おすすめの曲


(1999年10月)
 2つのクラリネット・ソナタ 作品120

作曲1894年。
初演 第1番は1895年1月11日、第2番は1895年1月8日、ウィーンにて、ミュールフェルトのクラリネット、ブラームスのピアノによって行われた。
出版1895年。
編成クラリネット(またはヴィオラ、ヴィオリン)、ピアノ。
演奏
時間
第1番約25分、第2番約20分。


 この2曲のクラリネット・ソナタは最晩年1894年(61歳)の夏にバート・イシュル(ウィーンの西200キロほどの鉱泉の出る保養地)で完成された、ブラームス最後の室内楽曲となった作品です。以前クラリネット五重奏曲を紹介した時に書いたのですが、ブラームスは1890年に弦楽五重奏曲第2番を完成した際、創作力が衰えたことを自覚し精神的にも体力的にも、もう限界に達したと考えるようになり、遺書を書くほどになっていました。そんな燃え尽きてしまった感のあるブラームスの心に再び火をつけたのが、クラリネット奏者のミュールフェルトでした。1891年3月マイニンゲンにおいて出会った彼のクラリネット演奏が大変気に入り、彼のために2曲のクラリネット作品(三重奏曲作品114、五重奏曲作品115)が書かれました。それから約3年後、クラリネットに対する情熱が去らず、ミュールフェルトの美しい音色を心に描きながら、この2曲のクラリネット・ソナタを流れるように書き上げたのでした。
 曲の内容は2曲とも、晩年の作品に多く見られるような重厚さよりも、むしろ単純明快な作風をみせ、素朴な情緒の中に歌われるクラリネットとピアノが巧みに融合した、親しみやすいものとなっています。また、そこには、親しい人たちに先立たれた悲しみによる憂愁さ(この作品が書かれた1894年に友人で外科医のビルロート、ブラームスの作品の普及に尽力した大指揮者ビューローをあいついで亡くしている)、その悲しみを克服しようとする激烈さ、あるいは黄昏どきの優しい静寂や宗教的な諦観をも感じさせます。
 第1番ヘ短調は、暗い気分を漂わせて始まりその中には激しさもある第1楽章、幻想的なノクターンのような緩徐楽章の第2楽章、優雅なレントラーの第3楽章、田園的な明るさが魅力の第4楽章からなっています。
 第2番変ホ長調は、優雅で幸福感に満ちた第1楽章、スケルツォ風で情熱的な第2楽章、ブラームス最後の変奏曲であり精巧で均整のとれた美しさが魅力の第3楽章からなっています。
 私は、特に第2番第1楽章が好きで、ブラームスの人間的なやさしさやあたたかさが感じられ、幸福な気持ちにさせてくれます。
 なお、ブラームスはこの曲を自分の好みと曲の性格にしたがって、ヴィオラとピアノのソナタに編曲しており、こちらの方もしばしば演奏されます。さらに広く親しんでもらえるようにと、ヴィオリンとピアノのソナタにも編曲しています。 

おすすめのCD
ウラッハ(cl)デムス(pf)
(ウエストミンスター MVCW-19021 ¥1,937)
  録音が古いのですが、すべてのものをやさしく包み込んでくれるような、優しくふくよかで、しっとりとした響きが魅力的です。端正でロマンティクな表情豊かな演奏は本当に素晴らしいです。

プリンツ(cl)マリア・プリンツ(pf)
(フォンテック FOCD-2533 ¥2,548)
 ふっくらとした柔らかな音色でたっぷりと旋律をうたわせており、格調高く、自然な流れが美しい演奏です。

ライスター(cl)レヴィン(pf)
(カメラータ25CM-75 ¥2,625 )
 柔らかであるが輪郭のはっきりした、しっかりした音色で、きわめて流麗にうたわせた美しい演奏です。

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(1999年9月)
 ピアノ五重奏曲 ヘ短調 作品34

作曲1862年から64年。
初演 1865年6月22日、ライプツィヒにて行われた。
出版1865年。
編成ピアノ、ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ。
演奏
時間
約35分。


