水車風呂
(Suisyaburo)



 瀬戸内海に臨む城下町、”いで湯と城と文化の町”松山の北西部山越町にあるのがこの「水車風呂」。
 世間が年末のあわただしさに忙殺されている時に、ここはゆったり時間が過ぎている。
 平成9年5月1日に県知事が指定した、湯銭300円を番台に置こうとすると番台のおばあちゃんが、”いらっしゃい”と声をかけてくれる。

 番台に目を向けると、とてもそこに似つかぬアナログメーターがある、赤いランプも光っていて、さながら飛行機のコックピットだ。浴槽の湯温と水量を制御しているのだ。
 しかし、番台のおばあちゃんは、そんなものには目もむけやしない。番台に座って目を向けるものといえば、もちろん小型テレビ、私が暖簾をくぐった時は、わかる人ぞわかる昔の人気番組「キイハンター」丹波哲郎などが、滑走路の上をさっそうと歩いている。

 わたしもさっそうと靴を下駄箱にいれて、脱衣場に進むと左に脱衣箱、右壁にサウナが置かれている。
 サウナの室温は80度、4人が定員だろう。人が出入りすると空気も一緒に入れ替わってしまう。すこし温度が物足りないが、300円でこの不景気な時代にこれだけのサービスはありがたい。

 浴室の中は、中心に大きな浴槽、左隅に水風呂、右隅に電気風呂の配置だ。
 浴槽に首までつかり外窓をみると、湯煙に周りが曇りいい趣だ。もちろんこの時間には照明など点いていない。光のコントラストと湯煙のバランスが最高だ。湯温も最高だ。さすがは番台から制御しているだけある。

 ここの営業は通常21時30分まで、大晦日は9時までだ。9時から少し片付けをして紅白でも見るのだろう。正月三が日はお休み、4日から営業開始だ。

 帰るときおばあちゃんに尋ねてみた。水車風呂の由来を。
 最初おばあちゃんは困ったような顔をしていたが、頭の片隅にあった思い出がよみがえったようだ。

 おばあちゃ曰く、”主人の実家が砥部焼きで有名な砥部町で、砥部焼きの材料の土を作っていたそうだ。その土を砕くのに、水車を用いて加工していたと、そんなことから主人が水車風呂とつけたのではないか・・・”とおばあちゃんにも本当のことはわからないようだ。いまさら本当のことを知ってもどうもならないあまり関係ないことなのだろう。

 刹那的な気持ちになり、聞かなかったほうがよかったのだろうかと少し悔やんだが、おばあちゃんの”また来てね”の声に風呂上りの爽快な気持ちになった。

 年末にこの水車風呂で経験できた、過去から現在そして未来を感じる小旅行、水車風呂にはスーパー銭湯にない、何かがある。
 


住所 入浴料 サウナ TV 営業時間 定休日
山越一丁目11-8 300円 × 15:30〜21:30 水曜日

取材:銭湯愛好会



 
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