毎週末の山荘行きはロビンとの対面という大きな目的も加わ
るようになっていた。土曜日のお昼頃に山荘に到着する。それ
までのこそこそと食餌を運んでいたときとは違い、すでに家人
の承諾を得ていることもあり、先ずロビンともう一頭の柴犬、
「てつ」の二頭だけで留守番をしている、山荘からはかなり離
れたお隣の庭にロビンを迎えにゆく。前の週に三回も洗ってぴ
かぴかに光っていたロビンの黒々とした毛並みが、また前と同
じように土埃で汚れ、茶色がかった色に変わっている。
持参の新しい首輪を装着しなめし革のリードをつける。それ
まで大人しくしていたロビンが後ろ肢で立ち上がり全身をぶつ
けて甘えてくる。山荘に連れていってくれるのが解るのだろう。
日曜の夜高松に帰るまで、ロビンは我が家の子供になる。ぐい
ぐいとリードを牽くロビンの後ろ姿が随分逞しくなっている。
ピンと立った耳が凛々しさを十二分に漂わせている。山荘の入
り口にさしかかり始めるとロビンの凛々しさが急にしぼみ、甘
えた仕草に変わる。
後ろを振り返り、口を半開きにした甘えた顔で尋ねてくる。
リードを外す。山荘のおよそ150坪ぐらいのまだ雑草が生え
ている犬たちの運動場を右に左に飛び跳ねながら走り回るロビ
ン! 声をかけると全速で帰ってくる。右手を軽く銜えて遊び
を催促する。走っては戻り、戻ってはまた走る。次は全身でぶ
つかってくる。押し戻しても押し戻しても、後ろ肢で立ち上が
りながら全身を預けてくる。しかし重い。後ろに跳ばされない
ようにするのが精一杯、とても長い時間は一緒に遊んではやれ
ない。どろどろに汚れたあとはシャワーが待っている。
やっと室内での休息である。階下の八畳の応接とその隣の八
畳の和室が当面のロビンの室内運動場兼寝室兼その他諸々の場
所なのである。ソファーに座って大きな息をついている私の方
ににじり寄ってきては顔を見上げ、奥の八畳に何か落ちてはい
ないかと出かけてみては帰ってきてまた顔を見上げる。二階の
書斎に上がってパソコンのスイッチを入れようと思っても、そ
のあとのことを考えると、ソファーから立ち上がるのがついつ
い億劫になる。ロビンは階段は上がれるのだが、一人で下りる
ことが出来ない。
つまり、体重三十キロのロビンを抱え上げて階段を下りなけ
ればならないという難行が待っているのである。私の行くとこ
ろはたとえトイレの中であろうとついてくるという奇癖の持ち
主のロビン様、下りることが出来ない階段を一目散に上ってつ
いてくる麗しさを持っているのであった。ビーグル犬の蘭は一
人で階段を上がり、一人で下りているのに・・・!
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つるつる滑るタイルはロビンの苦手の一つになった。まだ「座
れ!」の命令が解っていないのに、浴室ではちゃんと座って大
人しく泡まみれになってくれる、絶対に滑らない方法である。
シャンプーを流し、バスタオルで剛毛をごしごしと拭く頃には
疲労がピークにさしかかる。それでも光沢のある黒い毛並みが
帰ってきたのを見ると、もう午後からの山歩きに思いが飛んで
しまう。
冷たい飲み物でのどを潤している間に、ロビンは高松から持
参した我が家お得意の食餌である。それにしても大きな口であ
る。一番大きなステンレス製の食器にしっかり盛りつけた食餌
とスープがほんの二、三分で見事に空っぽになる。引き締まっ
ていた下腹部がかなり膨れているのが解る。
バスローブのままロビンを連れてまた庭に出る。ウンチング
タイムである。庭を一、二周して所定の場所で用を足すロビン。
長い肢がこのときは少々邪魔のように見えるが、断尾のためど
うもうまく姿勢を制御できないのかもしれない。心許ない格好
でのウンチングが終わると、急いで家の中に入ろうとする。で
もそうはいかない! 人間様の量を遙かに上回る、しかも少々
臭みの強い廃棄物を拾い上げ、庭の隅に設えたコーンポストに
運んだあと、裏口から再びシャワールームに直行、お尻と肢を
洗われるという行程が待っている。
南に面した書斎には一日中陽が射し込み、大きく開けた南北
の窓から緑を含んだ柔らかい風が吹き抜けていた。山荘の庭を
出ると、三メートルの道を隔ててもう山が迫っている。書斎の
窓からおよそ五十メートルほどであろうか・・・!
来る度に山の色が若々しくなっている。庭のすぐ西横を流れ
る川のせせらぎが竹林のさざめきと共に話しかけてくる。「今
日は筍堀は中止だ! でも河原には蘭とロビンを連れて降りて
みよう!」午後の予定が決まった。
十五メートルの川幅と六十センチの水深に阻まれて対岸の香
川県に遠征することが出来ず、父親をとられるのを極端に警戒
している蘭の波状攻撃とに挟まれたロビンは狭い河原をうろう
ろと徘徊し、そのすぐ後ろを、ロビンに側に寄ってこられると
鼻にしわを寄せて威嚇する蘭が短い肢を忙しく回転させながら
ピッタリくっついて走る。
急に筍の刺身が食べたくなり、大声で家人を呼び小さなツル
ハシを持ってきてもらう。三、四個の小さなつぼみのような筍
を手に土手を上がって庭の椅子にたどり着いたときには、もう
陽は西の山の上で紅く染まろうとしていた。四時前だというの
に・・・。
かなり疲れた様子の蘭と、まだまだ元気ですよと、顔の筋肉
を緩められるだけ緩めたロビンが椅子の両側に寄ってきておや
つのおねだりである。チーズとソーセージを用意して、ちゃん
とお座りをして待っている蘭から食べさせ始める。ロビンの番
である。チーズを一枚手から食べさせる。口の中にいったん入
れたチーズをぽとんと落とす。もう一度食べさせる。またぽと
んと落とす。ソーセージも同じである。
ベンジャミンの声が聞こえてきた。
「お父さん! 僕のときもそうだったでしょっ! 一回も食べ
たことがない食べ物のとき・・・食べたいけど怖い・・・、
怖いけどお父さんが呉れるものだから食べたい・・・・・」
大きなロビンの口の中の奥深くまでチーズとソーセージを代
わる代わる運び、口の上と下を両手で抑えるようにして食べさ
せる・・・西の山が少し滲んできた・・・・・
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