おすすめの曲


(1998年10月)
クラリネット五重奏曲 ロ短調 作品115

作曲1891年。
初演 1891年12月12日、ベルリンにて、ミュールフェルトのクラリネット、ヨアヒム四重奏団によって行われた。
出版1892年。
編成クラリネット(またはヴィオラ)、ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ。
演奏
時間
約30分。


 私はこのクラリネット五重奏曲を、数あるすばらしい室内楽曲の中で、いや、ブラームスの全作品の中で、最高の作品と考えています。この作品には、ブラームスの人間的なあたたかさと、晩年特有の寂しさ、叙情性、そして日本の深くて静かな晩秋の「侘(わび)」の世界が、きわめて簡潔に、最高の形で描かれているのです。1890年に弦楽五重奏曲作品111を完成した57歳のブラームスは、自分の創造力の減退を感じ、その年の秋には、持ち物を整理し遺書を書くほどになっていました。ところが、翌1891年3月にマイニンゲンの公爵の招きでその地を訪れたブラームスは、宮廷楽団のクラリネット奏者リヒャルト・ミュールフェルト(1856-1907)の演奏するモーツァルトのクラリネット五重奏曲とウェーバーのクラリネット協奏曲を聴きました。そしてその表情豊かでファンタジーに富んだ魅力的な演奏に心を奪われ、大変感銘を受けたブラームスは、ミュールフェルトにクラリネットの奏法と表現能力を熱心に教わり、彼のためにクラリネットを伴う室内楽曲を4つ(最初にクラリネット三重奏曲作品114、続いてこのクラリネット五重奏曲作品115、そして2つのクラリネット・ソナタ作品120)書いたのです。この作品の内容は最初に書いたとおり、全体的に叙情性に満ちあふれており、静寂、陰影、孤独、諦観、寂しさ、侘びしさ、苦悩、やわらかさ、あたたかさ、官能、憧憬、夢想の様々な情緒が4楽章それぞれにとても内容深く盛り込まれています。特に、侘びしさと憧れが交錯する第2楽章を聴くと、私は、大自然の中のちっぽけな人間の存在、人間の無力さ、人間の本質は無である、また、生きていることへの喜び、生きていることに対する感謝など、人の生に関して様々な思いをめぐらせてしまうのです。ほんとうに、最高の作品です。

おすすめのCD
ウラッハ(cl)ウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団
(ウェストミンスターMVCW-19020 ¥1,937 )
 昔から名演と言われているCDです。ウラッハのクラリネットはとても音色が美しく、ロマンティックで、表情豊かです。格調高く、しんみりと語りかけてくるような表現はブラームスのこの作品を完璧なまでに描いています。特に、第2楽章のしっとりとしたクラリネットの音色とそれを支える弦の弱音器をつけた柔らかい響きが結び付いて生まれる甘美な情感は、この世のものとは思われないほど美しいです。現在でも、このCDを越えたものは出ていないでしょう。

ライスター(cl)ウィーン弦楽四重奏団
(カメラータ25CM-113 ¥2,625 )
 ライスターのクラリネットは大変しっとりした奥行きのある音色で、情緒豊かに、美しく旋律を歌わせています。ウィーン弦楽四重奏団も弦のやわらかな音色を生かしながらロマンティックな演奏を展開しています。

プリンツ(cl)ウィーン室内合奏団
(デンオンCOCO-6789 ¥1,325 )
 プリンツのクラリネットはふっくらとした、柔らかい音色が魅力です。淡々と旋律を歌わせている演奏には、ブラームスのこの作品の渋味がよく現されています。

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(1998年9月)
ピアノ協奏曲第1番 二短調 作品15

作曲1854から1858年。
初演 1859年1月22日、ハノーファーの宮廷劇場にて、ブラームス自身のピアノ、ヨアヒムの指揮によって行われた。
出版1862年。
編成独奏ピアノ、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、ティンパニ、弦5部。
演奏
時間
約45分。


