おすすめの曲


(2001年3月)
 交響曲第1番 ハ短調 作品68

作曲1855年〜76年。
初演 1876年11月4日、カールスルーエにて、オットー・デッソフ指揮カールスルーエ宮廷管弦楽団によって行われた。
出版1877年。
編成フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット2、トロムボーン3、ティンパニ、弦5部。
演奏
時間
約45分。


 ブラームスが交響曲を作曲しようと思いたったのは、1855年、22歳の時に故郷のハンブルクでシューマンの「マンフレッド」序曲を聴いて感激してからだと言われています。「マンフレッド」序曲という作品は、イギリスの詩人バイロンの劇詩「マンフレッド」につけた劇付随音楽の序曲として作曲されたもので、シューマンのオーケストラ曲の中でも最もすぐれたものと言われているだけあって、実に感動的に書かれており、この作品がブラームスの創作意欲をかき立てたという事は、十分に考えられる事です。ブラームスはその後、直ちに交響曲の下書きを数曲作りました。その中の1つは、ピアノ協奏曲第1番第1楽章の骨子に生かされ、さらに1つは、ドイツ・レクイエムの第2曲に使われることになりました。そして1862年に交響曲の第1楽章が書き上げられましたが、その時は現在のゆるやかな序奏部を持っていませんでした。ブラームスが再びその草稿を手にして本格的に作曲し始めたのは、その12年後の1874年で、チューリヒ湖畔のリュシリコンでひと夏を過ごした時でした。しかし、本格的と言っても、一気に書き上げられたわけではなく、文字通り推敲に推敲を重ね、それから2年後の1876年の夏に北ドイツのバルト海に面したリューゲン島のザスニックで大部分が書かれ、9月にバーデン・バーデン近郊のリヒテンタールで完成されました。ブラームス43歳の時に、ようやく完成をみたこの交響曲第1番は、実にプランを立ててから、何と21年という恐ろしく長い年月が費やされたことになります。
 ブラームスがこのように、慎重のうえにも慎重を期して作曲を進めたというのには、石橋を叩いてもなかなか渡ろうとしない、彼の稀に見る慎重で完全主義的な性格からきていることもあるのですが、ブラームスが置かれていた、当時の状況をも考えてみる必要があるでしょう。
 交響曲というのは、元をたどればオペラの序曲などから発展成長してきたもので、モーツァルトやハイドンの時代には、まだ娯楽音楽であるディヴェルティメントやセレナードと、内容的に大差のない軽い作品も書かれていました。それが器楽曲最高の形式として、寸分の隙もない緊密な構成を持った音楽に仕上げられたのは、ベートーヴェンの手によってでした。そして交響曲は、ベートーヴェンによって書き尽くされてしまった観さえありました。だから、ベートーヴェン以後の交響曲の歴史は、いかにベートーヴェンの作品にない味を出すかに苦心した歴史と言えるでしょう。しかし、彼の後から交響曲を書き始めたベルリオーズ、メンデルスゾーン、シューマン、リストなど、いずれも一長一短で、もうひとつ決定打が出ていません。ベートーヴェンを深く信奉して神のように崇めていたブラームスは、「不滅の9曲」などと呼ばれるベートーヴェンの交響曲に匹敵する作品でなければ作曲する意味がないと考えていました。そして、「背後にベートーヴェンという巨人の足音を聞き」ながら、長いあいだ苦しんでようやく産み落とした子供が、この交響曲第1番でした。
 大指揮者のハンス・フォン・ビューローはこの曲を、「第10交響曲」と呼んで絶賛しました。もちろんそれは、ベートーヴェンの不朽の名作「第9番」に続くべき交響曲という意味で、ブラームスこそ、ベートーヴェンの後を継ぐ交響曲作家だ、ということを暗に示したものでした。 確かにこの交響曲はベートーヴェンを意識したものが曲中にみなぎっており、調牲もベートーヴェンの第5番「運命」と同じハ短調であり、第1楽章の短い基本動機の扱い方も、「暗く悲劇的なものから力強い闘争を経て明るい勝利へ」という思想も第5番と同じものとなっています。また、終楽章でのびやかに奏される第1主題は、「第9番」の「歓喜の主題」と感じがよく似ています。しかしながら、この交響曲はまぎれもなくブラームスの交響曲であり、古典派の形式や構築牲を着実にふまえながら、抒情的、内省的で瞑想的な中に、力強い奥深さや重厚さを感じさせる彼独自の特質が溶け合って、見事な響きを導き出しているのです。
 曲は4楽章で構成され、第1楽章と終楽章は長い序奏とソナタ形式の堅固な主部が曲を引き締めています。
 第1楽章 ティンパニとバスの重々しい足取りの上に、木管と弦楽器がそれぞれ分厚い響きで、2つの旋律を奏していく序奏は、聴く人に恐ろしいほどの緊張感を与えるもので、まるで悲劇の始まりを告げる音楽のようです。主部は情熱にあふれた力強い呈示部に始まり、展開部では、激しい闘争と、安らかな平和との対照が、音楽の中で表現されているかのようです。全体的にポリフォニックで緻密な構成とずっしりとした重量感が印象的です。
 第2楽章 ブラームスの最も得意とした、静謐な抒情的な緩徐楽章です。哀愁が秘められた侘びしさが感じられ、その中に、独特の渋い味わいが、気品を伴いながら含まれています。楽章の終わりの方では、ヴァイオリンのソロにより、清らかさと貴高さに満ちたメロディが奏されます。
 第3楽章 ブラームス独特のアレグレットのひなびた曲想を持つ、素朴な音楽が楽しく展開されます。人生のしばしの休息のようです。
 第4楽章 再び厳しい現実がハ短調の序奏で悲劇的に思い出されたあと、ホルンで印象的な旋律が歌われます。このホルンの旋律はアルプスにこだまする羊飼いのラッパの旋律で、1868年、クララの誕生日にブラームスが歌詞をつけて贈った旋律によるものです。このあと曲は、ベートーヴェンの第9の「喜びの歌」と似ている第1主題がおおらかに弦で奏され、曲は壮麗にそして情熱的にクライマックスを築き、感動的なコーダで華麗に結ばれます。
 私自身、初めてこの第1番の交響曲を聴いた時、全体的に渋くて難しく、曲の良さが理解できませんでした。特に第1楽章が複雑で難解の音楽に聞こえました。抒情的な第4番や陽気な第2番の方が親しみやすかったと覚えています。しかしながら、今はこの第1番の第1楽章が最も好きな楽章の1つとなっています。

