おすすめの曲


(1999年4月)
 交響曲第3番 ヘ長調 作品90

作曲1883年。
初演 1883年12月2日、ウィーンにて、ハンス・リヒター指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によって行われた。
出版1884年。
編成フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット2、トロムボーン3、ティンパニ、弦5部。
演奏
時間
約35分。


 この作品は1883年(50歳)の夏、温泉保養地で有名なドイツのヴィースバーデンで作曲されました。ブラームスはこのヴィースバーデンであたたかく迎えてくれる友人達に囲まれ、心地良い毎日を過ごしていました。特に、34歳も年下でまだ16歳の若いアルト歌手、ヘルミーネ・シュピース(1857〜93)という女性の家がそこにあり、ブラームスは、できるだけ機会を多く作って、彼女と会おうとしました。彼女は豊かな才能を持った美しい声の持ち主で、しかも愉快で、愛想のよい陽気な女性でした。彼女はブラームスのからかいや悪口を理解し、それに対して適当に応酬したため、ブラームスはこの陽気な美しいライン娘にすっかり魅惑されてしまったのです。そして作品96、97のような美しい歌曲は彼女のために書かれました。その交際は恋愛感情に満ちて、ハンブルクあたりでは、二人はやがて結婚するのではないかとさえ噂されています。(もちろん、ブラームスは彼女との結婚を考えてはいなかったようですが。)そんなわけで、この交響曲には陽気で明るい雰囲気と感傷的な雰囲気が存在しており、堅固で骨太な構成と、しなやかな旋律の美しさが見事に融合した、独自の魅力を持った作品となったのです。
 この曲をウィーンで初演した指揮者ハンス・リヒターは、この第3交響曲をベートーヴェンの第3交響曲になぞらえてブラームスの「英雄交響曲」と呼びました。確かに、雄大さや重厚な響きを持っいてるのですが、どの楽章も力強く終わるのではなく、淋しく静かに終わることや、演奏時間が他の3つの交響曲に比べて短く、ブラームス自身が「小交響曲(Symphoniechen)」と呼んだため、ブラームスの「英雄交響曲」という呼び名は一般的になりませんでした。また、当時、ブラームス派と対立していたワーグナー派に属する作曲家フーゴー・ヴォルフ(1860〜1903)は、この曲について「ベートーヴェンの第2交響曲と比べると、まさにできそこないの作品である。そこには独創性というものが無く、シューマンやメンデルスゾーンの亜流である。」ときわめて悪意にみちた批評を述べ、ブラームス派を攻撃したのですが、ウィーン初演時は、この曲の支持の拍手が圧倒的に多く、公衆の大部分はブラームスを支持しました。
 曲は勇壮で力強い旋律で始まる第1楽章、穏やかで室内楽的な精妙な美しさにあふれた第2楽章、映画音楽としても用いられたことのある、哀愁に満ちた第3楽章、情熱的で闘争的な音楽で、この曲のクライマックスを築きあげる第4楽章からなっています。

おすすめのCD
ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(グラモフォンPOCG-90273 ¥2,039 )
  武骨で力強く、スケール豊かな、いかにもドイツ的な演奏です。しかもウィーンフィルのオルガン的な柔らかく美しい響きがすばらしく、最高の演奏です。

ヴァント指揮北ドイツ放送交響楽団
(RCA BVCC-8161/62 ¥3,059)
 管弦楽のバランスが大変美しい、豊かな響きに満ちた重厚な演奏です。録音も新しく優秀です。

セル指揮クリーヴランド管弦楽団
(ソニー SRCR-9854 ¥1,733 )
 古典的造形と適度な叙情性がうまくかみ合った、大変バランスのとれた演奏です。端正で美しい表情は本当にすばらしいです。

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(1999年3月)
3つの間奏曲 作品117

作曲1892年。
初演 第1曲は1893年1月30日、ロンドンにて、ファニー・デイヴィスの独奏によって、第2曲は1893年1月30日、ウィーンにて、イグナーツ・ブリュルの独奏によって、第3曲は1893年11月27日、ハンブルクにて、ユーリウス・シュペンゲルの独奏によって、行われた。
出版1892年。
演奏
時間
第1曲約5分、第2曲約6分、第3曲約8分。