 ブラームスは、ピアノ協奏曲を2曲書きましたが、この第1番は、彼が25歳(1858年)の青年期に完成されました。大編成の管弦楽を扱った、最初の大規模なブラームスの作品であるこの曲は、1854年に完成した「2台のピアノのためのソナタ」を改作したものです。このピアノソナタを2台のピアノで演奏することに満足しなくなったブラームスは、その第1楽章をいったん、交響曲に書き直したものの、自らの非力を悟り、交響曲の作曲をあきらめ、ピアノ協奏曲に再度書き改めました。こういった様々な試行錯誤をへて書かれたこの作品は、ピアノ協奏曲の常識をやぶるかのように、管弦楽が主体となり、実際はきわめて難しいピアノパートでありながら、その響きが管弦楽と溶け合うため、「独奏ピアノの助奏を伴った交響曲」と呼ばれました。1859年1月22日ハノーファーでの初演は、好意を持って迎えられたのですが、5日後27日のライプツィヒでの初演は、当時の聴衆には重厚で渋い響きに満ちたこの作品が理解されず、大失敗となり、ブラームスはその挫折により、恋人アガーテとの婚約を破棄してしまいました(年譜1858-59年を参照してください)。ティンパニーの連打で始まり、青年ブラームスのほとばしるような熱い情熱と交響的な響きに満ちた第1楽章、ブラームスがクララのポートレートと書いたことがある、静かで、落ち着いた、そして宗教的な気品を持った第2楽章(この第2楽章には、シューマン亡きあとのクララとその子供達に祝福あれと、祝福を祈る気持ちの他に、悲しむクララを慰め、同時にクララに憧れる感情が込められている)、軽快で活力にあふれた第3楽章からなっています。

おすすめのCD
ギレリス(pf)ヨッフム指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(グラモフォン POCG-3522〜3 ¥4,077)
 ギレリスの力強いピアノとスケール雄大な演奏が魅力的です。ヨッフム指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団も重厚なブラームス・サウンドでサポートしています。

ブレンデル(pf)アバド指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(フィリップス PHCP-1653 ¥2,548 )
  ブレンデルの豊かな情感に満ち、透明で美しいピアニズムが光った演奏が魅力的です。アバド指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団はシンフォニックで大変充実しています。

グリモー(pf)ザンデルリンク指揮ベルリン国立管弦楽団
(エラート WPCS-6232 ¥2,447 )
 グリモーのしなやかで、澄んだ響きがとても美しい演奏です。ザンデルリンク指揮ベルリン国立管弦楽団はブラームスの重厚で渋い響きをくまなく描きだしており感動的です 。

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(1998年8月)
ピアノ三重奏曲第1番 ロ長調 作品8

作曲1853年から54年(初版)、1889年から90年(改訂版)。
初演 初版の公開初演は1855年11月27日、ニューヨークにて、ウィリアム・メースン他によって行われ、改訂版の初演は1890年1月10日、ブダペストにて、ブラームスのピアノ、フーバイのヴァイオリン、ポッパーのチェロによって行われた。
出版1854年(初版)、1891年(改訂版)。
編成ピアノ、ヴァイオリン、チェロ。
演奏
時間
約38分(初版)、約35分(改訂版)。


 この作品には、1854年(20歳)に完成された初版と1890年(56歳)に完成された改訂版の2つの版があります。ブラームスは20歳の青年期に書いたこの作品に、大変愛着を感じていたようで、36年たって大幅な改訂を行いました。若い情熱のおもむくままに作曲し、冗長で構成的に未熟であった作品を、円熟した大家は、情熱と理性が統合された、寸分の隙もない緻密な構成を持った作品に改訂したのです。しかしながら、20歳の青春の、初々(ういうい)しい感情はそのままの姿で色濃く残っており、若々しい新鮮さと、優しさにあふれた、とても美しい作品となりました。現在は主として、改訂版が演奏されます。私は、全楽章とも好きなのですが、特に第1楽章が大好きで、この曲を聴くと、いつも気持が明るく、はつらつとし、元気がでて勇気づけられるのです。

おすすめのCD
ピリス(pf)、デュメイ(vn)、ワン(vc)
(グラモフォン POCG-1951 ¥3,059 )
 この作品の魅力がよく伝わってくる、とても美しく、ロマンティックな演奏で、しかも緻密なアンサンブルが展開され、録音も新しく優秀です。

