越の湯
(Koshinoyu)



 東京の人間の考えることは関西人の私には理解できないことがある。例えば、関西で「丸ビル」と言えば、あの梅田にある煙突のような丸いビルのことである。しかし、東京で「丸ビル」と言えば、丸の内にある三菱地所のビルのことである。丸の内にあるから略して丸ビル。ぜんぜん丸くないけど丸ビル。

 今回紹介する越の湯がある地名「麻布十番」も奇妙な名前だ。十番があるのだから、少なくとも一番から九番までは近くにあるのだろうと思っても、そんな地名はどこにもない。ある説によると、江戸時代に古川の改修工事を行い、ここは河口から十番目の工区だったから十番という地名になったという。しかし、なぜ一番から九番は地名が残らなかったのか。当時、一番工区から九番工区には町がなかったのか。
 さらに、「麻布」という地名自体も実に奇妙な名前だ。ある説によると、このあたりで昔から、麻の布を作っていたからだという。麻布十番は元来、善福寺の門前町として栄えてきた。善福寺以外にも多数の寺院や、神社、教会がある。麻布は非常に古い町で、お隣の六本木とは比べ物にならない長い歴史を持つ。
 幕末にアメリカが善福寺に公使館を置いたことから、この町の国際化が始まった。今では麻布一帯にオーストリア、パキスタン、韓国、フィリピン、シンガポール、中国、オーストラリアなど数十の大使館がひしめき合い、そこらじゅうに外国人が闊歩している町になった。
 一時は六本木に客足が遠のいてしまった古びた十番商店街に、近年地下鉄が2路線(南北線、大江戸線)も通るようになり、商店街は改装され、真新しい石畳に人通りが戻り、状況は一変した。

 越の湯は、この十番商店街の中で若干西の方にあり、オーストリア大使館とは目と鼻の先にある。越の湯は、かなり古い鉄筋コンクリート造の建物の1階に入居しており、3階には十番温泉があり、ともにこの地域の方々の憩いの場所になっている。
 そうなのである。越の湯は銭湯でありながら、温泉なのである。東京都浴場組合HPによると、東京都内には1,091箇所もの銭湯があり、そのうちわずかに36箇所が温泉であるという。数少ない希少な温泉の銭湯がここ越の湯である。
 越の湯の湯は一見すると、どす黒いコカコーラのようなものである。地下500mから汲み上げられ、「重曹泉」を標榜する。適応症は、ヒステリー、リウマチ、神経症などである。

 番台は男女両方の脱衣室ににらみを利かせる位置にある。
 番台様曰く「館内撮影禁止!」ときた。せっかくやってきたのに撮影禁止とは、、、。
 しかし、拝み倒して番台様の撮影だけは許可をもらった。それにしてもその番台様の写真、かなり写りが良ろしいようで。感謝。
 脱衣室には約60人分のロッカーと、石鹸等の販売、ドライヤー、飲み物の自販機がある。20円硬貨を投入すれば動くらしい直角の骨董級のマッサージ椅子が堂々と座っている。

 浴室は大変古い。タイルの古さは大変なものであるが、大切に、そして清潔に維持されている。この労力たるや大変なものだろうと推察する。敬意。
 壁画はタイル1枚1枚に丁寧に描かれていると見た。カランは約25箇所。浴槽湯温表示は38℃。しかし、かなり熱く感じる。43〜45℃くらいだろうか。とても長湯はできない。この真っ黒の湯にずっと浸かっていたいという気持ちを恨めしく感じながら、越の湯を後にした。 尚、越の湯にはサウナはない。
 ちなみに3階にある十番温泉は、越の湯とは入口が別であり、料金も全く別になっているが、基本的には同じ温泉を使っている模様である。

(番台様、写真撮影ビシッと決めていただきました。ありがとうございます。)


麻布十番温泉(3階)
所在地:東京都港区麻布十番1-5-22
電話:03-3404-2610
営業時間:11:00〜21:00
定休日:火曜日
入浴料:大人1,260円、小人630円(18:00以降は大人940円、小人410円)


住所 入浴料 サウナ TV 営業時間 定休日
港区麻布十番1-5-22 400円 × × 15:00〜24:00 火曜日
(祝日の場合は翌日)

取材:銭湯愛好会東京支部
取材日:2004年7月23日(金)



 
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