?」
レイも目が覚めたらしく、周りの風景を見て首をかしげている。ミキちゃんはまじまじとレイを見つめ、
「四葉、レイ君ってば珍しい服着てるけど、何?演劇でもやるの?」
と怪しんでいる。やばい!これ以上、ここに長居は禁物だよ!レイが何か口走る前に去らなきゃ!そう思った私は、レイの腕をつかむや否や、
「ごっ、ごめん、ミキちゃん!また後で!」
と叫んで、ミキちゃんの前から走り去った。
ごめん、ミキちゃん・・・。せっかく久しぶりに会えたのに、愛想のない友達で・・・・。
王子様ファッションのレイを、道行く人が不思議そうに見てたけど、なんとか無事私の家まで連れてきた。相変わらず、家は空き家状態だったけど、ポストの裏に隠していた鍵でなんとか中に入ることができたんだ。
「はあ・・、ひとまず家に入れてよかった・・・」
ドアを開けた瞬間、なつかしい家の匂いがして、ホッとした気持ちになった。だけど、ホッとしたのもつかの間、すぐに現実に戻される。そう、私だけでなくレイまでも人間界に飛ばされたってどういうこと!?魔界では今も地震や災害が続いていて、レイの力が必要だというのに、レイが人間界にいたんじゃどうしようもないよ〜!!
「あれ・・・、ここどっかで見たことがあるような・・・」
ふとレイがつぶやいた。私に関する記憶がなくなっているから、人間界で過ごしたこともきっと忘れてるんだよね・・・。でも、もしかしたら少しぐらいは残っている記憶もあるのかも。
「よかった・・・記憶はなくしていても、なんとなくは覚えているんだね・・・」
ホッとしたのか、素直な気持ちが思わず声に出た。するとレイは驚いた顔で、
「え!?おれ、記憶がないのか!?」
と叫んだ。
「え・・あ・・うん・・・」
「でも、おれ、自分の名前やどういう者なのかってことは分かるぞ!記憶喪失じゃないと思うんだけど・・」
「あ、それは大丈夫だよ、レイ。全部の記憶じゃなくて、一部の記憶を失っただけだから」
私の説明を受けて、レイは何か思い当たるふしがあったのか「なるほど」というような顔をした。
「そっか・・・それでか・・・。何か大切なものを忘れたような気がしたのは・・・」
レイは「フー」とため息をつきながら、玄関に座り込んだ。そして私の顔を見て、
「なんかここ数日、心にぽっかり穴が開いたような、そんな気がしてたんだ・・・」
と言った。レイ・・・私の記憶はなくしたけど、心のどこかで気にしてくれてたんだね・・・・。なんか・・それだけでもじゅうぶんうれしいよ、私・・・。でも、心ではそう思ってみても、
「ところで、君は誰だっけ?」
ってレイに言われた時は、胸がズキッとした。大好きな人から、自分だけの記憶がぽっかりなくなるのって、ほんとに悲しいよね・・・・。名前さえ、もう呼んでもらえないんだもの・・・・。
私がつらそうな表情をしていたせいか、レイがあわてて、
「え?どうしたんだ?おれ、何か悪いこと言った?」
と心配そうに顔をのぞきこんできた。
「あ、ううん。なんでもないの。ええと、私はレイの友達だったんだよ」
なんか「恋人」といえずに、「友達」と言ってしまった。レイはその言葉に、ちょっと不信そうな顔をしたけどね。
私は話題を変えようと、
「それより、まずは何とか魔界に帰らなきゃね!」
と言って立ち上がった。そう、今はしんみりしてる場合じゃないよ!魔界に戻って、ジャスミンさんより先にレイと一緒に災害をおさめれば、レイの記憶は戻るかもしれないもん!今はそっちに賭けよう!