ルービンシュタイン(pf)、シェリング(vn)、フルニエ(vc)
(RCA BVCC-5510 ¥2,039 )
 3人の個性が、ぶつかりあいながら、叙情性豊かで、格調高い音楽を作り上げており、深い味わいが魅力の演奏です。

トリオ・オーパス8
(アルテ・ノヴァ BVCC-6069 ¥880 )
 初版による演奏で、ブラームス青年期の若々しい創意、湧き上がる楽想の豊かさをよく現した演奏です。

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(1998年7月)
2つのラプソディ 作品79

作曲1879年。
初演 1880年1月20日、クレーフェルトにて、ブラームス自身の独奏によって行われた。
出版1880年。
演奏
時間
第1曲約10分、第2曲約7分。


 1879年(46歳)作曲のこの2つのピアノ曲は、ブラームスが書いたピアノ曲の中で、最も知られている作品で、堅実な構成を持ち、極めて深刻な内容と重厚な色彩を特色とした作品となっています。
特に第1曲はバラード(物語)風で、劇的で、壮大な音楽であり、その内容は、ほの暗い北欧の英雄叙事詩の世界が、描かれているのではないでしょうか。きわめて劇的な主題で始まり、私達は一瞬にして悲劇的な戦乱の時代へと運ばれる。そこでは英雄達が戦闘を繰り広げ、ある者は滅び、ある者は勝利しつつ歴史を刻んでいる。男性的なイメージと、人を魅了する叙情的で女性的なイメージとが代わる代わる交代する。中間部は子供時代の想い出のような明るい穏やかさに満ち、静かな光に包まれて、私達の前を流れていく。再現部では再び戦闘が繰り広げられ、終結部ではあたかも結びの言葉(エピローグ)のように、すべての出来事を幾世紀もの彼方へと押し戻す。すべてが私達から遠ざかり、過去の深淵へ、灰色のページの中へと消えていく・・・。

おすすめのCD
ケンプ(pf)
(グラモフォンPOCG-90116 ¥1,000 限 )
 少し録音が古いのですが、豊かな表情を持った、大変ロマンティックな堂々とした演奏で、この作品の魅力が十分伝わってきます。

アファナシエフ(pf)
(デンオンCOCO-78906 ¥3,059 )
 ゆったりとしたテンポで、ブラームスの書いた詩情豊かな世界を描き出しています。録音も新しく、ピアノの音が澄んでいて、とてもきれいです。

ペライア(pf)
(ソニーSRCR-8708 ¥2,854 )
 作品の堅固な構造と叙情的な響きの美しさを全面に出した、スケールの大きな演奏です。第1曲のみカップリングされています。録音も優秀です。

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(1998年6月)
ヴァイオリン協奏曲 二長調 作品77

作曲1878年。
初演 1879年1月1日、ライプツィヒにて、ヨアヒムのヴァイオリン、ブラームスの指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団によって行われた。
出版1879年。
編成独奏ヴァイオリン、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、ティンパニ、弦5部。
演奏
時間
約45分。


 ブラームス唯一のヴァイオリン協奏曲は、1878年(45歳)南オーストリアの山々に囲まれたヴェルター湖畔の村、ペルチャッハで作曲されました。同時期の作品である交響曲第2番二長調作品73、ヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調作品78と同じく、ペルチャッハの美しい自然を反映して、この協奏曲は美しい旋律がよどみなく流れ、牧歌的でさわやかな気分で満ちあふれた作品となっています。ブラームスは、1858年(25歳)デトモルトで初めて聴いたヴィオッティ(1755-1824)のヴァイオリン協奏曲第22番イ短調を、長年大変気に入っていたようで、この協奏曲から大きな影響と刺激を受けました。また、1877年9月バーデン・バーデンで、大ヴァイオリニストのサラサーテ(1844-1908)による、ブルッフのヴァイオリン協奏曲第2番を聴いたことがきっかけとなり、このヴァイオリン協奏曲を作曲し、親友のヴァイオリニストのヨアヒムに捧げられました。曲は、ゆったりとした牧歌的な第1主題で始まり、美しい旋律が途切れなく続く第1楽章、オーボエの優美な旋律(後に、有名な歌曲のサッフォ頌歌作品94-4に転用された)で始まり、重厚で、渋い中間部が、最高に魅力的な第2楽章、情熱的で軽快な第3楽章からなっています。

