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vol.6 インクの匂い
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| 三十歳になる前、本を出そうと思い立った。せっかく書いた小説を自分の手元で眠らせておくよりは、本という形にして誰かに読んでもらいたい。ただそれだけの思いからだったが、この出版が「原点」と出合うきっかけになった。 町役場の職員が趣味で書いてきた小説を本にした。さして珍しくもない話題が、ありがたいことに新聞で大きく取り上げられ、この記事を見た「原点」の当時の発行所の方から職場に電話があった。松山を拠点に活動している文芸同人誌なので、一緒に勉強をしてみないかというお誘いだった。 ずっと自己流で書いてきた私は、同人誌に所属して勉強しようなどとは考えたこともなく、最初は丁重にお断りをした。仕事と育児に追われる日々の中、書きたいとき、書けるときに書くというスタイルを保ってきた。今さら組織に縛られるのは正直面 倒だと思った。 しかし、あまりに熱心に誘ってくださるので、とりあえず同人誌を送ってもらうことにした。本を読んでみて、気が向いたら合評会にも参加してほしいとのことだった。 後日郵送されてきた茶封筒にはA5判の素朴な作りの冊子が入っていた。ページをめくると、懐かしいインクの匂いがした。それは高校の文芸部で年に一度発行していた部誌と同じ匂いだった。 文芸部は最初、先輩が二人だけの今にもつぶれそうな部だったが、私は迷わず入部した。同じ志を持つ人がいる、やりたいことをやれる。私にとっては夢の組織だった。まだワープロも普及していなかった当時の、自分の書いたものが初めて活字になったときのあの喜び、満足感。その思いを呼び起こす懐かしい匂いが「原点」にもあった。 あれから六年。四十年の歴史を持つ「原点」の中では私はまだまだ新参の未熟者だ。苦労して書いたものに厳しい評価をいただくこともあるが、その分誉められると嬉しい。一人では見えなかったことに気付き、前進したと思える。仲間がいる。そのことは何より大きな原動力となって、書く私を支えている。 |
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(愛媛新聞「四季録」2004年11月11日掲載)
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<画像>ヒガンバナ
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