「で、レイ。魔界に戻りたいんだけど、どうやったら帰れるか知ってる?」
私自身、魔界に一人で行ったことはなくて、いつも誰かが連れて行ってくれたから、行き方を知らないのよね。だから、レイだけが頼りの綱だったけど、レイってば、
「帰り方・・・うーん、おれも忘れちゃった」
って言ってのん気そうに笑ってるんだよ!?私の名前を忘れたとしても、魔界への帰り方ぐらいは覚えていて欲しかった・・。
全てがふり出しに戻ってしまったような気がして、「ハア・・」と大きくため息ついて床に座り込んだ。するとレイもすぐそばに座り込んで、私の顔をじっと見つめて言った。
「それより、君の名前は?」
「え・・・」
なんでだろう・・・、別に名前を言うだけなのに、みょうに心臓がドキドキして顔が赤くなってきた・・。だって、改まってレイに自分の名前を言うなんて、初めて会った時以来だもん・・・。
「よ・・・四葉・・・」
照れながらそう言うと、レイはニコッと笑って、
「『四葉』、だね!四葉、よろしく!」
とうれしそうな声で言った。
その頃、魔界では・・・・・
「魔界ニュースです。最近、ひんぱつして発生している地震を、レイ様とハクモクレン家のジャスミン様が『魔物の森』に向かい、沈めに行かれたそうです。地震がおさまることも注目せねばなりませんが、レイ様とジャスミン様の関係も気になるところです」
「って、どの番組もこのニュースばっかりじゃない!」
ランは怒ってテレビのリモコンを床にたたきつけた。そんな興奮気味なランを横目で見ながら一葉は、
「落ちつけ、ラン」
と言ったが、ランは、
「落ちつけるわけないじゃない!テレビったら、ウソばっかり報道して腹が立っちゃう!レイ様の運命の人は四葉ちゃんだっていうのに〜!!」
と叫んでいる。だが、すぐにランは暴れるのを止め、ポツリとつぶやいた。
「四葉ちゃん・・・ジャスミンさんに先を越されちゃったのかな・・・。このままじゃ・・・」
確かにランの言うように、さっきからずっとレイとジャスミンの話題しかニュースに出てこないので、一葉も頭の中に嫌な考えが浮かんでしまった。でも、そうは思いたくない。
「ラン、きっと大丈夫だ」
「え?」
ランは一葉の方にふり向くと、一葉は笑顔で答えた。
「絶対、大丈夫だ、四葉と王子なら」
この前、四葉にふられたままでまだ失恋の痛みをひきずっているはずの一葉だとは思うが、でも今はこうやって四葉とレイのことを気づかっている姿を見てランは、一葉が一回り成長したような気がした。
「一葉、ますますかっこよくなったかも・・」
「へ?」
「あ、ううん、なんでもない!うん、そうだね!あの2人は無敵のコンビだもん!絶対ハッピーエンドを迎えられるよね!」
「やっぱり、人間界から魔界には電話できないかあ・・・」
携帯電話を取り出して、ヒロさん達に連絡しようとしたけど、やっぱり圏外で電話はかけられないみたい・・。そうだよね、人間界から魔界に電話をかけるっていうのは、海外で日本の携帯電話を使おうとして圏外になるのと同じようなものだもんね・・・。
「はあ・・どうしよう・・・。私もレイも魔界の戻り方が分からないなんて・・・」
あせっている私の横で、
「四葉!おれ、これが食べたい!」
と言って、レイがポテトチップスをうれしそうに持ってきた。のん気にしている場合じゃないけど、おなかは減るものゆえ、レイと一緒にスーパーマーケットにやって来てる最中だったことを思い出した。記憶はなくなっているけど、人間界で好んで食べていたものの記憶はあるのか、さっきからレイは大好物だったお菓子を中心に私に持ってくる。いいんだろうか・・・魔界が大ピンチだというのに、王子様は優雅にお買い物で・・・・。
でも・・、レイとこうして2人でスーパーで買い物なんて、初めて会った頃に戻ったみたいだよね・・。ふと昔のことを思い出し、「フフッ」と微笑んでいると、レイがお菓子の棚を見つめながら、
「おれ、こういうところ、初めて来るんだと思うけど・・・でもなんか初めてって感じもしないんだ・・・。なんか1回きたことがあるかも・・それに・・」
と言って、私の方にふり返った。
「四葉とも、初めて会ったっていう気がしない。四葉はいったいおれの何なんだ?ほんとに友達だけだったのか?」
真剣な表情でそう言われ、思わずドキッとしてしまった。言っちゃおうか?「私はレイの彼女だったんだよ」って。でも・・・なんか・・そんなこと恥ずかしくて言えないよ・・。だって、レイにしてみれば、見ず知らずの女の子からそんなこと言われたら、「こいつ、なに生意気なこと言ってんだ?」ってあきれるかもしれないし。それに・・・「彼女だった」っていうことを信じてもらえないかもしれない・・・。それが、一番こわい・・・。
「わ・・私は・・・」
次の言葉を必死に探している時だった。
「あれ?日高とレイくん?」
聞き覚えのある声に、思わず振り返る。するとそこには、大野くんが立っていた!うわっ!大野くんもすっごい久しぶり!全然変わってないさわやかな笑顔。でも、身長は少し伸びたいみたい!