おすすめのCD
シェリング(Vn)ハイティンク指揮ロイヤル・アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
(フィリップス PHCP-24036 ¥2,447)
 シェリングの知的でとても美しいヴァイオリンが素晴らしい演奏です。ハイティンク指揮ロイヤル・アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団も堂々としてとても暖かく魅力的な伴奏をしています。

オイストラフ(Vn)セル指揮クリーヴランド管弦楽団
(エンジェル TOCE-3079 ¥1,733 )
  オイストラフのつややかな音色とスケールの大きな演奏が大変魅力的です。セル指揮クリーヴランド管弦楽団の伴奏も大変美しく、充実しています。

クレーメル(Vn)バーンスタイン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(グラモフォン POCG-50055 ¥1,800 )
 クレーメルは、とぎ澄まされた透き通るような音色で、ブラームスの音楽を端正に描いています。バーンスタイン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の伴奏はシンフォニックで堂々としており、 ウィーンフィルの美しい音色が魅力的です。

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(1998年5月)
4つの歌 作品17(女声3部と2つのホルン、ハープのための)

作曲1859から60年。
初演 1861年1月15日、ハンブルクにて、ブラームス自身の指揮によって行われた。
出版1861年。
編成女声3部合唱、ホルン2、ハープ(またはピアノ)。
演奏
時間
第1曲約3分、第2曲約2分、第3曲約3分、第4曲約5分。


 1859年(26歳)から3年間、ブラームスはハンブルク女性合唱団の指揮をしており、その頃に書かれた作品です。2つのホルンとハープという、きわめて独特の色彩感を持った音楽を伴奏としたこの女声3部合唱曲は、大変ロマンティックで親しみやすい作品です。

第1曲 高らかにハープの音がひびく(ルペルティの詞による)
第2曲 シェークスピアの歌曲(シェークスピアの詞による)
第3曲 花作り(アイヒェンドルフの詞による)
第4曲 フィンガルの歌(オシアンの詞による)

 私は、特に冒頭のホルンとハープが印象的でロマンティックな第1曲と、アイルランドの伝説的な英雄フィンガルの死を悼み、深い悲しみでいっぱいの第4曲が好きです。

おすすめのCD
大変魅力的な作品にもかかわらず、なぜか現在、国内盤は1枚しか出ていないようです。

ガーディナー指揮モンテヴェルディ合唱団
(フィリプスPHCP-20219 ¥2,039 )
 颯爽としたテンポで、ブラームスの描いた、さわやかな叙情性を表わした演奏です。カップリングされている 愛の歌作品52 も、とても親しみやすく、陽気で楽しいワルツの声楽曲です。

イエーナ指揮ハンブルク北ドイツ放送合唱団
(グラモフォン 廃盤)
 今から20年ほど前に、この曲を初めて聴いた演奏で、私はこれを聴いて、この曲が大好きになりました。ゆったりしたテンポで演奏され、幻想的でロマンティックな雰囲気が魅力的です。現在廃盤のようですが、早く再発されないかと思っています。

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(1998年4月)
4つのバラード 作品10

作曲1854年。
初演 第2、3曲は1860年3月21日、ウィーンにて、クララ・シューマンの独奏によって行われ、第1、4曲は1867年11月23日、ウィーンにて、ブラームス自身の独奏によって行われた。
出版1856年。
演奏
時間
第1曲約5分、第2曲約7分、第3曲約4分、第4曲約9分。


 ブラームスの若き21歳(1854年)の作品ですが、そこには、すでに後の大家の面影が認められるほどに、曲は内的に充実しており、劇的で、叙情的な素晴らしい作品で、特に私は、第1曲、第2曲が大好きです。第1曲は、ブラームスの手で、スコットランドのバラード(いわゆる物語的な詞)「エドワード」によると表記され、その内容は、父親殺しの暗い物語で、エドワードと呼ばれる息子と、その母親との対話体になっていて、次のような大意のものです。