 この作品は1864年(31歳)に完成された、ブラームスの室内楽の中でも傑作と言われているものです。構成的にはきわめて緻密で、各楽器の使用法およびバランスにも綿密な注意が払われており、若々しい情熱と哀愁に満ちた、そしてブラームス特有の諦観が流れた重厚な作品となっています。
 この曲は弦楽四重奏にピアノを加えた編成のもので、ブラームスはこの種の編成のものをこの1曲しか残していません。しかも、もともとこのような編成の曲として着想されたものではなく、完成まで紆余曲折を経て作られました。最初、1862年に弦楽四重奏にチェロをもう1本加えた編成の弦楽五重奏曲として完成されたのですが、友人のヨアヒムに弦楽器の扱い方に問題があり、あまりにもドライな響きになっていると指摘されました。そして早速同じ曲を今度は2台のピアノのためのソナタとして書き直したのです。その後さらに、クララから作品の内容から見て2台のピアノではなめらかな音のつながりや、甘さ、豊かな色彩を表現するのは無理と忠告を受け、最終的にピアノ五重奏曲に改訂したのでした。現在、弦楽五重奏曲の楽譜はブラームス自身によって破棄されてしまったらしく、残されていません。2台のピアノのためのソナタは作品34bとして1871年に出版されています。
 曲は、哀愁に満ちた旋律で始まり、とても印象深い第1楽章(この楽章は時々テレビドラマのBGMに使用されるほど魅力的です)、柔和で叙情的な第2楽章、変化に富み生き生きとして劇的なスケルツォの第3楽章、神秘的な序奏で始まり、ハンガリー的色彩豊かな第4楽章からなっています。

おすすめのCD
ゼルキン(pf) ブダペスト弦楽四重奏団
(ソニー 25DC-5227 ¥2,394)
  骨太で堅固なアンサンブルと、味わい深い沈み込でいくような表現でこの作品の魅力を十二分に伝えてくれます。いかにも、ドイツ的な重厚な演奏です。

ポリーニ(pf) イタリア弦楽四重奏団
(クラモフォン POCG-1143 ¥2,548)
 ドイツ的なブラームスとは少し違った、しなやかで陽気な雰囲気があふれた、情緒豊かな演奏です。

アルゲリッチ(pf) ラビノヴィチ(pf)
( テルデック WPCS-4240 ¥2,854 )
 2台のピアノ版の演奏です。重厚でしかも繊細な表情と美しい響きが魅力的なこの2人の演奏を聴くと、ブラームスが後にあえて2台のピアノ版を出版したことがうなづけます。

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(1999年8月)
 セレナード第2番 イ長調 作品16

作曲1858から59年。
初演 1860年2月10日、ハンブルクにて、ブラームス指揮ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団によって行われた。
出版1860年。
編成ピッコロ(第5楽章のみ)、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス。
演奏
時間
約35分。


 この作品は1859年(26歳)に完成された、後の重厚なブラームスからは想像できない本当にかわいらしい、魅力的な管弦楽曲です。一般的には交響曲第1番への習作的な意味を持つ作品と言われていますが、若々しい新鮮な魅力をたたえており、重厚な交響曲とはまた違った独自の存在価値を持った作品と言えるでしょう。
 ブラームスは同時期にセレナードを2曲書いているのですが、この第2番は大規模な編成の第1番(大管弦楽のためのセレナードと名付けられた)とは対照的に、管楽器を中心としたかなり小規模の編成によるもので、小管弦楽(管楽器、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)のためのセレナードと名付けられました。楽器編成にヴァイオリンを使用していないのは、当時の作曲家達にある種の魅力を感じさせていた編成だったようで、ブラームスは後の大作ドイツレクイエムの第1曲でもヴァイオリンを使用していないのです。
 ブラームスは1862年秋にはじめてウィーンに進出し定住したのですが、その翌年の1863年3月8日に友人のオットー・デッソフの指揮によるウィーン・フィルでこのセレナード第2番が初めてウィーンに紹介されて聴衆の支持を受け、大変喜び、大きな自信を持ちました。ウィーンでのこの演奏について批評家のハンスリックは次のような見解を述べています。「ブラームスは、自主的で独創的な個性、立派に形成された真の音楽的な性格を示し、不屈な意識的な努力によって大家に成熟してゆく芸術家であることを見せた。そのイ長調のセレナードは、最近楽友協会で演奏されたニ長調のもの(第1番)のやさしい妹にあたるもので、同じような平和を夢見るといえる田園的な気分をこめてつくられている。・・・曲は大変に好意的に受け入れられた。心からの拍手は、謙虚な作曲家が客席でだんだん身を小さくしてゆくくらいに、終わりに近づくにつれて大きくなっていった。」
 曲は、素朴でみずみずしさが素敵な田園風の第1楽章、明るくはつらつとしたスケルツォの第2楽章、感傷的な旋律に満ちた味わい深く美しいアダージョの第3楽章(クララ・シューマンは、この楽章には信じられないほどの宗教的な美しさがあると述べています)、モーツァルト風のメヌエットの第4楽章、全曲中最も快活で喜びにあふれた行進曲風の第5楽章からなっています。私は特に、あたかも高原に吹くそよ風のようなすがすがしさが感じられ、やすらぎを与えてくれる第1楽章と木管楽器(特にクラリネット、ホルン)が憧憬に満ちた旋律を歌う第3楽章が大好きです。