 1892年1月、良き友人であり理解者であったヘルツォーゲンベルク夫人が、6月に姉のエリーゼが亡くなり、ブラームスは老いと孤独をいっそう強く感じるようになりました。この年に書かれた作品117の3つのピアノ曲は、そんな晩年ブラームスの心情をよく表しています。実際、ブラームスはこれらの小品を「自分の苦悩の子守歌」と呼び、簡素な音楽構造と透明なハーモニーの中に、深い情感や複雑に屈曲した心の内面を描いたのでした。ブラームスはこの作品117の第1曲が好評を得たので、管弦楽曲に編曲しようとしたしたのですが、中間部の純ピアノ的な曲想のために失敗しています。
 第1曲は、ドイツ・ロマン派の詩人ヘルダーの詩集「諸民族の声」の中の「ある恵まれない母親の子守歌」と題された詩の最初の2行が冒頭に引用されており、もともとはスコットランドの子守歌であると言われ、その大意は次のようなものです。

 安らかに眠れ、わが子
 安らかに美しく眠れ
 お前の泣くのを見るのが私にはたまらない

 曲はまさしく、大きな波を持たず、子守歌のように始まり、中間部のなんとも言えない、苦しく悩まし気な美しさが印象的です。第2曲は、寂しげなアルペジオがブラームスの心を吹き抜ける秋風を想わせます。第3曲は、暗くて不気味な雰囲気が全体におわれており、ヘルダーの「スコットランドの詩」の「おお悲しいかな、谷底に」がモットーになっていると言われています。


第1曲ですが、お聴きください。

おすすめのCD
アファナシエフ(pf)
(デンオンCOCO-75090 ¥3,059 )
 とてもゆったりとしたテンポで、ブラームスの書いた音楽構造をあきらかにしようとした演奏で、幻想的で神秘的な雰囲気を持った美しい演奏です。

ヴェデルニコフ(pf)
(デンオンCOCQ-83037から9 ¥4,725 )
 深く温かみのある豊かな音色と理想的なテンポで、ブラームスの書いた内なる音楽を極めて誠実に再現した演奏です。

グールド(pf)
(ソニーSRCR-1935 ¥1,835 、ソニーSRCR-9173から4 ¥4,839)
 グールド独自の解釈が光った、繊細で叙情的な響きが美しい演奏です。

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(1999年2月)
ピアノ四重奏曲第3番 ハ短調 作品60

作曲1873から75年。
初演 1875年11月18日、ウィーンにて、ブラームスのピアノ、ヘルメスベルガー四重奏団のメンバーによって行われた。
出版1875年。
編成ピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ。
演奏時間約35分。


 ブラームスはピアノ四重奏曲を3曲書いています。この第3番は作品番号順から最後にあたるのですが、実際は、他の2曲よりも早い時期に着手されました。すなわち1854年4月(20歳)に最初の完成をみたのですが、その仕上がりに満足せず、何度も改訂が繰り返され、ようやく1875年(42歳)最終的に、完成されたのでした。内容的には、最初の完成時期が恩師シューマンがライン河に投身自殺を図った1854年2月の直後であったため、シューマンの悲劇の印象がとても強く反映されています。ブラームス自身この作品について、「この楽譜の扉に、ピストルを頭に向けている人の姿を書くといいでしょう。すると、音楽についてのひとつの概念を得ることができます。」と述べており、さらに、第1楽章の熱情に溢れた悲劇的なムードについて、「やることがなくなったために自殺しようとしている男のことを想像してください」とも述べています。また、この曲は「ヴェルテル四重奏曲」ともいわれ、恵まれず、みのらない愛に対するドイツ人一般の型、つまり極端にすすむと自殺にまでゆきかねないゲーテのヴェルテル的な感情があるとされています。確かに、全体的に悲劇的な雰囲気がただよう曲ですが、 崇高で甘美な旋律で満たされた第3楽章は、ブラームスが書いた美しい叙情楽章の中でも最高のものに属すると思います。

