金春湯
(Konparuyu)



 東京のあの銀座に銭湯がある? あのおしゃれな町・銀座に、下町の象徴である銭湯がある?
 信じられない人も多いことだろう。しかし、である。過去に銀座には多数の銭湯があったし、現在でも何とか2軒の銭湯が営業しているのだ。銀座湯とこの金春湯の2軒である。

 でもなぜ銀座に銭湯が?
 何のことはない。銀座は江戸時代、「銀座」という名の銀貨を鋳造する役所があったに過ぎず、町の名前が銀座になったのは1869年になってからの話である。銀座は下町と山の手の中間のような性格の町であったので、銭湯があるのも十分にうなづける。

 この銭湯、「金春湯」と書いて「こんぱるゆ」と読む。なーんだ、この銭湯のご主人は銀座に店を構えて、相当はコンパ好きだなー。と思いきや、これはとんでもない誤解だった。
 江戸時代、幕府直属の能役者である金春氏の屋敷があったことから、この名前が付いたのである。誠に失礼。しかし、である。銀座でコンパをやる時は、ぜひコンパの前、あるいは、コンパの後に、皆で入浴すべし、と思うのである。えっ?そんなバカなって?いいえ、決してバカなことではありません。
 金春湯は、小さな鉄筋コンクリート造のビルの1階にある。入口の暖簾をくぐると自動販売機が並んでいる通路になっている。これを通り過ぎて左に曲がると、下駄箱。下駄箱の向かい側が入口で、左が女湯、男湯は右側である。中に入ると番台がある。

 さて、この金春湯の番台様「取材お断り!」「番台の撮影お断り!」ときた。取材が頻繁に来るようで、「もう取材はうんざり。」といった感じなのだ。しかし、番台以外の撮影は許可をもらった。また、浴室の壁画についても解説をしてくれた。感謝。
 その壁画であるが大変美しい。1枚目は12匹の鯉の絵。よく近くで見ると、タイルに凹凸があり、うろこの部分をきちんと表現しているように見えた。つまり、精細に、しかも計算高く、描かれているということである。この12匹の鯉の意味であるが、「1年12ヶ月、いつでも金春湯にやって来い(鯉)!」という願いを込めているのだという。もう1枚の壁画は春秋花鳥を表しているらしい。春の桜と秋の菊が美しく描かれている。

 ロッカーは54個、カランは18個、浴槽は2箇所で深い。本日の浴槽はジャスミンの薬湯。その浴槽は片方が「ぬるい」、もう片方が「熱い」となっている。しかし、である。ぬるい方の浴槽の湯温は41.5℃。全然ぬるくないのである。しかも、熱い方の浴槽は当然さらに熱い。やはり東京の銭湯の湯温は関西の銭湯の湯温よりも熱いということが証明された。
 でもなぜ? これは謎である。
 東京の人間はみな忙しいから、短時間でもいい気分になれる熱い湯を好むのか?それとも、銭湯側が、お客に長湯されてはいやだからわざと熱くしているのか? 謎は深まるばかりである。熱い「ぬるい」浴槽に入りながら、頭がボーとしてきてしまった。

 洗面器は黄色いケロリンではなく、同じ材質同じデザインの黄色い「モモテツ」。
 モモテツとは、「旅行・物件・双六」が専門なのだそうだ。いったい何の商売をしている会社なのか?よく調べてみると、ゲームメーカーのハドソンが販売する「桃太郎電鉄」という名前のゲームのことらしい。「銭湯にケロリン桶」という時代から「銭湯にモモテツ桶」という時代に変わっていくのだろうか?なんとなく不安である。

 さすがに銀座だけあって、金春湯の客層はスーツ姿の人が多い。私はこの銭湯の魅力は、大都会東京の中心地銀座にあって、のんびりと入浴できることにあるのではないかと思う。私はかつて、カプセルホテル付のサウナ浴場というものを訪れたことがあった。まるで地獄の芋洗い場のような殺伐とした光景で、二度と来るものかと思った。それに比べればここはオアシスではないか。ゆっくりと足を伸ばして、リラックスした時間を過ごせる。

 番台様のご主人は現在入院中なのだという。早く元気になっていただき、番台に戻って来ていただきたいと思う。


住所 入浴料 サウナ TV 営業時間 定休日
中央区銀座8-7-5 400円 × × 14:00〜24:00
(土曜日 14:00〜23:00)
日曜日・祝日

取材:銭湯愛好会東京支部
取材日:2004年8月18日(水)



 
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