第1楽章展開部までですが、お聴きください。
(取り合えずスコアを打ち込んだだけで、聴き苦しいことお許しください。)

おすすめのCD
ケルテス指揮ロンドン交響楽団
(ロンドン KICC-8469 ¥1,500)
  さっそうとしたテンポのロマンティックな美しい演奏で、この曲の魅力が十分伝わってきます。おそらく、このCDが一番手に入りやすいでしょう。

ティルソン・トーマス指揮ロンドン交響楽団
(ソニー SRCR-8821 ¥2,854)
 知的で、スケール豊かな堂々とした演奏です。録音も新しく優秀です。

フランシス指揮"ジュゼッペ・ヴェルディ"ミラノ交響楽団
( BMG BVCC-6063 ¥880 )
 ドイツの田舎の田園風景が思い浮かんでくるようなのどがで、素朴な雰囲気が魅力の演奏です。

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(1999年7月)
ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ 変ロ長調 作品24

作曲1861年。
初演 1861年12月7日、ハンブルクにて、クララ・シューマンの独奏によって行われた。
出版1862年。
演奏
時間
約28分。


 バッハのゴールドベルク変奏曲やベートーヴェンのディアベッリ変奏曲を彷彿とさせ、またそれらと並び賞される傑作で、変奏曲の名手ブラームスの多くの変奏曲の中で最も広く知られ、最も充実した内容を持つと言われるのが1861年9月(28歳)にハンブルク郊外のハムで作曲されたこの作品です。ブラームスはこの曲で、豊かな想像力と熟達した変奏技巧でこれまで以上に演奏効果と音楽内容とを完全に調和させることに成功しました。
 この作品はブラームスがウィーンに出る前、ハンブルクでの安定した地位としてこの地のフィルハーモニー協会の指揮者を狙って、そのデモンストレーションも兼ねて考え作られた作品ともいわれています。クララ・シューマンによるハンブルクの初演は大成功でしたが、指揮者の職は得られず、ブラームスは故郷に深い怨みを抱いてウィーンに旅立ちました。
 主題はヘンデルのクラヴィーア組曲第2巻(1733年出版)の第1曲第2楽章「エール」から取られていて、25曲の変奏から終曲のフーガに至るまで、メロディばかりでなく、リズム、動機、和声、性格などのすべての要素が徹底的に変奏され、それぞれに個性的な刻印が押されているのです。例えば、第4変奏はスケルツァンドの性格を持ち、第5、第6変奏は愁いのある短調に転じ、第7、8変奏は打って変わってファンファーレ風の楽想、第13、14変奏はハンガリーの音楽を、第19変奏はフランスのクラヴサン音楽を、第22変奏はミュゼットを想わせるといったきわめて多彩な内容となっています。また第9変奏や第20変奏のように、ほとんど主題の原型をとどめず、きわめて自由闊達に楽想が展開されている変奏もあり、最後は壮大な4声の協奏的フーガで全曲が締め括らています。
 ブラームスは1864年ウィーンに滞在していたワーグナーのもとを訪れました。その時ブラームスはワーグナーの前でこの曲を弾いたのですが、ワーグナーはこれを聴いて「古い形式でも、熟達した作曲家の手にかかると新鮮な姿となるものだ」と賛辞を寄せたのでした。