 おまえの剣はなぜそんなに血で赤くなっているのか?
 おお、私は自分の禿鷹(はげたか)を殺しました。
 おまえの禿鷹の血はそんなに赤くない。白状しなさい。
 おお、私は自分の赤馬を殺しました。ほんとうです。
 おまえの赤馬は年老いて、荒っぽくはない。
 おお、私は父を殺したのです。なんということでしょう。
 おまえはそのつぐないに何をしようというのだね?
 この地には休まるところがありません。
  海をこえて遠くにいきます。
 裁判や評判は?
 忘れ去られるまで、私はあらわれません。
 おまえの妻や子供はどうする?
  おまえはいつでかけるのかね?
 世界は広い。彼らには物乞いをいつまでもさせるがいい。
  私は彼らにはもうあわない。
 では母さんは?
 私は母さんに呪いをのこすのだ。

 ブラームスはこの物語を、その精神を重んじ、母親と息子の対話を暗示しながら、劇的な迫力をもって描いています。第2曲は幻想的で子守歌のような旋律で始まります。私は風邪をひいて薬をのんで頭がボーとする時に、この曲の麻薬的な出だしの旋律が浮かぶのです。そして陶酔してしまうのです。
 ブラームスがシューマンに出会った翌年の1854年2月に、師のシューマンはライン川に投身自殺を図りました。その年に書かれたこの作品は、その後のシューマン家をとりまく陰鬱な雰囲気を、叙情的な響きの中に描き出しており、また、シューマンの狂気とその死が描かれているとも言われています。

おすすめのCD
アファナシエフ(pf)
(デンオンCOCO-78906 ¥3,059 )
 ゆったりとしたテンポで、ブラームスの描いた、ほの暗い叙情性を完璧に表出した演奏です。録音も新しくピアノの音色が澄んでおり、深い精神世界を作りあげています。

グールド(pf)
(ソニーSRCR-2072 ¥1,835 )
 グールドの独自の解釈にもとづく、美しいブラームス。デリケートに音と響きを選び出して、作品に内在する美そのものを幻想的に描き出しています。

リヒテル(pf)
(デジタル・メディア・ラボDMCC-24533 ¥2,477)
 リヒテル1992年のライブ録音。ミスタッチはあるものの、第1曲の圧倒的で劇的な迫力、第2曲の夢見るようなロマンティックな響きは、大変魅力的です。第1曲、第2曲のみ入っています。

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(1998年3月)
弦楽五重奏曲第2番 ト長調 作品111

作曲1890年。
初演 1890年11月11日、ウィーンにて、ロゼー四重奏団ほかによって行われた。
出版1891年。
編成ヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロ1。
演奏
時間
約30分。


 私はこの弦楽五重奏曲第2番を、数あるブラームスのすばらしい室内楽曲の中で、クラリネット五重奏曲作品115と並ぶ、最高の作品と考えています。流麗な旋律にあふれ、しかも壮大な建築物を思わせる精緻な構造は、晩年57歳のブラームスが、その霊感と精力のすべてを注いだ力作と言えるでしょう(年譜のページに詳しい記述あるので参照ください)。男性的な力強さや、快活な気分があふれる第1楽章、甘美で悲しみに満ちた第2楽章、やさしさにあふれ、全てをなぐさめてくれるような、美しい第3楽章(昨年の夏、広島の原爆資料館を見学して、恐ろしい光景を目のあたりにし、深い悲しみと怒を覚えた時、不思議にも自然と、この第3楽章のメロディーが心の中に流れてきました)、ハンガリー的色彩感に満ち、表情豊かな第4楽章。ブラームスの全作品の中で最高の曲の一つでしょう。

おすすめのCD
これほどのすばらしい作品にもかからず、発売されているCDはなぜか大変少なく、とても残念でしかたありません。

ブタペスト四重奏団、トランプラー(va)
(ソニーSRCR-1909〜12 ¥7340 限 )
 ブラームスの必要とする厳しい古典的造形と適度なロマン性を兼ね備えた超名演。驚くほど強固なアンサンブルが展開され、特に第1楽章展開部のからみは壮絶で、息をのむほどです。いまだにこの演奏を超えたものは出ていないと思います。CDは昨年末に限定発売されましたが、現在は手に入らないかもしれません。見つければ、必ずゲットしてください。