おすすめのCD
スターン(vn)、ヨーヨー・マ(vc)、ラレード(va)、アックス(pf)
(ソニーSRCR-1603〜5 ¥4,689)
 4人それぞれの持ち味が生かされた、大変スケール豊かな美しい演奏です。特に第3楽章はヨーヨー・マのチェロが天国的な響きに満ちていてとても美しいです。

ルビンシュタイン(pf)、ガルネリ弦楽四重奏団
(RCA BVCC-7336 ¥1,835 )
 ルビンシュタインの親しみのあるピアノとガルネリ弦楽四重奏団の情緒豊かで大変ロマンティックな演奏が魅力的です。

ボザール・トリオ、トランプラー(vc)
(フィリップス PHCP-9365〜6¥2,957 )
 きわめて安定したアンサンブルと格調高い表現が魅力の演奏です。

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(1999年1月)
ハイドンの主題による変奏曲 作品56a

作曲1873年。
初演 1873年11月2日、ウィーンにて、ブラームス指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によって行われた。
出版1874年。
編成ピッコロ、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット2、ティンパニ、トライアングル、弦5部。2台ピアノによる版(作品56b)も存在する。
演奏時間約18分。


 この作品は、1873年(40歳)夏、ミュンヘン近くのシュタルンベルク湖畔のトゥッツィングで書かれ、変奏曲の名人と言われたブラームスの最高傑作で、古今の管弦楽用の変奏曲の中でも、最も優れていると言われている作品です。ブラームスは、前年の秋にウィーン楽友協会の芸術監督に就任し、楽友協会の司書で音楽学者のC.F.ポール(1819〜87)と知り合いになっていました。ある時、そのポールからハイドンの未出版作品の楽譜「野外のパルティータ」と題された6曲の管楽合奏曲を見せられ、その中の第6曲第2楽章「聖アントニーのコラール」と記された主題を大変気に入り、自分のノートに書きとめました。そして、その主題をもとに大がかりな変奏曲を作曲したのです。また、この作品には管弦楽用のほかに、2台のピアノ用(作品56b)も書かれました。なお、原曲の「野外のパルティータ Hob.-41〜46」は、今日では、ハイドンの作ではなく、弟子のプレイエル(1756〜1831)のものである説が有力です。曲は、主題、8つの変奏曲及び、終曲からなっており、特に、優美でロマンティックな美しさをたたえた第3変奏、生き生きとした活力に富んだ第6変奏、パッサカリア形式を使い壮大な建築物を思わせる終曲が魅力的です。

おすすめのCD
アーノンクール指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(テルデックWPCS-5917〜9 ¥7,034 )
 管楽器が大変美しく、優美で透明感あふれた演奏は、この曲の魅力を十二分に伝えてくれます。

セル指揮クリーヴランド管弦楽団
(ソニーSRCR-9853 ¥1,733 )
 楽譜を忠実に再現したような客観的で、飾り気のない端正な演奏が魅力です。クリーヴランド管弦楽団は大変合奏能力が高く、力強さと格調を持っています。

ワルター指揮コロムビア交響楽団
(ソニークラシカルSRCR2011 ¥1,835 )
 ゆったりとしたテンポの落ち着いた演奏で、きわめてロマンティックに旋律を歌わせ、叙情性豊かなところが魅力です。

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(1998年12月)
 ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ長調 作品100

作曲1886年。
初演 1886年12月2日、ウィーンにて、ヘルメスベルガーのヴァイオリン、ブラームスのピアノによって行われた。
出版1887年。
編成ヴァイオリン、ピアノ。
演奏
時間
約23分。


 ブラームスは3曲のヴァイオリン・ソナタを書いていますが(実際には、他に4曲書いたとされ、発表されなかった)、いずれも繊細で、気品に満ちており、美しい旋律と緻密な構成を持った傑作となっています。その中で、この第2番 イ長調 作品100は、特に美しい旋律が豊富にちりばめられた作品と言えるでしょう。1886年(53歳)の夏をスイスのトゥーン湖のほとりトゥーンで滞在したブラームスは、スイスアルプスの雄大な美しい風景を楽しみ、その影響を受けてか、明るくのびやかな情緒と共に、雄大さや力強さをも兼ね備えたこのヴァイオリン・ソナタ第2番を作り上げました。明るくおだやかで、気品に富んだ第1楽章、春のようにのどかな緩徐楽章と情熱的なスケルツォ楽章を合わせ持った第2楽章、のびのびとした旋律が優美な第3楽章からなっています。

