最終回:大好きっ!

「とっ、突然、空からレイ様と女の子が現れました!女の子は、最近はめったにないという『真っ白い翼』を持った方です!いったいこの方はどなたなのでしょう!?」
四葉は下を見下ろしてびっくりした。
「え!?な、なにこれ!?さっきまで私達、人間界にいたよね?大野くんとミキちゃんにも会ったし・・、で、でもなんで今は魔界に戻ってきてるの!?」
目をこすってみる。だが、やはり夢ではないようだ。目の前には人間界の日本には存在しない大きな西洋風のお城がそびえ立っている。まあ、日本もディズニーランドにはよく似たようなお城があるが、四葉の家の近所にこんなお城は存在しない。
しばらくポカ〜ンとしていた四葉とレイだったが、下から、
「レイ様!そばにいる方はいったいどなたなのですか!?」
「どういった関係なのですか!?」
と報道関係っぽい人達が声をかけてくる。するとレイは四葉の顔をチラッと見てからいきなり、
「四葉は、おれの婚約者だ!」
と叫んだので、魔界全土は「えええええ〜っ!?」と驚きの声でどよめいた。

「キャーッ!!一葉!レイ様、記憶が戻ったみたいよ!よかったね!」
テレビでレイと四葉の報道がされていたのを見ていたランは、隣にいた一葉に向ってうれしそうに叫んだ。一葉は首をかしげながら、
「戻ったかどうかは分からないけど、相変わらず、王子はバカだな・・・・・・」
と苦々しくつぶやいた。

「婚約者だって!?」
「婚約者はジャスミン様じゃなかったのか!?」
ざわめき出す報道陣やら、パニックになっているお城の関係者などを宙に浮かんだ状態で見下ろしていた四葉はレイに、
「バカバカバカバカ〜ッ!!なんでそんなこと人前で言うのよっ!」
とポカスカなぐりながらわめいたが、レイは、
「え、だって本当のことだろ?なんで怒る!?」
と不思議がっている。そりゃ、レイは生まれたときから王子ゆえ、周りの人達に騒がれる状況には慣れているかもしれないが、四葉はこんな体験は初めてゆえ、頭の中がパニックだ。だが、さら事態は急展開を見せた。
「その人、ウソをついてますわ」
突然の発言に、皆がいっせいに発言者の方に振り返った。そこにはジャスミンが立っていて、相変わらず氷るような冷たい目で四葉を見つめている。報道の誰かが、
「え!?ウソと言いますと、あの子はレイ様の『婚約者』ではない、ということですか!?」
とジャスミンに聞いた。ジャスミンはうなずき、
「ええ、実はレイ様は今、記憶をなくされてますの。そしてその子は、それを利用してレイ様の婚約者のフリをして、この国の女王の座をねらってますのよ。皆さん、だまされないで」
と言った。ジャスミンの発言に、またざわめき始める報道陣達。
「おい、いったいどういうことなんだ?」
「ジャスミン様とあの女の子、どっちが本当の婚約者なんだ?」
「レイ様が記憶をなくされているのが本当だとしたら、やっぱりあの女の子がウソをついてるんだろうか?ジャスミン様の方が由緒正しい身分をお持ちだし・・・」
そんな会話が四葉の耳にも入ってくる。自分はウソを言ってないのに、ジャスミンの一言で、まるで四葉がレイをそそのかして婚約者に成り上がろうとしているようだ。四葉は「それはウソです!ジャスミンさんの方がウソをついてます!」と言いたい気持ちがこみあげてきたが、ここで下手に発言してしまうとまた状況が悪化しそうな気がしてグッとこらえた。だが、このままでもまずい。いったいどうしたら・・・と思っていた時だった。
「じゃあ、四葉が婚約者だっていうことの証明を見せよう」
突然レイがそう言ったので、皆「え?」と驚いた。レイはフワリと空から下に降りてくると、報道陣の前に歩み寄った。
「今起こっている災害は、おれ一人の魔力で封じるのは難しい。完全に封じるためには、本当に心を通じ合わせた人でしか行えないんだ。そして、おれは・・・」
レイは四葉の手をグイッとひっぱる。
「おれは、四葉となら災害を封じることができると思うんだ」
レイの発言にまた会場は「わあっ!」とわいた。四葉もりりしいレイの横顔を見て、今まで心細かった気持ちがスーッと消えていく気がした。そして同時に、この先、どんなことがあってもレイがそばにいてくれさえすれば、絶対大丈夫だ、と思った。
今度は逆にジャスミンの方が不利な立場になった。言いかえそうにも言葉が見つからないし、さらにジャスミンを追い込む事態が起こった。
「四葉さんは、由緒あるクローバー家の子孫ですわ」
突然聞こえてきた声に、皆がいっせいにそちらに振り返るとそこにはカレンが立っていた。四葉はびっくりして、
「カレンさん!?」
と思わず叫んだ。報道陣達も驚き、
「え!?カレン様、クローバー家とはあの大昔に繁栄していたクローバー家でございますか!?」
「今は子孫もどこかに消え、伝説の貴族になっていたあのクローバー家!?」
「こ、これはスクープだぞ!」
と大騒ぎ状態にカレンはニッと笑う。
「ええ、間違いなく四葉さんは、クローバー家の子孫ですわ。だって皆様も、先ほど四葉さんが白い翼を広げている姿をご覧になられたでしょ?今存在している貴族の中でも、翼を持って空を飛べる人は、誰もいませんわ。それだけ四葉さんの魔力は強いってことですのよ」
そう言うと、カレンは四葉にパチッとウィンクした。四葉はカレンが助けに来てくれると思ってなかったので、すごく驚いたし、同時にすごくうれしかった。初めてカレンに会った時は、ライバルとしてにらまれていたし、けんかもしたこともあったし、「友達」になれるなんて思ってもなかった。でも、今は違う。カレンは四葉にとってとても大切な「友達」だ。それが四葉にはとてもうれしかった。
カレンの発言で、報道陣達はまた意見が変わり始めた。
「やっぱりあの女の子がレイ様の婚約者だ!」
「伝説の貴族の復活!これは大スクープだぞ!」
「明日の一面は、この話題で独占決定だな!」
すでに周りは「レイ様、祝ご婚約!」というお祭りムードになっていたのだが、
「ちょっと待って!」
とジャスミンが叫んだため、一気に会場はシーンと静まり返った。ジャスミンは四葉をにらむと、
「まだ証拠を見せてもらってないわ!本当にレイ様の運命の相手なら、この災害をしずめてみなさいよ!婚約者だったら、軽くできるわよね!」
と言った。四葉はジャスミンの冷たい目に、一瞬ひるみそうになったが、負けずにジャスミンをにらみ返した。災害をしずめられなかったら、という不安がないわけではない。でも、こうなったらやるしかない。もう後戻りはできない。四葉は、深く深呼吸してから言った。
「分かった、やってみる!」
四葉の宣言に、またざわめき出す報道陣達。彼らは完全に、レイの婚約者はクローバー家の子孫、だと思い始めているようだ。だが、ジャスミンだけは違った。
『フン、やってみればいいわ・・・。でも、クローバー家の復活を握る「復活の魔法の石」は破壊されているのよ。あの石の力がなかったら、あなたにはこの災害を止める力なんて、これっぽっちも存在してないのに、やる気になってバカみたい。ま、後で「笑われ者」になるといいわ』
だが、四葉も四葉で、完全の魔法の石がそろってないことが自分に「不利」な状況を作っていることはなんとなく分かっていた。でも、全部はそろってないが、「なんとかなる」という気持ちもあった。
「それに私は・・・」
四葉は横をチラリと見る。するとそこには優しく微笑むレイがいた。レイは四葉に手を差し出し、
「四葉、行こう!」
と言ったので、四葉はその手を取り、
「うん!」
と言って空に舞い上がった。
魔法の石がなくても、四葉はそばにレイがいるだけで「絶対なんとかなる」と思えた。そしてこれは、何にも負けない「無敵のパワー」なのだ。