  主題です。

第1変奏です。

第4変奏です。

第5変奏です。

第7変奏です。

最後のフーガです。

おすすめのCD
ゲルバー(pf)
(デンオン COCO-75959 ¥3,059 )
 音色の多彩な変化と生き生きとしたリズムが魅力的な大変ロマンティックな演奏です。

岡田博美(pf)
(カメラータ30CM-468 ¥3,150 )
 端正な表情と透き通るような美しい音で細部までよく磨かれた構成力豊かな演奏です。

ウゴルスキ(pf)
(グラモフォンPOCG-1999 ¥3,059 )
 あたたかみのある豊かな響きが大変美しい、詩情あふれた演奏です。

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(1999年6月)
 ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト長調 作品78「雨の歌」

作曲1878から1879年。
初演 公開初演は1879年11月8日、ボンにて、ロベルト・ヘックマンのヴァイオリン、マリーエ・ヘックマン=ヘルティヒのピアノによって行われた。
出版1880年。
編成ヴァイオリン、ピアノ。
演奏
時間
約25分。


 6月と言えば梅雨、梅雨と言えば雨、と言うことで今月は「雨の歌のソナタ」と言われているヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調を紹介します。日本の梅雨の雨は、じめじめした、いやになる雨ですが、このヴァイオリン・ソナタの雨は、しっとりとした、愁(うれ)いのある雨と言えるでしょう。この曲は1878年夏と1879年夏とを費やして、南オーストリアのアルプスに囲まれた風光明媚なぺルチャッハで作曲されました。そのため1878年に完成されたヴァイオリン協奏曲ニ長調作品77(1998年6月のおすすめの曲参照)と同様、牧歌的、田園的雰囲気を持った、大変親しみやすい作品となっています。また、1878年4月に初めてイタリア旅行をしたブラームスは、イタリアを大変気に入ったようで、魔法にかけられたような日々を過ごしたと書きしるし、そのイタリアの明るい陽気な印象、情熱的な感情がおりこまれていると言われています(ブラームスは1878年以降1890年を最後に、のべ8回イタリアを訪れています)。さらに、この作品には哀愁のある叙情性が底辺に流れており、その愁いを含んだ雰囲気は、46歳で独り身のブラームス自身の孤独な心境を描き出しているのではないでしょうか。
 この曲は前述のとおり、「雨の歌のソナタ」とか「雨のソナタ」と呼ばれています。それはブラームスの作品59の歌曲の中の第3曲「雨の歌(Regenlied)」の旋律から第3楽章の主題を導きだしているからです。そぼ降る雨の中で少年時代を回想するこの歌曲は、友人のクラウス・グロート(Klaus Groth 1819-99)の詩につけた1873年の作品であり、クララ・シューマンがことのほか愛した作品の一つで、ソナタを完成させた直後の1879年6月末、ブラームスはさっそく楽譜の写しをクララに贈っています。そしてこの「雨の歌」の旋律は第1楽章や第2楽章の主題とも関連を持ち、全曲に「雨の歌」と共通した気分が流れています。とても素敵な歌の大意は次のようなものです。

 雨の歌 作品59の3 (グロート 詩)

雨よ滴をしたたらせて ぼくのあの夢をまた呼び戻せ。
雨水が砂地に泡立った時 幼い日に見たあの夢を!
けだるい夏の蒸し暑さがものうげに 爽やかな涼しさと競い
つやつやした木の葉は露に濡れ 田畠の緑が色濃くなった時。 
何と楽しいことだったことか 川の中に素足で立ったり
草に軽く手で触れたり 両手で泡をすくったりしたことは!
あるいはほてった頬に 冷たい雨の滴をあてたり
新たに立ち昇る香気を吸って
幼い胸をふくらませたりしたことは!
露に濡れたうてなのように また恵みの露にひたり
香気に酔いしれた花のように 幼な心も息づいて開いていた。
ときめく胸の奥深くまで
どの雨の滴もぞくぞくするほど冷やして
創造の神々しい営みは 秘められた生命の中まで浸透した。
雨よ、滴をしたたらせて ぼくの昔の歌を呼び覚ませ
雨足が戸外で音を立てた時 部屋の中でぼくらが歌った歌を!
あの雨の音に快い、しっとりした
雨垂れの音に再び耳をすまし
あどけない幼な心のおののきで
ぼくの魂を静かに潤したいものだが。

