小坂温泉
(Kosaka onsen)



 のれんをくぐり番台へ。

 その番台で真っ先に目に飛び込んできたのは、初めて目にする機械だった。一見して年季を感じさせるその古めかしい機械には「自動給湯装置」の銘板が貼られている。番台に居ながらにして浴槽のお湯加減を自動でコントロールする機械のようだ。
 番台に座る「はにかんだ笑顔」が魅力のおばちゃんに尋ねると、まだ、立派にこの装置は動いてるそうだ。何と恐るべし。
 動揺を抑えつつ脱衣所に足を踏み入れる。そこでも刻み込まれた歴史を体中に感じる。天井吊りの照明、扇風機、肩たたき機、備え付けのドライヤー、量り。しっかりとそれぞれの存在を誇示している。また、近年導入されたであろうぶらさがり健康器と後付けの電気サウナも脱衣所内に設けられていた。

 サウナは定員2〜3名までといった広さであろうか。こじんまりとした室内に腰を下ろすと妙に落ち着く。

 浴槽内は小ピースのタイルで装飾された昔ながらの銭湯である。中央には仕切りのあるメイン浴槽がある。奥にはバスクリン風呂と水風呂があり、水風呂には常時冷たい水道水が注がれているのがいい。ここを占拠すると、浴室、ガラス戸を隔てた脱衣所、さらには入り口の番台まで全てを見渡すことができる。この水風呂は一番奥の隅に位置し、定員1名のロイヤルポジションである。

 そして、小坂温泉の魅力は何と行っても、暖かな下町情緒の溢れる雰囲気であろう。入浴客は全て顔見知りのようだ。ポンポンとフレンドリーな会話が飛び交う。番台のおばちゃんは、お客さんのことを全てわかってるようだ。

 サウナを3ラウンドこなしたあと、脱衣所の扇風機で涼んでいると、反対の女性側から声がした。

「おばちゃん、ちょっと来てみいや」「ちょっと今行けん」「何しとるんや。ええから早よ、来てみんかいの。ええもん見せたるけん」
 そこで、やっと番台に座っていたおばちゃんが女性の脱衣所に入っていった。つまりおばちゃんとは番台のおばちゃんのことであったのが理解できた。話は続く。「これ生協で買ったんや。ええやろ。着心地もええし。おばちゃんもどうや」

それを聞いた私はもう嬉しくてたまらなかった。

 風呂上りに番台のおばちゃんと話した。「いつからやりよん?」

 今の鉄筋に建て替えて24年。以前は木造で15年。つまり40年近くの歴史を刻んだ銭湯であることがわかった。しかし、後継者が続かないとも話してくれた。これには同調する。高松でもこの1年の間に2件の銭湯が店を畳んだ。我々銭湯愛好会にとってもつらい話である。

 のれんをくぐり外に出ると、夏の夜風が気持ちいい。番台のおばちゃんも外まで出て見送ってくれた。帰り際、「おばちゃん、元気でずっとがんばりや!」と声を掛け、また来ることを約束した。フォーエバー「小坂温泉」。

(番台にある自動給湯装置)


住所 入浴料 サウナ TV 営業時間 定休日
小坂3-5-18  300円 × 15:00〜22:30 7,17,27日

取材:銭湯愛好会



 
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