「大野君!」
私の言葉に、
「大野!?」
とレイが反応した。レイは大野くんをにらみつけると、
「なんだろ・・・コイツをみると、ムショーに怒りがフツフツと・・・」
と言って、今にも大野くんに飛びかかりそうな雰囲気・・・。うん・・、きっとレイの記憶が、遠くから呼び覚まされているんだろうな・・・。でも、それぐらい大野くんはレイに強烈なインパクトを与えた人物だったのかしら・・・?
レイににらみつけられていても、大野くんは相変わらずマイペースで、
「やあ、レイくん♪元気だった?」
とうれしそうに話しかけている。大野くん、やっぱり何も変わってないね、昔のままだ。そんなことしみじみ思っていると、大野くんが私の方にふり向き、
「2人一緒に帰ってきているところを見ると、やっぱりレイ君は日高の『運命の人』だったんだね」
と言って来た。
「運命の人?」
レイがその言葉に食いついた。
「わ〜!!!大野くん、ストップ!ストップ!」
私はあわてて大野くんの口をふさごうとしたけど、一度しゃべり始めたら止まらない大野くんゆえ、どんどんしゃべっていく。
「うん、レイ君は日高の彼氏じゃないか♪」
「おれが・・四葉の彼氏・・・」
レイは私をちらっと見ながら、と言った。私はどんな表情していいか分からず、苦笑いしてた。すると、大野くんがさらに追い打ちをかけてきた。
「そうだよ、レイ君♪日高とレイ君は『婚約者同士』だって宣言してたの、何回も聞いたよ。それに・・・」
「おっ、大野君!ごめん!また今度ね!」
これ以上ここにいたら、大野君に何を言われるか分からないもん!私はレイをつかむと、大野君の前から風のように立ち去った。
「よ、四葉、どこに行くんだ!?」
「べ、別にあてはないよっ!」
とりあえずスーパーを出たものの、特に行くあてもなくレイを引っ張って歩いている。すっかり日は暮れ、街はクリスマスが近いのかイルミネーションがチカチカと輝き始めた。なかよく手をつないで歩くカップルを見ると、なんだかうらやましかった。確かに今の私とレイも周りの人から見たら、カップルに見えるかもしれないけど、「真」のカップル」じゃないからなあ・・・。
気づいたら、レイと最初に出会った日に、レイから四葉のクローバーのプレゼントをもらった公園にやって来ていた。あの日、レイは頭に雪をのせながらも、私のために四葉のクローバーをここで探してくれたんだよね・・・。その時のクローバーは、今でも私の携帯ストラップの入れ物の中に大切に保管されてるお守りだよ。
「なあ、四葉」
レイに急に声をかけられ、ドキッとした。
「な、なに?レイ?あ、おなか空いた?」
話題を変えてみようとしたけど、レイは真剣な顔で私を見つめている。
「四葉・・その・・・おれ達は、恋人同士だったのか・・?」
一瞬、なんて答えたらいいのか分からなくて、しばらく黙ってた。でも、心の奥で『私だよ!四葉だよ!レイ、思い出して!』と必死に叫んでいる自分がいた。だから、そのせいかな・・・、
「レイは覚えてないと思うけど・・うん・・確かに恋人同士だったよ・・」
と自然に口が動いてた。レイに「うそだ」と言われるかもしれない。でも、構わない。今伝えておかなきゃいけないことは、今のうちに言っておいたほうが、後で絶対後悔しないはず。私はレイに背を向けたまま、続ける。
「でも、ちょっとした事故があって、レイから私に関する記憶だけがなくなっちゃったんだ・・・」
「四葉に関する記憶だけ・・・」
公園の街灯に照らされたレイの顔は、悲しそうな表情を浮かべてた。私はあわてて、
「あ、だけどね、ちゃんと元に戻す方法が・・」