「ということで、災害を封印するために、レイ様と伝説の貴族クローバー家の子孫の方が、飛び立ちました。無事魔界を救われることを祈りたいです!」
家でテレビを見ていたキラリは、
「四葉と王子なら、絶対上手くいくはずだ!応援しているからがんばれ!!」
とエールを送っていた。そして隣で一緒に見ていたブレッドに、
「って、ブレッドも思うよな!」
と声をかけたのだが、返事がない。
「あれ?ブレッド?」
キラリは辺りをキョロキョロと見回してみたが、ブレッドはどこにもいない。
「へ?あいつ、どこいったんだ?」

四葉とレイは、災害の発生源となっている「魔界の森」に向って飛んでいた。冬が近いせいか、空を飛んでいると冷たい風が身を切るようで、四葉は何度もブルブルッと体を振るわせた。するとレイが急に手を握ってくる。いつもだったら照れて「きゅ、急に何よ!」と抵抗してみたりするのだが、今日は寒かったし、不安な気持ちもあって、レイが手をつないでくれているだけで、不思議と心が落ち着いてきた。
「なあ、四葉」
レイに声をかけられ、四葉はレイの方を見る。
「四葉のこと思い出すために、何か思い出話をしてくれないか?」
「思い出話?」
四葉はそう言われ、レイとの思い出を頭の中でふりかえってみた。
「そうだなあ・・やっぱり一番印象に残っているのは、初めて会った時かな・・・」

*******
四葉の体は真っ逆さまにすごい勢いで地上に向って落ちていき始めた!四葉はこれが現実なのか、夢なのよく分からないけど、地面に落ちているのは確かだ。四葉は思わず叫んだ。
「このままじゃ地面に落ちちゃう!!い、いやだよ!!だって、まだ私、運命の王子様の正体が本当は誰なのか見ていないのに!!こんなところで、死にたくないっ!」
四葉はギュッと目をつぶって願った。
「神様、仏様!誰でもいいです!お願い、お願い!誰か助けて!!」
と四葉が願った瞬間、空高くの方で「パアッ」と光があふれているのが見えた。でも落ちている四葉には何が起こっているのかよく分からない。もう地面まであともうちょっと。みるみる地面が近づいてきた!30メートル、20メートル、10メートル、ダメだ!地面にぶつかる!
ギュッと目をつむり覚悟した。その時だ。誰かが「ガシッ!」と四葉の手をつかんだ。さきほどまでの落ちていたスピードが突然ゆるまり、体がふわっと宙に浮いた。
「え? 何?」
驚いて目を開ける四葉。黒い鳥の抜けたような羽があたり一面に舞っている。そして目の前には、見知らぬ男の子の顔があって、四葉の体を抱きかかえている。でも、その男の子は普通の男の子ではなかった。背中には真っ黒な大きな羽を持っていて、バタバタと動かすとさーっと空高くまで四葉を連れて舞い上がった。
『黒い羽・・・・?だ・・・誰・・・?この子・・・・』
四葉がその男の子の顔をじーっと見つめた。男の子も四葉の顔をじーっと見つめる。そして、男の子は口を開いた。
「お・・おまえ・・・・」
その子は驚いたような顔をして四葉を見つめているので、四葉も不思議そうな顔をして見つめる。するとその男の子は突然「ギュッ」と四葉の体を引き寄せて、
「おまえ、おれの運命の女だ!」
と言って、何の予告もなく四葉にあついキスをした・・・・・
*******

その時のことを思い出した四葉は急に真っ赤になったので、レイは、
「な、何赤くなってるんだ、四葉!?おれはいったい何をしたんだ!?」
とあわてだす。四葉は赤くなった頬を手であおぎながら、続けた。
「べ、別になんでもないよ。それより、その初めて会った時はね、ちょうど私の誕生日だったの。それでレイが雪が降る中、公園で四葉のクローバーを探してくれたんだよ」

*******
辺りを見回すと、そこは四葉も来たことがない小さな公園だった。四葉は、レイを見てびっくりした。レイの頭の上にも肩の上にも、すっかり雪が積もっていたからだった。
「あ、あんた!?頭の上に雪積もらせて何をしてるのよ!!」
とびっくりして叫ぶ四葉に、すっとレイは手を差し出す。四葉は、差し出された手をのぞきこんだ。
「ハイ!四葉の誕生日プレゼントだ!」
そう言って差し出されたものは、四葉のクローバーだった。四葉は驚いてレイの顔を見る。レイは頭に雪をのせたまま、にっこり笑っている。レイの後ろに、公園の花だんが見えた。そこにはクリスマスローズという花が白い花を咲かせていたが、その下の方にはクローバーもひっそりと葉をしげらしていた。電灯のかすかな明かりが、そのクローバーの生えている辺りを照らしていた。このかすかな光の中で、レイはたくさんの三つ葉のクローバの中から、めったに見つけられない四葉のクローバーを探していた様子だった。四葉はレイの顔を見ながら、
「もしかして、これをずっと探していたの!?バカバカっ!!風邪とかひいたらどうするのよ!なんでこんなことするのよ!!」
と泣きそうな顔をして言うので、レイは不思議そうな顔をして
「なんでって・・・」
と一息置いて、にっこり笑って言った。
「だって、好きな子の誕生日にプレゼントって贈るものだろう?」
今まで言われたことのないような言葉に、四葉は思わずドキッとしてしまった。レイはちょっと照れながら、
「国に帰れば、宝石とか指輪とかそんなものを贈れるんだけど、今は手元になくてさ。「四葉」っていう名前だったから、このプレゼントが最高かなあ〜、なんて思ったわけだ。昔、本を読んだ時に、四葉のクローバーがある、っていう話を聞いていたから」
とうれしそうに話す。そんなレイをじっと見つめる四葉。そっと渡された四葉のクローバーを見た。
『な・・なによ・・こいつ・・・・。魔界の王子さまが、頭の上に雪をのせて、これをずっと探していたなんて・・・・。私の名前にちなんで、四葉のクローバーをプレゼントしてくれるなんて・・・・。なんでよ・・・パパもママもお兄ちゃんも、大野くんも、友達も、誰も祝ってくれなかった誕生日を、なんでこいつが祝ってくれるのよ・・・・』
四葉は、うつむきながら、
「レイ・・・、本当に行くあてないの?」
と聞いた。
『こんなやつ・・ほっとけばいいのに・・・。なんでだろう・・・・ほっておけないよ・・・』
*********

