例会事業を終えて懇親会の席で、陣内先生にはいろんなお話をしていただいた。お話を聞きながら目を閉じると、まるでヨーロッパを旅しているようであった。
Q.パリの街はどう思われますか?
陣内.パリの街はすばらしいが、あの街は王が築いた街だから面白味に欠けます。たとえば凱旋門から放射状にまっすぐな道が伸びていたり、綿密に設計された町だからです。私は個人的には民衆の力によってできた町のほうが好きです。
Q.それはたとえばどんな街ですか?
陣内.たくさんあるけど、まずはイタリアのベネチアですね。道路はまるで迷路のようになっていて、しかも車が一台もいない。それは運河を利用した水の街なので、街の交通は船によって行なわれているからです。決して便利さだけを追求した計画された街ではないけれど、民衆のパワーが伝わってくるすばらしい街だと思います。
Q.他にもそんな街があるのですか?
陣内.イスラム教の街にはそんな街がけっこうあります。モロッコの街を研究にいった時にもけっこう迷路のような街がありました。ある留学生によると、イスラムの街に比べるとベネチアは2次元だからわかりやすい、イスラムの街は3次元に複雑だと言っていました。これもまた民衆によってつくられた街のようです。
Q.他に、民衆によって作られたすばらしい街はどこですか?
陣内.ベルギー、ブリュッセルのグランパレは、市庁舎とギルド(例:フランダースの犬で有名な肉屋のギルドなど)が集まったところで実に美しい広場です。また、中世の町ブルージュも美しい町のひとつでしょう。ブルージュは中世のヨーロッパで最も栄えた町のひとつでしたが、気候の変化などにより運河が閉ざされ、何世紀にもわたって眠った町でした。しかし最近になって観光の町としてよみがえってきた町です。
Q.スペインはどうですか?
陣内.スペインの街はなんともいえないエネルギーがあります。建物一つ一つに民衆の力を感じます。有名な建築家ガウディ―が、アンダルシアの日差しの下で力を蓄えたことも納得できます。そして、ホワイトビレッジ(白い村)に代表されるように、気候や風土にあった街であるにもかかわらず、その自然なたたずまいが、すばらしい調和と美しさを示している街が多いのも、アンダルシアの特徴でしょう。
Q.イスタンブールはいかがでしょうか?
陣内.以前何かのアンケートで、世界中で最も好きな場所はどこか?という質問があったときに、私はイスタンブールと福岡の中洲と答えました。両方とも屋台が並んでいたり人がたくさんいて、民衆のパワーを強く感じられる街です。また、東洋と西洋の交差点であるイスタンブールはイスラム教とキリスト教の接点でもあり、かつて世界の都であった街でもあり、すばらしいエネルギーを発散させている私の大好きな町のひとつです。
Q.西洋の話が出ましたが、現在のヨーロッパと古代ローマ帝国のつながりについて、先生はどのようにお考えでしょうか?
陣内.現在のヨーロッパが今でも、同じヨーロッパの民としてユーロの統合などを模索できるのは2つの大きな理由があります。そのひとつは同じキリスト教徒であること。カトリック、プロテスタントの違いはあれ、同じ神のもとにひとつになれる可能性をもっています。もうひとつは、ヨーロッパの国々は、古代ギリシャ、古代ローマの時代に同じ国として統一されたことです。古代ギリシャ、そして古代ローマ帝国は、その政治手法や、考え方において今でもアングロサクソンの見本になっています。現代においてもその影響があるほどの古代ローマ帝国は、ヨーロッパを研究する上で非常に大切なキーワードとなっています。
世界中で戦争や経済不況、SARSなど暗いニュースが多い中、ヨーロッパの歴史や建築物から街を考え、将来の明るい未来に夢をはせる、陣内先生のお話にはそんな夢つまっているようでした。
陣内先生のお話の一部を紹介させていただきました。たくさんの楽しいお話、本当にありがとうございました。
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