と説明しようとした時、急にあたたかなものに包まれる。レイがギュッと後ろから抱きしめてくれていた。その瞬間、周りの音も風も何もかもが止まった世界になったような気がした。
「ごめん・・・そんな重要なことを忘れてしまってて・・・・・」
レイが耳元でつぶやいた。レイの記憶が戻ったわけじゃないけど、その言葉が私に安心感をくれた。それは同時に無限大の「勇気パワー」にもなっていく。私はレイの腕をギュッとにぎりながら、
「大丈夫だよ」
と言った。
「私が必ず、レイの記憶を戻して見せるから、安心して」
うん、絶対大丈夫だよ!だって、レイは私の「運命の人」だもん。たとえ、意地悪な魔法で「赤い糸」が切れたとしたって、何度でも糸を結び直してみせるんだから!
急にレイが、私を抱きしめる力を強めて言った。
「おれも、必ず思い出してみせるから・・・・」
レイに抱きしめられたまま空を見上げると、星が輝いていた。一つ星が流れたような気がした。私はあわてて流れ星に願いをかけた。
「レイの記憶が戻りますように・・・」
「ヒローッ!ヒローッ!ヒロはいますの!?」
家から猛スピードでお城にやって来たカレンは、ヒロの部屋に飛び込んだ。
「ちょっと、テレビ見ました!?レイとジャスミンが『熱愛』って報道されてますのよ!」
「知っております〜!!あんなウソ、私、絶対許せません!レイ様は、レイ様はジャスミン様のものではありませんのに〜!!」
そう言って、ヒロは体長30センチほどの「お手製レイ人形」を抱きしめながら泣いていた。その光景を見た瞬間、カレンの怒りに火がついた。ツカツカとヒロの前まで歩き進むと、ヒロに向って叫んだ。
「ちょっと、ヒロ!なにレイの人形なんか作っていますの!?変ですわ!そんなもの捨てておしまいなさい!」
突然カレンに怒られ、びっくりするヒロだったが、人形を抱えたまま、
「そっ、そんなっ!?これは私の大切な宝物なのです!レイ様を捨てるなんてできません!」
と訴えているので、カレンはますます腹が立ってきた。
「なに言ってますの!だっておかしすぎますわ!恋人より、レイの人形を作って大切にしているなんて・・・・」
そこまで言うと急にカレンはカーッと真っ赤になり、口をつぐんだ。
『こっ、これじゃ、まるで私がヤキモチ焼き女みたいじゃないですの!?しかも、男相手に・・・』
ヒロがレイのことを大切にしてるのは、「自分の主人だから」というのはよく分かっている。家族に早く先立たれて、一人ぼっちだったヒロに手を差し伸べたレイのことをヒロが慕うのもよく分かってる。分かってるけど、でもやっぱりもっと自分のことも気にかけて欲しい。だってヒロの彼女なんだから・・・。
そんなことを考えていたカレンに、
「カレン様・・。その・・あちらに私達の人形を作って置いているのですが・・・」
とヒロが言ったので、カレンはびっくりしてそっちの方を見てみた。すると、タンスの上に、ヒロとカレンの人形が仲良さそうに並べられている。驚いているカレンにヒロが照れながら言った。
「そ・・その・・許可なく作ってしまって、大変申し訳ないのですが・・・・」
カレンは自分とヒロの人形を手に取ってみる。ヒロが作った人形は、とても特徴をつかんでいて、自分にそっくりだ。
「これが私・・・、そしてこっちがヒロ・・・・」
「あっ!似てなくて申し訳ございません!もう一度、きれいに作り直しますので、安心してください!」
そう言ってヒロはカレンから人形を奪い取ろうとしたが、カレンは、
「なんで作り直しますの?」
と言った。ヒロは驚いたが、カレンは優しいまなざしで人形を見つめている。
「私・・とってもうれしいですわ・・・・。だってヒロってば、いつもレイのことばかり考えていて、私のことなんて忘れているのかと思ってましたから・・・」