「一人ぼっちのクリスマス&誕生日で、誰もお祝いしてくれなかったから、すごくうれしかったんだよ」
四葉がニコッと微笑んだので、レイもすごくうれしい気持ちになった。
「で、それからレイはうちに住み始めたの」
「四葉んちに?」
「うん、人間界で迷っていていくあてがなかったから」
「・・そうだったのか・・・」
「そう、それで迷っていたおかげで、ヒロさんが現れたんだから・・・」

*********
「レイ様!いったい今までどこに行かれていたのですか!!私たちがご用意していた家にもいらっしゃらないで、今まで何をなさっていたのですか!?王様方がどれだけご心配なさったとお思いで!!」
とレイに向って言った。四葉はヒロの言った、『私たちがご用意していた家』というのを聞いて首をかしげた。そしてレイの顔を見ながら、
「確か・・初めて会った時、行くあてがないって・・・・、言っていたわよね?なのに、「ご用意していた家」って何のこと?」
と聞くと、レイはあっけらかんとした顔をして、
「だって、ヒロたちが用意していた家がどこにあるか知らなかったもん♪」
と答えた。その答えを聞くと思わず四葉は、
「な、なにそれ!?」
とレイに向って叫んでしまった。すると、
「ちょっとあなた」
とポンと肩に手がのった。恐る恐る四葉が振り返ると、ひじょ〜に怒ったヒロの顔が目の前に。「ひ!?」と飛び上がりそうになった四葉に、ヒロは、
「レイ様に向って、なんと言う口のきき方をしているのですか!?尊敬語をつけないさい!!レイ様は未来の魔界の王様!なのに、そのようなお方になれなれしい言葉使いは失礼ですよっ!!分かっているのですか!?」
と怒りながら叫んだので、その勢いに四葉は倒されそうになった。あわてて、
「あ・・、あのですね・・・」
と四葉がヒロに説明をしようとした時、ぐいっとレイが四葉の肩を引き寄せた。
「ヒロ。四葉はおれの婚約者だ!未来の女王様に向って、おまえこそ失礼だろ?」
と言ったので、四葉もヒロもびっくり!四葉はしょっちゅうレイに言われていることなので、そんなに驚きはしなかったのだが、初耳だったヒロは空高く飛び上がるほど驚いた。
「こ!?婚約者!?」
そしてあっけらかんとしているレイに向って、
「レイ様!あなた様は、ご自分がどういう立場におられるのか分かっているのですか!?どこの誰かも分からない女と結婚できるわけないでしょ!?きちんと身分にふさわしい方とでなければ、ご結婚はできません!!いえ、私が許しません!!」
と怒りながらヒロは言ったのだが、レイは知らんぷり。それどころか、
「うっせ〜な。おれは、好きな人と結婚するんだよ」
と反抗してみせた。ヒロは、近くにあった看板を「バシン!」とたたきながら、
「冗談じゃありません!」
と言って、どこからかロープのようなものを取り出してレイの体をグルグル巻き始めた。
「こうなったらナワでしばってでも、ご用意している家に連れて行きます!!」
と言ってナワでレイの動きを封じ込めようとしたので、レイは
「何するんだよ!?」
とあわててもがいてみたが、もう遅かった。四葉はそんな光景を見て思わず
「ちょっと待ってよ!レイをどこに連れて行くつもりなの!?」
と叫んでしまった。ヒロは四葉の顔をちらっと見て、
「レイ様は将来が大切なお方ゆえ、あなたのような『悪い虫』がつかないように、私たちが用意した家に連れて行くのですよ」
と言ってにやっと笑った。
*********

四葉はヒロと初めて会った日のことを思い出し、ハアっとため息をついた。
「今はヒロさんもだいぶん丸くなったけど、最初に会った日の印象って最悪だったんだよ・・。私なんか、レイにつきまとう『悪い虫』って言われたもん・・・」
四葉からその話を聞いたレイは、
「なに!?おれの四葉にそんなことを言ったのか!?あいつ、帰ったらおしおきだな!」
と怒り始めたので、四葉はあわてて、
「それは昔のことだから、もういいの!」
と訂正した。ヒロにとって、レイから冷たくされることが「一番つらいこと」だと知っているからだ。
「でも、確かにヒロも丸くなったな」
「うん、やっぱりカレンさんと恋をしたのが、大きいよね♪」
「だけど、ヒロとカレンが恋に落ちるなんて思いもしなかったけどなあ」
「そうだよね。だって、カレンさんって最初はレイのことが好きで、人間界にやって来たもんね」

*********
カレンは目をウルウルさせながら、レイの顔をじっと見る。
「私・・レイに会えなくて・・ずっとずっとさみしかったのよ〜!レイも・・レイもさみしかった?さみしかったでしょ?!私に会えなくて!!」
とカレンが必死に言うので、その勢いに押されてかレイは口をパクパクさせている。そんな光景を見ていた四葉は思わず、
「ねえ・・レイ・・その人は・・・?」
と聞くと、その声にカレンが反応して四葉の方を「キッ!」と見る。そしてズズイッと近づいてきて、
「あなたこそ何様のつもり?!レイを呼び捨てにするなんて!?」
とものすごく怒った顔をして言ってきたので、四葉も思わずひるんでしまう。そして心の中で
『ひ〜っ!?ヒロさんの時と同じだよ〜!!こわ〜い!』
と叫んでしまった。カレンは四葉にビシッと指を指しながら、
「私はね、魔界の貴族の中でも一番力のあるフローラル家の娘、カレンよ。」
と自己紹介をして、チラッとレイの方を見る。それからまた四葉の方を見て、不敵な笑みを浮かべながら、
「そしてレイの有力花嫁候補の一人よ!!」
と言ったので、四葉は
「え!?」
と驚いて目を丸くするし、レイは頭を壁にぶつけた。カレンは高笑いをしながら、
「ま、レイの相手は地位があって、魔力も強くて、私のような完璧(かんぺき)な女じゃないとね〜っ!オ〜ホホホホホ!」
と言うので、四葉の頭の中は真っ白。そして肩を落としながら、
「やっぱりいたんだ・・・」
とつぶやいたので、レイは
「え?」
と聞く。四葉はレイの方にふり返ると、半分怒りながら
「やっぱり他に婚約者がいたんじゃない!!なのになんで私のことだます・・」
と言いかけると、レイが
「違う!!」
と叫んだ。そして四葉の目をまっすぐ見つめ言った。
「そんなの関係ない!おれは四葉が好きなだけだ!!」
すると、
「な・・なんですって・・・」
という声が聞こえてきて、ふり返ると、カレンがめっちゃ怒った顔をしてこっちを見ている。そして、
「そんなのっ!!そんなの!!絶対許さないんだから!!」
と魔法を使うべく手を振り上げた。その時、
「お、おやめください!!」
と言って、草むらから突然ヒロが飛び出してきてカレンの手をつかむ。
「カレン様、こんな公衆の前で魔法を使ってはなりません!ここは魔界ではなく、人間界なのですから!!」
とヒロが説得するが、カレンはじたばた暴れるばかり。
「ちょっと!!ヒロ!何をするのよ!!」
ヒロは四葉とレイに
「レイ様!四葉さん!早くこの間にどこかにお隠れになってください!!カレン様は、私がなんとか落ち着かせますので!!」
と言うので、レイは
「分かった!」
と言って四葉の手を引いて走り出した。どこかに消えていく四葉とレイの姿を見ながらカレンはヒロに怒りをぶつける。
「ヒロ!!早く手を離しなさいよ!!クビにさせるわよっ!!」
と怒っているが、ヒロはとりあえずカレンを落ち着かせようと思った。というのも、カレンが怒っている時に魔法を使えば、どういうことが起こるか、ヒロは痛いほど分かっていたからだった。
*********