おすすめのCD
ベーム指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(グラモフォンPOCG-90341 ¥1,200 )
  男性的でストレートな表現、堅固な構成力、重厚な響きが魅力的な、いかにもドイツ的な演奏です。

ワルター指揮コロンビア交響楽団
(ソニー SRCR-2688 ¥1,890)
 ゆったりとしたテンポで抒情的に歌い上げられたとても親しみやすい演奏です。

ザンデルリンク指揮ドレスデン国立管弦楽団
(デンオン COCO-70310 ¥1,260 )
 古典的な構築牲と適度な抒情牲、重厚さも持った、魅力的な演奏です。中低音を中心に楽器のバランスが大変美しいです。

おすすめの曲一覧へ戻る
(2001年2月)
7つの幻想曲 作品116

作曲1891年〜92年。
初演 第1〜3曲は1893年1月30日、ウィーンにて、イグナーツ・ブリュルの独奏によって、第6曲は1893年3月15日、ロンドンにて、イローナ・アイベンシュッツの独奏によって、第7曲は1893年2月18日、ウィーンにて、ベルンハルト・シュターフェンハーゲンの独奏によって行われた。第4、第5曲の初演は不明。
出版1892年。
演奏時間第1曲約2分、第2曲約4分、第3曲約3分、第4曲約6分、第5曲約3分、第6曲約4分、第7曲約2分。


 ブラームスの晩年の一連のピアノ小品の世界は、この幻想曲集から始まります。ブラームスは、1889年から世を去る前年の1896年まで、毎夏をウィーンの西200Kmほどの鉱泉のある保養地バート・イシュルで過ごしました。そこで創作につとめましたが、1890年に弦楽五重奏曲第2番作品111を完成してから、自分の創作力が急に衰えたのを感じ、霊感の乏しい時には1行でも作曲すべきではないという日頃の主張のとおり、これ以後は大曲の創作をやめて、過去の作品の整理や思いついた小品の作曲などをしながら、余生を平和に送りたいと考えるようになりました。この時期に書かれた一連のピアノ小品である作品116から117、118、119までの4つの曲集は、バート・イシュルでの生活の中で、ときどきに起こった感情や霊感を自分のもっとも得意とするピアノで表現したもので、いわば、晩年の音楽的な随想と言え、どれも晩年特有の寂しさや叙情性、侘びしさ、人生の黄昏を感じさせるものとなっています。
 この作品は3曲のカプリッチョ(奇想曲)と4曲のインテルメッツォ(間奏曲)からなっています。カプリッチョは、どちらかというと動きの激しいもので、インテルメッツォは抒情的で内向的な傾向の強い曲となっています。
 第1曲(カプリッチョ) 激しくダイナミックな第1主題が印象的です。第2曲(インテルメッツォ) ブラームス晩年の単純さと親しみやすさへの傾向を示しています。第3曲(カプリッチョ) 情熱を秘めた第1部と荘重で重厚な中間部のコントラストが見事で感動的です。第4曲(インテルメッツォ) 最初ブラームス自身がノクターン(夜想曲)と呼んでいて、晩年の孤独感と諦観をよく示しています。第5曲(インテルメッツォ) 優雅で内省的な曲です。第6曲(インテルメッツォ) コラールのような親しみのある第1部と3連音符が美しい中間部からなっています。第7曲(カプリッチョ) 激しく情熱的な第1部とポリフォニックな美しい中間部からなっています。

おすすめのCD
アファナシエフ(pf)
(デンオンCOCO-78906 ¥3,059 )
 とてもゆったりとしたテンポで、ブラームスの書いた音楽構造をあきらかにしようとした演奏で、幻想的で神秘的な雰囲気を持った美しい演奏です。

グリモー(pf)
(エラート WPCS-4948 ¥2,854 )
 グリモーのしなやかで多彩な音色と澄んだ響きがとても美しい演奏です 。

杉谷昭子(pf)
(フォンテックーFOCD-3232 ¥3,066)
 明るく透明感のある美しい響き、自然で端正な表情が魅力的です。

おすすめの曲一覧へ戻る
Good Familyのホームページへ戻る