おすすめのCD
デュメイ(Vn)、ピリス(pf)
(グラモフォンPOCG-1618 ¥3,059 )
 デュメイのヴァイオリンは、あたたかく、柔らかな音色が魅力的で、優美で洗練された美しさを持った演奏です。

オイストラフ(Vn)、リヒテル(pf)
(メロディアBVCX-4089 ¥1,733 )
 オイストラフのヴァイオリンは、線の太い、つややかな美しい音色で、堂々と表情豊かに歌わせています。

グリュミオー(Vn)、シェベック(pf)
(フィリップスPHCP-9651 ¥1,000限 )
 グリュミオーのヴァイオリンは、柔らかな美しい音色で、のびのびと歌わせた、大変親しみやすい演奏です。

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(1998年11月)
ピアノ・ソナタ第1番 ハ長調 作品1

作曲1852から1853年。
初演 1853年12月17日、ライプツィヒにて、ブラームス自身の独奏によって行われた。
出版1853年。
演奏
時間
約32分。


 このピアノ・ソナタ第1番は、ブラームスが1853年9月に初めてデュッセルドルフのシューマンを訪れた時に演奏した作品で、このピアノ曲の中にオーケストラの色彩豊かな響きを聴きとったシューマンは、大変感銘を受け、「新しい道」というエッセイを書き、ブラームスを賞賛したのでした(詳しくは生涯・年譜の1853年を参照ください)。また、ブラームスはこの作品にかなり自身があったようで、実際は、作品4のスケルツォ 変ホ短調や作品2のピアノ・ソナタ第2番 嬰ヘ短調が先に書かれたのですが、記念すべき作品番号1を、後に書かれたこのピアノ・ソナタ第1番に与えたました。作品は4つの楽章から成り、全体的に、青年ブラームスの覇気にあふれた若々しい情熱やロマンが感じられ、後期の作品にない新鮮な魅力を放っています。堂々とした重厚な和音で始まり、交響的な響きに満ちた第1楽章(冒頭の第1主題は、よくベートーヴェンのピアノ・ソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」の冒頭主題との類似性が指摘されています)。
 
ブラームス ピアノ・ソナタ第1番第1楽章冒頭
ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第29番第1楽章冒頭
 
ブラームス自身により「古いドイツのミンネ・リート(古世ドイツの恋歌)による」と注をつけられ、最初の12小節の旋律には、その歌詞が加えられた叙情的な第2楽章。この歌詞の大意は次のとおりで、テノール独唱と男声4部合唱が歌うような感じのものとされています。
(独唱)ひそやかに月は上る
(合唱)青い小さな花(月をさす)
(独唱)しろがねの小雲を縫いつ天に上る
(合唱)青い青い小さな花 
    ばらは谷間に、乙女は広間に
    おお、世に美しきばらよ
 
そして嵐のような管弦楽的な性格を持つスケルツォの第3楽章。律動的で推進力に富んだ第4楽章。一般的には、ブラームスのピアノ・ソナタと言えば、第3番 ヘ短調作品5がよくとりあげられますが、この第1番もそれに劣らずとても魅力的な作品です。


第1楽章提示部までですが、お聴きください。

おすすめのCD
岡田博美(pf)
(カメラータ30CM-468 ¥3,150 )
 ゆったりとした、重厚な響きで、細部までよく磨かれた大変美しい演奏です。この作品の交響的な魅力が十二分に伝わってきます。

ウゴルスキ(pf)
(グラモフォンPOCG-1999 ¥3,059 )
 明るくのびやかで、澄んだピアノの響きがとても美しい演奏です。全体に初々しさと喜びに満ちた雰囲気が漂い、とても親しみやすく感じられるのが魅力です。

リヒテル(pf)
(RCA BVCC-96 ¥3,059 )
 スケールの豊かなとてもロマンティックな演奏です。リヒテルならではの劇的で圧倒的な演奏スタイルは、ブラームスがショパンやリストと並びロマン派の時代に生きていた作曲家だと強く感じさせられます。

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