「カレンさんも、ヒロさんの時と同じく、最初は私に対して冷たい態度だったもんね・・。ま、今となっては思い出話だけど」
四葉の話を聞いたレイは、心の中で『カレンもヒロ同様、帰ったら「おしおき」だな』と思った。
「でも、あいつらって、いつから意識し始めたんだ?お互いのことを」
「あ、それはハロウィンのパーティーの日だよ。あの日、初めて一葉くんが人間界に来たの覚えてる?」
「一葉!?」
一葉の名前を聞き、レイが叫んだので四葉はびっくりした。
「え・・?なにか覚えてるの?」
「いや、覚えてないが、なんかそいつの名前も『大野』の時と同じく、イライラするんだよな・・・。ま、それは置いといて、その一葉が何をしたんだ?」
「ええと・・確か・・・」

*********
一方四葉はというと、見知らぬ男の子の後を追いかけていた。
「ね、ねえっ!王子や貴族をギャフンと言わすってどういうことなの!?」
とあわてて聞くと、男の子は、
「ん〜、まあ、復しゅうというか、なんというか」
と笑顔で言うので、四葉はますます驚く。男の子は地面に木の棒で何かを描きながら話す。
「今からず〜っと昔、うちのご先祖様がとんでもないことをして、王族や貴族の反感をかったんだって。もともとはうちの家系も身分が高かったんだけど、そんな事件を起こしたために、魔法の力や身分を奪われて、おちぶれてしまってこのとおり」
と言って、男の子はため息をついた。
「でも、話によると、そのとんでもないことは、確かにとんでもないことだったみたいだけど、一部の貴族がおれたちのご先祖様を落としいれようとしたこともあったらしくて、おれとしては納得がいかないね。じいちゃん、ばあちゃん、父さん、母さんも、「今さらどうしようもない」と言って、誰も今まで何もしようとしなかったんだけど・・・、おれは、王族や貴族をギャフンと言わせて、元の身分に地位を戻してみせるんだ!だから、まずこの小さなパーティーから、騒動を起こしてみようと思って、魔界から脱走してきたんだぜ♪ちょっと魔界警察に見つかるとやばいんだけどさ♪ハハハハ」
とノーテンキに笑うのだが、四葉はますます不安になってくる。
「で・・でも、騒動を起こすなんて・・けが人とか出たらどうするの?」
と聞くと、男の子は、
「だ〜いじょぶ♪いたずらな妖精を、魔法陣から呼び出して、ちょっとからかって遊んでみるだけだからさ♪」
と言って、書き上げた魔法陣に呪文を唱える。すると魔法陣が輝き出し、モクモクモク・・と黒い煙のようなものが立ち上がってきた。そして、「ピカッ!」と辺りにまぶしい光があふれる。すると・・目の前には真っ黒な煙の中に不気味に光っている目を持った怪しい者が現れた。男の子はその姿を見て、
「ああっ!?」
とさけんだ。
「ま、間違って、悪魔を呼び出してしまった!?」
と言ったので、四葉も
「ええっ!?」
と大きな声を上げ、驚いた。

突然、強い生温かい風があたり一面に吹き荒れ、レイは「ハッ!」とした。
「この気配は!?」
と思った瞬間、パーティー会場の近くに「ドンガラガッシャン!」雷が落ち、会場は騒然!レイはその気配を追いかけて走り出す。

四葉は男の子のえりもとをつかみながら、
「ちょ、ちょっと早く、悪魔を元に戻してよ!!」
と言うと、男の子は苦笑いをしながら、
「んなこと言ったって、やり方なんか知らないよ〜!だって、悪魔を呼び出そうと思って、呼び出したわけじゃないし、そんな高度な技術を要する魔法なんて勉強したことないし・・」
と言っていると、
「四葉!」
と後ろから声が聞こえて、四葉がふり返る。レイがこっちに向って走ってきている。四葉は、レイの姿を見ると、なんだか安心したような気持ちがあふれてきた。
「レイ!!」
と言って、駆け出そうとすると、「ガシッ!」と男の子が四葉の手をつかんだ。
「へ?」
と思ってふりかえると、男の子は「ム〜」という顔をしながら、
「あんた、味方だと思っていたのに・・・なんで王子と知り合いなんだよ!?」
と言って怒っている様子。
「ええっ!?あの、それは・・ですね・・」
と説明をしようとしていると、
「おい!」
と言って、レイが、四葉の手をつかんでいた男の子の手をふりほどく。そしてむちゃくちゃ怒った顔をして、
「おまえ、おれの四葉に、何手を出してるんだよ!!」
と言うので、思わず四葉は真っ赤になる。しかし、男の子も負けていない。四葉の肩に手をまわして、
「ふん!金持ちはなんでも、すぐ自分のものにしたがるんだな。これはおれの味方だ!」
というので、四葉はまたびっくりする。四葉をめぐって、「ヌヌヌヌヌヌ〜」とレイと男の子の間で、熱い火花が散っていて、今にもつっかみ合いのけんかになりそうだった。と、その時、また落雷が近くに落ちる。その様子を見て、四葉が我に返り、
「今は、けんかをしている場合じゃないでしょ!?早くあの悪魔を、なんとかしなくちゃ!」
と言うと、レイは空を見上げて、
「やっぱり、悪魔の気配だったか・・・。でも、なんで悪魔なんか・・・」
と不思議がるので、男の子が、
「えへ♪間違えて悪魔を呼んじゃった♪」
と言ったので、目をまるくした。
「ま、まちがったって!?あ!魔法陣の書き方、間違っているし、すきまが出来てるじゃないか!?これじゃ、魔法陣に結界もはれず、外に悪魔も飛び出るはずだ!おまえバカか!?」
とレイが言うので、男の子は頭をポリポリかきながら、
「バカっていうなよ。だって、初めてだったもんで、間違えただけじゃん」
と答える。四葉が不安そうな顔をしながら、レイに
「じゃあ、どうしたらいいの?」
と聞くと、レイは首をかしげながら
「とりあえず・・悪魔をつかまえて、再び魔法陣の中に封じ込めないと・・・」
と言った。
***********