いつもカレンといえば、怒っている表情ばかりを見ているヒロゆえ、こんなふうにおだやかに笑っているカレンを見ると、普段以上に「愛しい」気持ちになってくる。そのせいか、いつもは照れて言えないような言葉が自然と口から出てきた。
「レイ様のことばかり・・ではありません。私、いつもカレン様のことを想ってます・・・。朝起きても、夜寝るときも・・・・」
と、ヒロが言いかけた時、突然、
「緊急ニュースです!」
とテレビの中でアナウンサーが叫んだので、ヒロとカレンは一気に現実に引き戻された。
「もーっ!なんですのよっ!(いい雰囲気でしたのに!)」
カレンがいくら怒っても、テレビの中のアナウンサーには届かないゆえ、そのままニュースは続く。
「レイ様との関係がウワサされていて、魔界の危機を救おうとされているハクモクレン家のジャスミン様と連絡が取れました!」
そう言うや否や、画面は報道陣に囲まれているジャスミンに変わったので、ヒロとカレンはびっくりした。
「ジャスミン様!レイ様との関係がうわさされていますが、真相はいかがなのでしょうか!?」
「次の女王はジャスミン様だと思ってもいいのですか!?」
いろいろな質問を浴びていたジャスミンだったが、ニコッと笑うと、
「ええ、そういうことになると思っていただいてけっこうです」
と答えた。それを見ていたカレンは思わず叫んだ。
「ちょっと!?あの子、何ウソ言ってますのよ!!」
「このままでは、まちがったウワサが魔界中に広まってしまい、レイ様にも支障をきたします!」
ヒロも困惑した表情を浮かべる。テレビの中のジャスミンは勝ち誇ったような表情を浮かべていたが、
「ではジャスミン様、レイ様はどこにいらっしゃるんですか?」
という質問をされた瞬間、表情がこわばった。
「レ・・レイ様は・・・」
ジャスミンが言葉を濁していると、また地面がグラグラ揺れ始めた。
「また地震だ!?」
「大きいぞ!伏せろ!」
テレビ画面が大きく揺れ、報道陣達のパニックに陥った叫びだけが聞こえてくる。数十秒後、地震がおさまったとホッとするのもつかの間、ニュースが続々と飛び込んできた。
「大変だ!東部の方ではダムに亀裂が入ったそうだ!」
「山間部では、山の土砂が崩れ、村をのみこんだという情報も入ってきたぞ!」
「XX地方では、橋が落下して○○村が孤立したらしい!」
一人の記者がジャスミンに、
「ジャスミン様!早くレイ様と一緒に、なんとかしてください!」
と叫んだ。それと同時に他の記者達も、
「国民が一大事だというのに、レイ様はいったい何をしてるんだ!」
「ジャスミン様、次の妃になるのであれば、今すぐどうにかなさってください!」
と騒ぎ出したため、ジャスミンは焦りを感じ始めた。
『レイ様とあの子を・・どこに飛ばしたのか分からない・・・。あの子だけ魔界の外に飛ばそうと思ったのに、レイ様まで飛ばすなんて!でも、今はそんなこと後悔している場合じゃないわ。次の妃の座もクローバー家の復活も、絶対あの子には渡さない!』
ジャスミンは一つ深呼吸すると、記者達に向って口を開いた。
「分かりました。レイ様は今、森の奥で地震を沈めるための儀式を行っていて、ここにはいらっしゃいませんが、次の妃になる私が、この世界をなんとか救ってみせましょう」
自信満々なジャスミンの表情をテレビ越しに見ていたカレンは、
「って、ますますあの子、何考えてますのよ!」
と、ジャスミンのウソにとうとう怒りが爆発したようで、テレビをゆすって叫んでいる。それ以上テレビをゆすられると、ヒロのテレビが壊れそうな気がして、ヒロは不安になった。でも今はテレビの心配より、レイの心配の方が重要である。
