外科医のトレーニング
静かな湖面
「手術ってさぞ大変でしょうね。」と人からよくいわれる。
テレビの中の外科医をみていると、確かに大変だ。
まわりのスタッフをどなりちらしながら、大急ぎで、危機に陥った患者を助ける。
たしかに、大出血とか、心臓が今にも止まりそうなときには、そういうことになる。
一刻を争う緊急手術の場合だ。
しかし、普通の計画された手術では、そうはならない。
手術室は、とても静かだ。
予定した手順に従って、スムーズに手術は進んでゆく。
怒鳴ることもなければ、まわりのスタッフが走り回ることもない。
緊急の事態が起こらない限り、テレビのような場面にはならないのだ。
緊急な事態とは、計画外の突発的なことが起こるときだから、むしろ、そういった状況にする外科医は下手とされる。
なぜなら、慎重に、正確に行われる手術は、急に大量の出血をすることもなければ、計画外の突発的な事態に陥ることもないからである。
術者はむやみに怒らないのが望ましい。
術者は、オーケストラにおける指揮者、軍隊における司令官とおなじだから、彼がまわりのスタッフにおよぼす影響は非常に大きい。
術者が不安にかられると、手術室全体が不安に陥る。
術者が怒ると、まわりは騒然となる。まわりのスタッフから、平常心を奪ってしまうのだ。
したがって、術者はつねに「平静の心」をもって、手術を進めることが重要である。
「静かな湖面」のような手術ができることが、理想である。