四葉から一葉の失敗談を聞いたレイは、
「そいつアホだろ?」
と言った。その時、遠く離れていた一葉だったが「ハッ、クション!」とくしゃみをしたのは言うまでもない。
四葉は『なんでレイと一葉くんって、こんなに仲が悪いんだろう・・』と苦笑いしながら、
「でも、一葉くんが引き起こした嵐で、ヒロさんとカレンさんが恋に落ちることになったから、やっぱりあの事件はなくてはならないものだったんだよ」
と一応一葉のフォローを入れた。
一通り思い出話が終わったところで、レイが、
「なあ、四葉。それは全て人間界での話なのか?」
と聞いてきたので、四葉は、
「うん、そうだよ。レイが人間界に来ていた時の話だよ」
と答えた。
「そうしたら、四葉は人間界から魔界に来たんだよな?それはなんでだ?」
「それは・・私が昔は存在していたけど、落ちぶれた一族の子孫っていうことで、一族の魔力を復活させるために呼び戻されたの」
そう言って四葉は携帯電話を取り出し、手に入れた魔法の石を次々と召喚した。
「クローバー家を復活させるためには、7つの魔法の石が必要で、6つは手に入ったんだけど、あと1つは割れちゃって・・・。しかもどうしたら元に戻るのか分からなくて・・」
四葉の周りをクルクル回っている6つの魔法の石。レイはその石を見ながらポツリとつぶやいた。
「その残りの1つの割れた石を元に戻す方法は、おれの記憶を戻す方法と、何か関係しているのかな・・・・」
四葉がレイの方を見ると、レイは悲しそうな顔でうつむき、
「四葉から話を聞いて、なんとなく覚えているような話もあったんだ・・・・。でも、完全に思い出せなくて・・・ごめん、四葉」
と謝った。四葉の中では、「レイ=いつも笑顔」をいう構図があったので、レイが悲しそうな顔をしているだけでも胸がギュッとしめつけられる。だから、
「そ、そんな、レイが悪いわけじゃないんだから、謝らなくていいんだよ。ほら、そんな顔しないで、笑って、ね?」
と必死に励ました。でもレイはまだ「申し訳ない」というような顔をしている。
そんなこんなしているうちに、2人の目の前に「魔物の森」が見えてき始めた。ここは集落からもかなり離れた場所で、ほとんど人が訪れない未開の森だ。物音1つ聞こえないほどシーンと静まり返っているのだが、あまりにも静かすぎて、逆になんでもいいから音が聞こえて欲しいような気持ちになってくる。
そんな静まり返った森だったが、奥のほうから不気味な赤い光がゆらゆらと出ており、その上空にある雲に赤色の光が反射して、夜なのに真っ赤な夕焼けが空を焦がしているかのような景色を作っていた。四葉は「魔物の森」を見つめながら、
「災害を沈めるには、この赤色の光を消さないといけないのかな?それには、どんな魔法を使ったいいんだろう・・・」
とつぶやくと、レイが、
「恐らくー」
と言うや否や、手を振り上げ真っ白な光をバッとぶっ放してみた。一瞬、空の色が真っ赤から真っ白に変わったが、数秒後に白い光は消え、元の真っ赤な世界に戻った。レイは「フウ・・」とため息をつくと、
「やっぱり、普通に魔法を使っても、あの赤い光は消せないみたいだな・・」
と言ったので、四葉は困惑した表情でレイを見つめた。どうしたら、いったい「魔物の森」を沈められるのか?普通の魔法が使えないということは、何か特殊な方法が別にあるのだろうか?だとしたら、それはどんな方法なのか・・・・。必死に考えてみたが、何一つ思い浮かばなかった。

「先ほど、レイ様が『魔物の森』に向って、何かの魔法を使われたようでしたが、何の変化もなかったようです!」
お城の庭に作られた臨時の大きなテレビ画面からの映像を見ていたカレンは、
「なんで魔法が効きませんの!?レイと四葉さんなら、なんとかできるはずですのに!!」
と叫んでいたところにヒロが現れ声をかける。
「あ!カレン様、こんなところにいらっしゃったのですか!?」
「それより、ヒロ。レイと四葉さんがピンチみたいですのよ!いったいどうしたら・・・」
カレンがヒロに相談をもちかけようとしていた時だった。
「ピンチなのは、2人が運命の相手じゃないからじゃないの?」
2人が驚いて振り返ると、そこには笑顔のジャスミンが立っていた。カレンはジャスミンを見るや否や、
「ジャスミン!あなたそんなことよく言えますわよね!元はといえば、ジャスミンが悪いんじゃないですの!」
と怒鳴りつけたが、ジャスミンは涼しそうな顔をして、
「あら?そうかしら?」
と答えた。
「本当の運命の相手だったら、どんな障害があっても乗り越えるんじゃなくて?それができないってことは、しょせんその程度の関係ってことよ。フフフ、これでクローバー家に逆風が吹くことは間違いないわね」
そうジャスミンが言った瞬間、その瞳が不気味な紫色に光った。カレンはその瞳を見ると、背筋がゾクッとした。なんだか・・ジャスミンではないようで。確かに、昔からジャスミンは態度が豹変することがよくあったが、あれほど冷たい瞳で見つめられたことはない。だけど、今のジャスミンは、どこか普通ではない・・・・。カレンは不安になって、
「ジャスミン!ちょっと待って!」
と声をかけたが、すでにジャスミンの姿はどこにもなかった・・・・。

