観光湯
(Kankoyu)



 四国霊場86番札所・志度寺。その歴史の重みと共に歩んだ志度の町に観光湯がある。志度寺から歩いて約3分。狭い路地を行くと古い住宅街の一角にこの観光湯を見つけることができる。
 入口はこぢんまりとしており、見逃してしまいそうだ。入口から暖簾までの5mほどの空間には、ど真ん中に木が生えており、天井が低く、気分的に少々背中を丸めながら通らねばならない。 入浴前の禊である。

 暖簾をくぐるとそこには何とも言えない空気が漂っている。木でできたロッカーはもともとは鮮やかな黄色に塗装されていたと思われるが、長い年月がそれを言いようのないあせた色に変えている。このロッカーの上には、常連客が置いていると見られる洗面器がいくつも乗っかっている。浴室の扉ももちろん木製。こちらは緑に塗装されている。古いマッサージ椅子は、たったの10円で利用できる。設置以来料金を変えていないという。あらゆるものが数十年の使用に耐えたままの姿だ。

 料金の話で言うと、入浴料の安さも特筆しておきたい。香川県の条例では銭湯の入浴料の上限は300円と決まっている。そこで、普通の銭湯は入浴料が自動的に300円になる。ところがこの銭湯は頑固に280円を守りぬいている。ありがたいことだ。

 番台様によると、この観光湯はかつて「永楽湯」という屋号だったそうだ。既に3代にわたって営業されており、ずっと薪焚きだという。もともとお遍路さん(特に野宿組のお遍路さん)の銭湯として利用されてきた。永楽湯の時代には、浴槽・浴室は石貼であったが、観光湯になってタイル貼になったのだという。
 そのタイルであるが、非常に古く、ところどころが欠けていて実に味がある。もちろん清潔に維持されている。特に目を引いたのは、番台様が「もう手に入らない」と言っていた藍色の模様入りのタイルだ。確かに美しい。

 私はこの藍色のタイルを見ながら、遠くシルクロードの彼方にあるウズベキスタン・サマルカンドの遺跡群を思い出していた。 サマルカンドでは、たくさんのイスラム教の神学校の外壁に、こういった藍色のタイルを見事なまでにちりばめている。イスラム教に入浴の習慣があるとは到底思えないが、ひょっとすると銭湯には神が宿るのではないかという大胆な仮定すら、気持ちのよくなった大脳から湧き出してくるのだ。いや少なくとも、入浴は仏教の教えであるからして、イスラム教の神学校と同様、神聖なものであることには違いはあるまい。

 この銭湯に関しては、妻の家族がかつて志度に住んでいた頃に通っていたという話を聞いた。妻が生まれる前の話で、もう37年も昔の話である。当時の観光湯(永楽湯)はかなり新しい銭湯だったというから、今の観光湯は当時のままということになるのだろうか。その銭湯に私が今日入浴した。これは偶然なのか、運命なのか。赤ん坊の頃この銭湯に入ったという義兄にも是非行って欲しいと思った。きっと、義兄が一緒に入ったはずの義父の「におい」がするであろう。

 ちなみに、脱衣室のロッカーは約30個。脱衣室には石鹸の販売はあるが、ジュース類の販売はなし。銭湯でしか手に入らないという「花嫁」銘柄の石鹸(牛乳石鹸製)が105円で販売されている。
 浴室カランは6箇所。シャワーブースはなし。サウナはなし。カランの湯、浴槽の湯はかなり熱い。そして浴槽はかなり深い。その他、側溝の蓋はステンレス鋼板ではなく銅板となっており、これまた実に味がある。

入浴料:大人(12歳以上)280円、中人(6歳以上12歳未満)110円、6歳未満60円

※所在地は伏せて欲しいというご要望のため住所については記載していません。ご了承ください。


住所 入浴料 サウナ TV 営業時間 定休日
- 280円 × × 16:00〜22:00 水曜日

取材:銭湯愛好会高松支部・東京支部(合同取材)
取材日:2004年8月10日



 
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