「それよりカレン様、レイ様と四葉さんは、いったいどうされたんでしょう?ジャスミン様は、レイ様が森の奥で儀式をしている、とおっしゃってましたが、ジャスミン様がレイ様から離れて行動するなんてありえなさそうですし・・・」
ヒロにそう言われて、カレンもレイがいない不自然さを感じた。
「そうですわね。なんでジャスミン1人で地震をおさめようとしてるのかしら?レイがいたら、レイと一緒に仕事をするはずですわよね」
「ハイ。ジャスミン様のことですから、レイ様を1人にして四葉さんにチャンスを与えるとは思えないのですが・・」
「と、いうと、レイと四葉さんの身に何かあったってことですの!?」
「ハイ・・そう思わざるをえないと思います・・」
ヒロとカレンはなんだか悪い予感がした・・・。
「レイ、どう?そっちには書いてあった?」
「いや・・見つからないな・・」
私とレイは地下室に作っていた元ヒロさんの部屋に行き、本棚に並んでいた書物を片っ端から読んで、魔界の帰り方を探し始めた。ヒロさん、人間界から魔界に帰る時、ここに置いている本を持って帰らなかったみたいだけど、大丈夫だったのかな?でも、まあ、あっちにも捨てるほどたくさんの本が部屋にあるって聞いたことがあるから、別にいいのかな?それに置いていってくれたおかげで、今こうして私とレイが探しものができるんだから、感謝しなきゃ。
本を調べ始めてから30分ぐらいたったけど、やっぱりどの書物にも「魔界への戻り方」は書いてなかった。
「ダメだ・・・見つからない・・・・。でも、なんとしてでも魔界に戻らないといけないのに・・・」
レイが頭をかきむしりながら、うなった。私は本を閉じて、昔のことをもう少しくわしく思い出そうとした。あれは何の時だったっけ・・・。確か、カレンさんがレイを好きだった頃、今と同じく、レイが記憶をなくしていた時があったよね・・。あの時、カレンさんは無理やりレイを魔界に連れて帰ろうとしてた・・・。私はそれを止めようと、カレンさんを追いかけたのは・・・空だった。そう、カレンさんが空飛ぶ馬車でレイを連れて、魔界に帰ろうとして、空に飛び上がったんだ!と、すると、魔界への入口は空にあるかも!
「レイ!きっと空だよ!」
「へ?空?」
「うん!確か、空のどこかに魔界に通じる入口があったような気がする!」
レイも本を閉じ、「なるほど」とポンと手をたたいた。
「そうか、空か!そういえば、誰かが『人間界の入口は空にある』とか言ってたのを今思い出したかも!で、四葉。空のどこら辺にあるんだ?」
レイにそう聞かれて、私は「え・・・」と固まってしまった。空って一口で言っても、実際はとてつもなく広いよね・・・。そんな広大な空の世界から、どこにあるかも分からない魔界への入口を探せっていうのは、酷過ぎるかも・・・。
返答できなくて、うつむいて困っていると、急にレイがポンと肩をたたいた。
「『空』って気づいただけでも、四葉はえらいよ。とりあえず空に飛び上がってみよう。何か分かるかもしれないし、きっとなんとかなるって!」
変わってないね。いつも何の根拠もないけど、レイが微笑んで励ましてくれるだけで、元気が出てくるからほんと不思議だよ。
それから私達は家のベランダに出て、空を見上げた。冬の寒さと澄んだ空気のせいか、星がチカチカ光っているように見える。この夜空のどこかに、魔界に通じる入口があるはず。目を閉じて、感覚をとぎすませば、きっと見つかる。あの世界への帰り道が。そんなこと考えながら、夜空を見上げていると、レイが、
「ハイ」
と言って、私に手を差し出してきた。
「へ?」