「くっそー!!思いつくあらゆる魔法を使ってみたのに、なんで災害がおさまらないんだよっ!」
さっきからレイと四葉はいろんな魔法を片っ端から使ってみたが、どれ1つ何の手ごたえもなく、レイのイライラ感は頂点に達しようとしていた。四葉は魔法の杖を握りしめながら、ため息をついた。レイの言うとおりだ。思いつくことは全部やったのに、何の成果もない。時間だけがチクタクチクタクとムダに過ぎていく・・・・。
と、その時だった。四葉の携帯がパアッと光り始めた。あわてて携帯を取って、開いてみる。するとメールが1件届いていた。あて先人はない。でも、メール内容は四葉にとって災害を沈めるための大ヒントがかかれていた。
『レイ様の記憶を戻し、「復活の魔法の石」を元に戻すには、ある「言葉」が必要になります。その言葉に気づけば、全てが上手くいきますよ―』
四葉はそれを読み、
「言葉・・言葉ってなんだろう・・・・?」
と首をかしげた。するとまたメールが届き、
『「言葉」はこの世界にありふれているけど、とても大切な言葉よ。でも、あなたなら絶対見つけられるわ』
というメッセージが書かれていた。言葉が何なのか、四葉はまだ分からなかったが、でも1つ大きなてがかりを得られただけでも一歩前進である。さっきまで不安に陥っていたが、元気が出てきた。四葉はふり返り、レイに、
「レイ!あのね、呪文を見つけるてがかりが分かったよ!ある『言葉』が・・・」
と言いかけようとした時だった。突然レイが真面目な声で、
「四葉、おれ達って本当に婚約者同士だったのか?」
と言った。四葉は一瞬悪い冗談かと思った。「いったい、何言い出すのよ〜」と笑って済ましたかった。でも、悪い冗談ではないようだ・・。レイは真剣な顔で四葉を見つめ続ける。
「おれ、昔から人の気持ちとか考えずに突っ走ることが多いから・・・もしかして四葉の気持ちを無視して勝手に婚約したのかな・・・」
レイの言っていることが分からず、四葉は思わず、
「ちょ、ちょっと何言い出すのよ、レイ!私は―」
と言いかけようとした時、
「その通り、2人は何でもなかったのよ」
と声がした。四葉が驚いて振り返ると、そこにはジャスミンが翼もホウキも何もないのにスーッと宙に舞い上がり2人の前にいた。あきらかにおかしい。いくら魔力が強いからといっても、空飛ぶ魔法も使わずに宙に浮かぶことができる魔界人は誰もいないからだ。
突然現れたジャスミンに、四葉は叫んだ。
「なんで、なんでジャスミンさん、こんなことするの!!」
するとジャスミンはまた冷たい紫色に光る瞳で、四葉を見つめ、
「なんでって・・ルイ様をずっと苦しめたクローバー家の三葉が憎かったからよ・・・」
と言った。その言葉で、四葉はハッとした。ちがう・・・・、今目の前にいるのは、明らかにジャスミンではない・・・。だって、「ルイ様」「三葉さん」といえば、ずっと大昔にいた人達のことだからだ。四葉は恐る恐る聞いた。
「あ・・あなた誰?ジャスミンさんじゃない・・・あなたは誰なの?」
四葉の問いに、フッと笑みを見せたその人物は、
「私?私はハクモクレン家の先祖の、杏樹よ」
と答えた。

「そりゃ、ルイ様からの結婚の申し込みをけって、人間界に行った三葉にかこつけて、クローバー家から地位を剥奪する計画を中心になって立てた私の父も悪かったと思うわ。そのせいでルイ様が自分を責めることになってしまったもの・・・」
四葉は昔、一葉のおばあちゃんが話してくれたクローバー家の三葉と、その時の王子だったルイの話を思い出した。ルイ王子はクローバー家の三葉に一目ぼれして結婚を申し込んだものの、三葉には人間界に留学していた時に好きな人がいたため、王子からの結婚の申し込みを断って人間界に行ってしまったのだ。だが、その行動が他の貴族から非難され、クローバー家は地位や身分を剥奪され落ちぶれることになり、そんな貴族同士の醜い争いにルイ王子は胸を痛められた。「自分が三葉さんに結婚の申し込みをしたがために、こんなことになってしまって・・」とルイ王子はずっと後悔し続けたらしい・・・・。
四葉は改めて、目の前にいるジャスミン・・いや、杏樹を見た。杏樹はもしかすると、そんなルイ王子のことをずっとひそかに思い続けていたのかもしれない・・・・。すると杏樹が再び話し始めた。
「私だってがんばったわ・・・。毎日毎日ルイ様を元気づけようとお城に通って、美味しい食べ物や珍しいものを持っていって、励まし続けたわ。でも、全然ルイ様は元気にならなくて・・・・そしてとうとう病気をわずらわして、20歳という若さで亡くなったのよ・・・」
杏樹はキッと四葉をにらむと、
「だから私は、ルイ様をそこまで苦しめる原因となった三葉が憎い!自分だけは人間界で幸せに暮らして、ルイ様の苦悩も知らずに!」
と叫んだ。四葉はそこまでの言葉を聞いて、いかに杏樹がルイ様のことを好きだったかが分かった。だが、なぜそんな大昔に生きていた杏樹の魂が、ジャスミンに乗り移って今の世界に現れたのだろうか?するとまた四葉の手の中で携帯がブルブルッと震え、メールが届いた。四葉は、杏樹に気づかれぬよう恐る恐るメールを見てみる。
『杏樹の魂は「復活の魔法の石」にとけこんで、クローバー家が復活するのを阻止しようとずっと今まで待っていたのです。「復活の石」が割れた瞬間、彼女の魂がジャスミンに乗り移り、彼女はルイ様の無念をはらそうとクローバー家の子孫を徹底的につぶそうと思ってます。四葉、気をつけて。彼女の念はとてつもなく強いです』
四葉はそこまで読むと、改めて杏樹を見てみた。相変わらず杏樹の瞳は怒りと悔しさで紫色に光っている。でも、怒りと悔しさの感情の裏側には・・・・。
「杏樹さん、ルイ様のことが本当に好きだったんだね・・」
四葉の言葉に杏樹の瞳の光が一瞬にぶった。
「すごく好きだったのに、ルイ様は全然杏樹さんの気持ちに気づいてくれなくて、自分ひとりだけむなしくなる気持ち、私にもよく分かるよ・・・・」
四葉は少し離れたところで、表情1つ変えずにボーっと突っ立っているレイを見た。今のレイはまるで心をなくした人形のようだった。四葉がこんなにピンチな状況でも、昔のように助けに来てはくれない。四葉のことなんてどうでもいいようだ。そんなレイを見ながら四葉は杏樹に、
「だって、今の私もそんな状態だもん!レイは私のことなんかすっかり忘れちゃって、ふりむいてもくれないもん!こんな悲しい気持ちってないよ!」
と叫んだ。杏樹は今の四葉が自分の立場と重なりあったのか、一瞬言葉を失った。だが、すぐそんな気持ちをかき捨て、
「うるさい、うるさい!ルイ様を苦しめた三葉の子孫が、今度は苦しめばいいのよ!」
と叫ぶと、杏樹の後ろに隠れていた割れた「復活の魔法の石」がパアッと紫色の光を放ちながら輝き始めた。真っ赤だった「魔物の森」が一瞬、紫色の光に包まれる。だが数秒後、光はおさまり、元の真っ赤な世界が戻ってきた。四葉は石が光った瞬間、何かとんでもないことが起こるのかと思い、一瞬構えてしまったが、何も起こらない・・・。
「あれ・・・?何も起こらない・・・?」
辺りを見回してみたが、風景も先ほどと何一つ変わってない。ただ、ずっと黙っていたレイが口を開いた。だがその言葉は、四葉を驚かすものだった。
「四葉、もうおれのことはほっといてくれ。それより、ジャスミン、一緒に行こう」
突然の発言にレイの顔を見ると、レイの瞳もジャスミンと同じように紫色の光を帯びている。レイはジャスミンの手を取ると、
「やっぱりおれの運命の人は、ジャスミンだったようだ」
と言ったので、ジャスミンも、
「まあ!うれしい!レイ様!」
と言ってレイに抱きついた。そして2人は四葉に背を向け、どこかに行こうとする素振りを見せた。四葉は、しばらく何が起こったのか分からずポカンとしていたが、ハッと我に戻ると
「ちょ、ちょっと待ってよ!レイ!」
と叫んだ。その言葉に、レイがゆっくりとふりかえる。レイは四葉を冷たい目で見つめたため、四葉は空から落下しそうなほどショックを受けた。だが、さらにレイの言葉が四葉を驚かせる。
「ごめん、四葉。きっと四葉とのことは、おれの勘違いだったんだ。おれが一方的に四葉を好きになったんだよな・・・。でも、四葉はおれが王子だから断ることができず、仕方なくついてきてくれただけなんだよな。そんなふうに無理につきあっても、お互い苦しいだけだ」
レイの隣で光っている魔法の石を見た四葉は、『きっとこれは石の魔法のせいだ!』と思ったが、どうすることもできない。レイを助けたいが、魔法を解くには呪文が必要だ。でもその呪文はまだ見つかってない。焦りだけが走るが、その間にもどんどんレイに魔法がかかっていく。レイはジャスミンを引き寄せ、
「でも、ジャスミンは四葉と違う。おれのことを心から愛してくれる最高のパートナーだ。だから、四葉。もうおれから離れてくれていいよ。どうせ四葉も、他に好きなヤツいるんだろ?」
と言った・・・。四葉は目の前が真っ暗になった。本当に目の前にいるのがレイなのだろうか・・・。悪い夢なら覚めて欲しい。でも、この夢は、自分で破らない限り決して覚めない夢だ。一刻も早く、夢を覚まさなければいけない。昔のレイを取り戻さないといけない。でも、その方法が見つからない。
ぼーっとしている間にも、レイとジャスミンは一緒にどこかに飛んでいっている。どんどん四葉から離れていく。四葉とレイの距離が広がるに連れて、四葉は「悲しさ」よりも「怒り」の気持ちの方がどんどんフツフツと沸いてき始めた。
「魔法にかかっているってことは、分かってるよ・・・。復活の魔法の石が割れてるもんね・・・・。分かってるよ・・・でも・・・分かってるけど・・・」
四葉は携帯をギュッと握りしめた。そしてキッとレイを見ると、思いっきり携帯をレイに向って投げつけた!
「レイのバカーッ!!」
四葉が投げた携帯は一直線に飛び、レイの頭に「ガンッ」と命中した。
「なっ!?」
びっくりしてふりかえるレイ。すると、四葉はレイに怒鳴りつけた。
「そりゃ、最初は完全にレイの勘違いだったわよ!私は大野くんが好きだったのに、勝手に「婚約者」にされてさっ!本当に迷惑だった!強引で、人のこと散々ふりまわして、絶対こんなヤツのこと好きにならないって思ってたけど・・・・」
四葉は涙があふれる顔をキッとあげる。
「でも、でもっ!いつのまにか大好きになってたんだよっ!!仕方なくつきあってたわけじゃない!強引で身勝手だけど、いつも私のこと守ってくれて優しいレイが大好きだった!」
そう言い終わると同時に、泣き崩れた。大好きだったレイは二度と自分の前には戻ってこない。それがこんなに悲しくてつらいことだとは思わなかった。こんなことなら、レイと出会わなかったらよかった・・・・。そう思った時だった。体が突然フワッと宙に浮かんだ。驚いて目をあけると、レイが四葉をギュッと抱きしめていた。
「レ・・・・」
驚く四葉に、レイは耳元でささやいた。
「思い出したよ・・・・」
「え・・・?」
四葉は涙でぬれた顔を上げると、レイはにっこり微笑んで、
「日高四葉は、おれの運命の人だ!」
と笑顔で言った。一瞬、四葉の頭の中は何が起こったのかチンプンカンプンになって、ほっぺをつねってみた。うん、夢じゃないようだ。
「え?え!?ウソ、言ってるんじゃないよね?」
すると魔法の石たちが四葉を取り囲み、
「ウソじゃないですよ、四葉ちゃんの『好き』っていう言葉で、レイ様は目を覚ましたんです」
とうれしそうに光った。そう言われて、四葉はハッとした。
「あ・・・レイを元に戻す魔法の呪文は『好き』っていう言葉だったんだ・・」
世の中にありふれているけど、とても大切な「言葉」、それは「好き」っていう言葉。それに気づいて、四葉は目の前にいるレイを改めて見た。
「ほんとに・・・レイだよね?私の大好きなレイだよね?」
レイは四葉を優しく見つめ、大きくうなずく。
「ああ、ちゃんと四葉を好きなおれだよ。だって、キスは好きな子にしかしないだろ?」
レイはそう言うと、四葉にソッとキスをした。
その瞬間、2つに割れていた「復活の魔法の石」がお互い引かれるように1つにくっついた。完全に元に戻った「復活の石」を残りの6つの魔法の石が取り囲み、7つの魔法の石が空をクルクル回り始める。その瞬間、空からキラキラ光る粉のようなものが降り始め、魔界を「光の雪」が包み始めた。