ベルリン・フィルハーモニー八重奏団員
(フィリプスPHCP-3545 ¥2,039 )
 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のメンバーによる演奏で、五つの弦楽器の響きが同質の音色をもち、きわめて精緻なアンサンブルが展開され、大変オーソドックスな演奏です。

アマデウス四重奏団、アロノヴィッツ(va)
(グラモフォンPOCG-3469〜70 ¥2,957 )
 チェロの音質が、他の四つの弦楽器と少し違うところが気になるのですが、おおらかな表現と落ち着いた情緒が魅力の演奏です。現在のところこのCDが一番入手しやすいでしょう。

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(1998年2月)
交響曲第2番 二長調 作品73

作曲1877年。
初演 1877年12月30日、ウィーンにて、ハンス・リヒター指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によって行われた。
出版1878年。
編成フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロムボーン3、テューバ、ティンパニ、弦5部。
演奏
時間
約40分。


 ブラームスの「田園交響曲」と呼ばれることもあるこの曲は、1877年6月(44歳)、南オーストリアの山々に囲まれたヴェルター湖畔の村、ペルチャッハで作曲されました。この村は、美しい風景とおだやかな自然環境に満ちており、すばらしい創作の霊感を受けたブラームスは、美しい旋律がよどみなく流れ、柔和で温和であり、幸福感に満ちたこの曲を書きました。友人のビルロートはこの曲聴いて「すべてが、小波の立つ流れと、青い空と、太陽の光と、涼しい緑の木陰です。ペルチャッハはどんなにか美しい処に違いありません。」と叫びました。

おすすめのCD
ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(グラモフォンPOCG-3262 ¥2,243 )
 オーストリアの田園風景を思い起こさせるような、のどかで、おおらかな、あたたかい演奏です。 ウィーンフィルの美しい音色でじっくりと歌いあげ、作品の姿をくまなく描いています。

ヴァント指揮北ドイツ放送交響楽団
(RCA BVCC-8161/62 ¥3,059)
 知的で、重厚な、まさにドイツ音楽の本流をいく演奏です。しかも冷たさは無く、豊かな響きで満ちています。特に第2楽章は充実しており、人生の深みを感じさせ、大変感動的です。録音も新しく優秀です。

シューリヒト指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ロンドンPOCL-4312 ¥1,835 )
  大変ロマンティックな演奏で、さっそうとしたテンポ、いきいきとしたリズム、さわやかな表情が魅力的です。第1楽章の展開部に出てくる、トロムボーンの第1主題のモチーフを、これほど強烈にアピールした演奏を聴いたことがありません。少し録音が古いですが、おすすめです。

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(1998年1月)
6つのピアノ小品集 作品118

作曲1893年。
初演 第3、5曲は1894年1月22日、全曲の初演は1894年3月7日、いずれもロンドンにて、イローナ・アイベンシュッツの独奏によって行われた。
出版1893年。
演奏
時間
第1曲約2分、第2曲約7分、第3曲約4分、第4曲約3分、第5曲約4分、第6曲約6分。


 ブラームス晩年のピアノ小品集(作品116から作品119までの4つある)の1つで、私の最も好きなピアノ曲です。どの曲も晩年の澄みきった心情を現しており、特に、素朴で、あたたかく、心にしみ入るような第2曲 間奏曲、すさまじいほどの集中力があり情熱的な第3曲 バラードは素晴らしく、胸に打たれます。このホームページに使っているMIDIの曲が、第2曲の 間奏曲です。

おすすめのCD
バックハウス(pf)
(ロンドンPOCL-9925 ¥1,000 限 )
 バックハウスの晩年の演奏で、素朴で、おおらかで堂々としており、ブラームスの晩年の澄みきった心情をよく表出した演奏だと思います。

アファナシエフ(pf)
(デンオンCOCO-75090 ¥3,059 )
 ゆったりとしたテンポでブラームスの書いた音楽構造をあきらかにしようとした演奏です。録音も新しくピアノの音色が澄んでおり、深い瞑想の世界を作り上げています。