 曲は親しみやすい軽快な主題で始まる第1楽章、民謡風の旋律で始まり表情豊かな第2楽章、「雨の歌」の旋律を主題とした優美な第3楽章からなっています。

おすすめのCD
デュメイ(Vn)、ピリス(pf)
(グラモフォンPOCG-1618 ¥3,059 )
 デュメイのヴァイオリンは、あたたかく、柔らかな音色が魅力的で、優美で洗練された美しさを持った演奏です。

クレーメル(Vn)、アファナシエフ(pf)
(グラモフォンPOCG-7134 ¥2,039 )
 クレーメル独自の解釈がとても光った美しい演奏です。ゆったりとしたテンポで弾きこまれ、細やかで繊細な表情が魅力的です。

シェリング(Vn)、ルビンシュタイン(pf)
(RCA BVCC-9349 ¥1,937 )
 シェリングのヴァイオリンは、つややかな音色で、ていねいにしっかりと歌いあげられた、緻密で格調高い演奏です。

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(1999年5月)
 チェロ・ソナタ第1番 ホ短調 作品38

作曲1862から1865年。
初演 公開初演は1871年1月14日、ライプツィヒにて、エミール・ヘーガーのチェロ、カール・ライネッケのピアノによって行われた。
出版1866年。
編成チェロ、ピアノ。
演奏
時間
約26分。


 ブラームスはチェロに大変愛着を感じていたようで、交響曲で重要なパートに使ったり、ピアノ協奏曲第2番第3楽章ではソロを弾かせたりしています。この独特のロマンティックな響きが魅力のチェロのためにブラームスはソナタを2曲残しました。この第1番は1865年(32歳)の夏、ドイツのバーデン・バーデンの近くのリヒテンタールという保養地で完成されました。この曲は声楽の先生で、しかもチェロをよく弾いていた友人のゲンスバッヘルに捧げられました。ゲンスバッヘルはこのチェロ・ソナタの作曲に助言をしたばかりではなく、当時ブラームスが行っていた、シューベルトの未出版の作品を紹介する仕事(この結果、「さすらい人」のような傑作が再び日の光をみるようになった)に協力していました。これらの感謝のしるしとして、この曲を彼に捧げたのでした。
 曲はチェロの低域の深みのある響きを主とした渋い味わいを持っており、思索的で瞑想的な雰囲気と精神的な深さを持った作品となっています。
 静かに心に何か深いものをうったえるような第1主題が印象的な第1楽章、作曲前の1865年2月に亡くなった母(クリスティアーネ)への悲しみが込められ、侘びしさを湛えた第2楽章、バッハに接近した入念なフーガでクライマックスを築く第3楽章からなっており、私は特に、深い味わいを持ち、あたかもブラームス自身が語りかけているような気がする第1楽章が大好きで、聴けば聴くほど、この曲の魅力に取りつかれていくようです。

おすすめのCD
ロストロポーヴッチ(vc)、R.ゼルキン(pf)
(グラモフォンPOCG-1119 ¥2,548 )
 雄大なスケールと繊細でしなやかな表情で、深く沈み込んだブラームスの世界を完璧に描きだした超名演です。

ルザーノフ(vc)、ヴェデルニコフ(pf)
(デンオン COCO-80740 ¥2,345)
(デンオン COCQ-83037〜39 ¥4,725)
 つややかでよく響くチェロの音色で、ブラームスの深い世界を表情豊かにきわめて正確に描いています。

デュ・プレ(vc)、バレンボイム(pf)
(エンジェル TOCE-3143 ¥1,733)
 デュ・プレのロマンティックな歌いまわしが魅力的で、詩情豊かで若々しい演奏です。

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