首をかしげながら、レイを見ると、レイは真っ黒な翼を広げながら、
「このまま四葉姫を抱えて飛び上がりますので、どうぞ私の手につかまってください」
といって深々とお辞儀してみせた。なんだか、王子様にダンスを申し込まれたような気持ちになっちゃった。ちょっと照れながらも、レイの手をとると、レイは手をギュッと握り、私を抱え、フワッと空に舞い上がった。スーッと上昇していくにつれ、生まれ育った街がどんどん小さくなっていく。もう一度魔界に戻ったら、今度この街に戻ってくるのはいつになるのか分からない。それだったら、もうちょっとミキちゃんと大野くんと話してくるんだったな、なんて後悔しちゃった。少しさみしい気持ちもしたけど、でもこの街を離れても、ずっと一緒にいたい人がいるんだ。そう思って、チラッとすぐ隣にいるレイを見てみた。レイも私が見ていることに気づいたのか、私の方を見た。目が合った瞬間、思わずお互い「クスッ」と笑ってしまう。ほんと他愛無いことなんだけど、でもこれから5年後、10年後、もっともっと年をとっておじいちゃんおばあちゃんになるぐらいの年になっても、こんなふうにレイと一緒に微笑み合うことができたら、ステキだよね。
そんなことを想像してた時だ。レイが突然、
「なあ四葉・・。なんか・・・、人間界って魔力が出にくいところだよな・・・」
と言い出したので、私は重大なことを思い出してしまった!そうだった!レイは人間界では、魔力が弱まるんだった!なんでそんな重要なことを忘れちゃってるのよ!!でも、すでに時遅し!
「ヤベッ!魔法が消える!」
レイがそう叫んだ瞬間、レイの翼はスーッと消え、私達は重力に逆らうことができず、地上めがけて落下し始めた!あまりのスピードに、息もできない状態だったけど、私は必死にポケットから携帯電話を取り出し、叫んだ。
「お願い!空飛ぶ魔法の石、力を貸して!」
落下する中、携帯がパアッと白く輝き始めるのが見えた。
ジャスミンはあせっていた。「魔物の森」に向って、さっきから何十回と魔法をぶっ放しているのだが、いっこうに災害はおさまることなく、相変わらず激しい地震が魔界を襲っている。お城のベランダから魔法を使っているジャスミンを、庭から囲んで見ていた報道陣らも、
「やはりジャスミン様一人だけの力じゃ、災害をおさめることはできないようだな・・」
「というか、『魔物の森』がジャスミン様の力を受けつけないような雰囲気にも見えるのだが・・。なんかさらに地震が激しくなってきてないか?」
と疑問の声が上がり始めてきた。その声がさらにジャスミンをあせらすのだ。ジャスミンは自分の手を見つめた。
『なんでなの・・。数百年前、クローバー家を封印して、ハクモクレン家が繁栄し続けるように、魔法をかけたというのに・・・・。今回だって、「魔法の石」を壊して、完全にクローバー家をつぶしたというのに、なんで私が「一番」になれないの?』
その時だ。突然、ジャスミンと報道陣の頭上がパアッと明るく輝き出した。
「な、なんだ!?まだ夜のはずだぞ!?」
一瞬、夜明けがきて、太陽が顔をのぞかせた時のまぶしさかと思ったが、違うかった。光がおさまるにつれて、そこに2人の人影が現れた。しかも一人は白鳥のような真っ白な翼を持って、宙に浮かんでいる。
「なんだ!?ライトを当てろ!」
誰かが叫び、近くにいた照明係が突然現れた人物に光を当てた。その映像をテレビを通して見ていたヒロとカレンは、「ああっ!?」と声を上げた。というのも、その2人とは四葉とレイだったからだ。
「とっ、突然、空からレイ様と女の子が現れました!女の子は、最近はめったにないという『真っ白い翼』を持った方です!いったいこの方はどなたなのでしょう!?」