空から降ってくるきれいな光に、ヒロもカレンも、一葉もランも、キラリもスノーもストーンも、王様もその他多くの魔界の人達も喜びの声をあげて見つめ続けた。光の雪が、「魔物の森」の怒りを消していったのか、あんなに真っ赤に光っていた空も完全に元に戻った。

だが、杏樹だけは幸せな気持ちになれなかった。ガクッと地面に倒れ付すと、
「今度こそ・・・憎きクローバー家を倒して、我がハクモクレン家が幸せをつかむと思ったのに・・・なんで・・・なんで・・いつも私の一族は誰からも愛されないんだ!」
と叫んだ。すると、後ろからレイが言った。
「おまえ、ハクモクレン家の先祖がジャスミンにとりついているんだよな?誰にも愛されてないって、間違いだぞ。ほら、あっち見ろよ」
杏樹が顔を上げて、レイに指差された方向を見た瞬間、ジャスミンの瞳から紫色の光が消えた。と、同時にジャスミンから杏樹の気配が弱まり、ジャスミンは目を覚ましたかのような声で、
「ブレッド!?」
と叫んだ。そう、レイが指差したところには、ジャスミンを追いかけて「魔物の森」に入ってきていたブレッドが立っていた。ブレッドの洋服のあちこちには、木の枝などがひっかかったのかいくつも破れていたし、顔や手などは、こけた時についた泥などで汚れていた。ジャスミンはブレッドのそばに駆け寄ると、ブレッドは、
「よかった・・ジャスミン無事で・・」
と言って微笑んだ。
「無事でって、ブレッドは全然無事じゃないじゃない!何考えてるのよ!ブレッドってば、魔法も使えないのに、こんな危ない『魔物の森』に一人で入ってくるなんて、おかしいわよ!遭難とかしたらどうするつもりだったの!?」
ジャスミンは、ブレッドの無鉄砲な行為にかなり怒っていたようだったが、ブレッドは自分の行動は間違ってなかった、と信じて疑ってない様子だ。
「確かに無鉄砲だったけど・・・でも、テレビでジャスミンの様子を見てたら、なんかいつもと別人だったから・・・。もしかして、何かあったのかと思うと、心配になっていてもたってもいられなくなって、ここまでやってきたんだ」
レイはジャスミンの中にまだいるであろう杏樹に、
「今のブレッドの気持ち、先祖さんにはよく分かるんじゃないかな?大好きな人が元気をなくしている時、なんとかして励ましてあげたいっていう気持ち」
と言った。しばらく黙っていた杏樹だったが、ジャスミンの口を借りてつぶやいた。
「そうね・・・ブレッド君の気持ち、私にはよく分かるわ・・・。大好きな人が悲しんでいる時、なんとかそばにいて支えてあげたいっていう気持ち・・・・。ジャスミンは、そんなブレッド君の気持ちに気づけばいいけど・・・・」
その瞬間、フラっとジャスミンが気を失い倒れそうになった。
「ジャスミン!?」
ブレッドがあわててジャスミンを受け止める。するとジャスミンはそっと目を開け、ブレッドを見つめ、
「ありがとう・・ブレッド・・」
とつぶやいた。そんな2人を見ていた四葉とレイも、お互い顔を見合わせ、ニコッと微笑んだのだった。