グールド(pf)
(ソニーSRCR-2072 ¥1,835 )
(ソニーSRCR-1935 ¥1,835 限 )
 グールド独自の解釈でとても繊細な表情を持った美しい演奏です。特に左手のフレーズの歌わせかたなどハットさせられるものがあります。ただし、これらのCDはSRCR-2072は 第1曲、第2曲、SRCR-1935は第1曲、第2曲、第6曲のみカップリングされています。

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(1997年12月)
弦楽六重奏曲第1番 変ロ長調 作品18

作曲1859年から60年。
初演 1860年10月20日、ハノーファーにて、ヨアヒム四重奏団ほかによって行われた。
出版1862年。
編成ヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロ2。
演奏
時間
約35分。


 ブラームスの若き日27歳の美しい、とても情感に満ちた、いや激情がほとばしると言った方が当たっているかも知れない作品です。中低音が厚くオーケストラ的な響き持っており、特に夢見るような美しい旋律のあふれる第1楽章、ルイ・マル監督のフランス映画「恋人たち」の中に使われたロマンティックな第2楽章がとても印象に残ります。

おすすめのCD
カザルス、フォレイ(vc)、スターン、シュナイダー(vn)、カティムス、トーマス(va)
(ソニーSRCR-9759 ¥2,345 )
 1952年の古い録音ですが、私の一番好きなCDです。カザルスのチェロを中心に各奏者が積極的にかけあい、感情の起伏の大きなとても説得力のあるダイナミックな演奏です。

ベルリン・フィルハーモニー八重奏団
(フィリプスPHCP-3544 ¥2,039 )
 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のメンバーによる演奏で、きわめて精緻なアンサンブルが展開されており、大変流麗で抒情的な演奏です。

コチアン四重奏団、シュカンパ(va)、コホウト(vc)
(デンオンCOCO-75558 ¥2,548 )
 チェコの四重奏団とスメタナ四重奏団員による演奏で、録音がとても良く、チェコの暖かな音色の弦楽器で大変生き生きと旋律を歌わせるロマンティックな演奏です。

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(1997年11月)
交響曲第4番 ホ短調 作品98

作曲1884年から85年。
初演 1885年10月25日、マイニンゲンにて、ブラームス指揮マイニンゲン宮廷管弦楽団によって行われた。
出版1886年。
編成フルート2(2番はピッコロ持ち替え)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット2、トロムボーン3、ティンパニ、トライアングル、弦5部。
演奏時間約45分。


 私がレコード(今から20年以上前なのでCDはまだ出てなかった)を買って聴いた初めてのブラームスの曲は交響曲全集です。その中で一番最初に好きになった曲がこの4番です。ブラームスの晩年の心境を反映した憂いに満ちた曲で、第1楽章がとてもロマンティックで一度聴いただけでその旋律の美しさにひかれてしまいました。今でもブラームスの全作品の中で最高の曲の一つだと思っています。

おすすめのCD
ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ポリグラムPOCG-90061 97.12.3 再発売 ¥1,200 )
 20年前に初めて買ったレコードで、とても想い出深い演奏です。おおらかで、かざりけが無く質素であるが適度にロマンティックでブラームスの音楽を素直にとらえた演奏です。ブラームスが常に聴いていたウィーンのオーケストラであり現在、世界最高のオーケストラであるウィーンフィルは楽器(特にヴァイオリン、チェロ、クラリネット、ホルン)の音色が大変、甘く、美しく、ブラームスを演奏する最高のオーケストラです。この演奏もウィーンフィルの美しさを全面に出しブラームスの音楽をがっちりと描き出しています。

クライバー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ポリグラムPOCG-1108 ¥2,548 )
 クライバーの演奏はこれまでのこの曲に対する伝統や習慣などの既成概念から離れたまったく新しい感覚のものです。ブラームスの書いた音そのものを頼りにクライバー独自の音楽的センスでねり直した演奏でリズムの扱いや音づくりがユニークでブラームスの書いた精緻な音楽を綿密に描き、力強い説得力のある演奏です。ここでもウィーンフィルの音色の美しさは魅力的です。

ワルター指揮コロムビア交響楽団
(ソニークラシカルSRCR1664 ¥1,835 )
 上の2つの演奏に比べると少し重厚さに欠けますが、昔から名演奏と言われていたもので、歌にあふれロマンティックで、細やかなニュアンスが美しく、生き生きとした演奏です。

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