心房細動の治療
心房細動の概要
今、高齢者社会を迎え、心房細動(しんぼうさいどう)という不整脈が問題となっています。心房細動は上の心電図にもありますように脈が全く不規則に出る不整脈の一種です。

肺から心臓に戻る肺静脈の一部から異常な電気信号が出て、心房内で旋回し、不規則な心房の興奮を起こすのが原因と言われています。

発作が時々起こり、7日以内に自然に止まるものを「発作性心房細動」7日以上続くものを「持続性心房細動」ずっと続いて正常な状態にならないものを「永続性心房細動」と言います。
この不整脈になりますと心臓がドキドキしたり、息苦しくなったりします。めまいや胸痛を訴えることもあります。

慢性になるとほとんど自覚症状を訴える事が無くなることも珍しくありません。

知らず知らずのうちになっていることもあります。
心房細動の原因・頻度
心房細動の原因は高血圧、心不全、心臓弁膜症、狭心症、甲状腺機能亢進症などがあり、それに加齢、ストレス、喫煙、肥満、アルコールなどが原因と言われています。

その中でも一番の原因は高血圧と加齢です。

年齢も60才を超えると新規発症が増えてきます。

40才台の人は4人に1人が将来何らかの心房細動をおこすリスクがあると考えられています。

心房細動の問題点

心房細動が続くと心臓から血液が正常な状態で拍手されず心房内で血液がよどんで血栓ができやすくなってきます。

左心房内に血栓ができ、突然脳に運ばれて脳血管につまり脳梗塞を起こすことがあります。これが心源性脳塞栓症です。

実はまれな疾患ではなく、日本人の脳梗塞症の3割近くが心源性脳塞栓症だと考えられています。

左心房で形成された血栓は多くの場合中大脳動脈という太い脳血管につまり、脳に広範な障害を引き起こし重篤な脳梗塞を起こしてきます。

片麻痺、や言葉の障害、あるいは死に至ることも珍しくありません。一命を取り留めても寝たきりになったり、社会復帰が難しくなることもあります。

そこで発作性心房細動に対しては発作を起こらないようにする治療も考えられてきました。薬物やカテーテルアブレ−ションという治療です。

カテーテルアブレ−ションは心臓や肺動脈の内部をカテーテルを通して焼く治療です。施設によってはかなりな治療効果を上げています。

永続性心房細動の場合はこの治療は困難です。そこで血栓を作らないようにする治療が必要になってきます。

心房細動の抗血栓療法
心房内に血栓を作らないようにする抗血栓療法はいわゆる「血液をサラサラさせる」治療法です。

どんな人がこの治療をする必要があるのでしょうか?その基準を決めるために「CHADS2スコア」というものが提唱されてきました。
項目 点数
C Congestive heart failure 心不全 1
H Hypertension 高血圧症 1
A Age>75y 年齢75才以上 1
D Diabetes Mellitus 糖尿病の合併 1
S Stroke/TIA 脳梗塞・脳虚血発作の既往 2

この基準で2点以上になる人は積極的に抗血栓療法を受けたた方がよいとされています。

しかし、この基準のみでも不十分で、1点でも治療を受けるべきだという考えもあります。


心房細動患者さんの抗血栓療法はワーファリンという抗凝固薬を用いて治療しています。ビタミンKによる凝固系の一部を抑制する治療法です。

治療の薬物量を決めるために凝固能(INR)を測ります。通常はINR2.0〜3.0(高齢者は1.6〜2.6)に調整します。

当科でも使用している左の写真のような機械で計測します。

血液の検査なので手間が掛かります。また、ワーファリン服用者はビタミンKを多く含む食物(納豆、黄緑色野菜など)を控える必要があります。

最近はワーファリンに替わる抗凝固剤が使用できるようになりました。ダビガトラン(商品名プラザキサ)、リバーロキサバン(商品名イグザレルト)、アビキサバンなどというお薬で、NOAC(ノアック)と呼ばれています。


このお薬を使うとワーファリンと同等あるいはそれ以上の血栓予防効果が証明されています。また、脳出血などの副作用もワーファリンと比較して少ないとされています。

また、血液を採取してINRを測る必要がありません。食事の制限もありません。

現在のところお薬代が高いのと、ある程度以上腎臓の悪い人には使いにくいという難点はありますが、将来的にはこのようなお薬に替わってくるだろうと考えられます。

弁膜症による心房細動や他の病気でワーファリンを使っている人は対象になりません。従来通りワーファリンで治療することになります。

参考・引用
心房細動治療ガイドライン2008 合同研究班産科学会編
「プラザキサを使用される患者さんへ」Boehringer Ingelheim社