******

こうして、なんとか魔界の危機を乗り越え、クローバー家を復活させた私は、晴れて7貴族に加わったのでした。一葉くんもクローバー家の正統な子孫ということで、一応貴族の身分をもらえたんだけど、
「お、おれはパーティーとか、貴族同士のつきあいとかめんどくさいから、今までどおりの生活でいいっ!魔法もろくに使えないからさ!」
と言って、お屋敷に引っ越すこともなく、今までどおりの生活をしています。そして今でもレイとは顔を合わすたびに、けんかしてます・・。でもけんかするほど仲がいい、と私は解釈してるんだけどね。

ヒロさんとカレンさんは、時々けんか(けんかの種が、ほとんど「レイ」のことらしい・・・)もしてるけど、幸せそうです。ただヒロさんが忙しくて、なかなかデートの時間が取れないみたいで、カレンさんはグチを言ってるけどね。でも聞くところによると、ヒロさんは将来カレンさんと住めるための家を購入するために仕事をがんばってるみたいだから、「さすがヒロさん!」という感じです♪

ランちゃんは、一葉くんが貴族の世界に足を踏み入れなくてホッとしてました。ランちゃんとは今もよく一緒に買い物とかに行くんだけど、そのたびに、
「どうやったら、一葉と両思いになれるのかなあ〜」
と相談されてます。でも、私的には、一葉くんはランちゃんのことけっこう気にしていると思うだけどね。一葉くんランちゃんに関しては素直じゃないから。

キラリさんは、魔界大学につながる高校を受けるために、勉強をがんばってます。でも元々頭がいいから、「勉強しなくても大丈夫そう」と周りは思っているけど、キラリさんは手抜きすることなくしっかり勉強しているので、ほんとすごいです!受験が終わったら、キラリさんとみんなでどこか旅行に行こうと計画を立ててます♪

スノーさんは、もっと健康になるために、空気のきれいな山奥に療養に行っているそうです。それを聞いたストーンさんは、スノーさんの姿が見れなくなったことにショックを受けて数週間倒れてたそうです・・。でも最近は「全国発明大会」に出品する発明作業をがんばっているといううわさも聞きました。

そしてジャスミンさんは・・・、あの事件の直後、マスコミに
「なんで『婚約者』だって、ウソをついたのですか!?」
「そんなに女王になりたかったのですか!?」
と責められることもあったのですが、ブレッドくんが、
「ジャスミンは悪くない!悪い魔法に操られていただけなんだ!」
とマスコミに訴え続けた結果、あの事件はだんだん人々の記憶から消え去っていきました。ジャスミンさんを体をはって守ったブレッドくんに、ジャスミンさんも心動かされ、今ではすっかり仲のいいカップルです♪

そして私は・・・・

「レイ・・・やっぱり私達には早いよ・・」
「早くなんかないよ。おれはずーっとこの日を待ってたんだぞ」
「で、でも、ダメっ!やっぱりまだ私、心の準備ができてない!ほらっ、こんなに心臓もドキドキしてるんだよっ!」
「大丈夫だって、おれに全て任せろって!」
と、私とレイがもめていると、
「ったく、四葉さん、今さら何を言ってますの?婚約会見、もうすぐ始まりますから、腹くくりなさい、ですわ」
とカレンさんが間に入ってきた。そう、今日はなぜか私とレイの「婚約会見」の日です・・・。この前の「魔界の森」騒動で、思いっきりレイが「婚約」発言をしたがために、この若さで婚約をするとは思いもしなかったけどね・・・。でも緊張のあまりレイともめているところに、カレンさんがやって来たというわけでして、カレンさんにも「腹くくれ」って言われちゃった・・・。するとカレンさんの後から、
「そうですよ、四葉さん!しっかりしてください!なんたって今日はレイ様の婚約会見!私っ、この日を何度夢見てきたことか!生きているうちにレイ様の晴れ姿が見れて、私は、私は・・うれしいですっ!」
と感激して泣いているヒロさんがいた・・・。生きてるうちって・・ヒロさんもオーバーなんだから・・。カレンさんはあきれたような目でヒロさんを見つめながら、
「昨日からずっとあんな調子で、一人感極まってますのよ。婚約でこの調子だったら、結婚式の時とか、いったいどうなるのかしら・・・」
とため息をついた。昨日からずっとあんな調子・・ということは、きっと昨日の夜辺り、カレンさんの怒りが爆発していたのかもしれないなあ・・。「レイ、レイ、ってヒロは私とレイのどっちが大切なんですの!?」という感じで・・・。
そうこうしているうちに、婚約会見会場から、
「それではレイ様、四葉様にご登場していただきましょう!」
というアナウンスが入った。会場からは「ワー!」という歓声と拍手が聞こえる。ひ〜!?こんなに騒がれたら、せっかくおさまっていた緊張がまた戻ってきたじゃないの〜!!
「じゃ、がんばってですわ!」
「会場で御2人の晴れ舞台を見ておりますから!写真も撮っておきますので!」
と言って、ヒロさんとカレンさんは舞台のすそから姿を消した。緊張のあまり足と手が一緒に出ている私を見てレイが、プッと笑う。
「わ。笑い事じゃないのよ〜!!そりゃ、レイはこういう場面を何度も体験してきてるかもしれないけど、私は小学校の演劇大会で1回だけ主役をやった時ぐらいしか晴れの舞台はなくて・・・」
と言おうとした時、レイが突然キスしてきた。ざわめいている会場の音がその瞬間だけ聞こえなくなった。唇が離れると、緊張とは違う心臓の音がバクバクしてきたけど、レイが、
「緊張しないおまじない」
と言って笑うので、私も思わず笑ってしまった。

レイが私の手を握り走り出す。
「四葉、これからもどんな時でもおれがずっとず〜っとそばにいるから、何があっても絶対大丈夫だ!」

そうだね、これからもずっとず〜っと一緒にいようね、レイ!


おわり♪

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