vol.10 ジャコの話
 ジャコといっても、じゃこてんのことではない。上浮穴地方でこの時季よく見られる茶色いカメムシの通 称だ。正式にはクサギカメムシという。
  越冬のため民家に入り込み、危険を感じると容赦なく悪臭を放つ困った虫だ。洗濯物に隠れていることも多い。この小さな侵入者はくさいだけで無害だと思われがちだが侮れない。私はかつてひどい目に遭ったことがある。
 その夜、眠っていた私は強烈な悪臭と右目の激痛で飛び起きた。すでに姿はなかったが、どうやらジャコの出した分泌液が目に入ったらしかった。目を洗い、数日前に夫が病院でもらっていた結膜炎の薬をさすと、少し痛みがやわらいだ。翌日、普段どおり仕事に行ったものの、まだ痛みが残っていたので早退して病院に行くことにした。
 町内には眼科がないため、松山市内の病院に行ったが、「え、目の中に虫が入ったの? 目から虫が出てきたの?」と話が噛み合わない。そういえば、学生時代に暮らした松山では冬になってもジャコを見かけることはなかった。松山の人は、ジャコになじみが薄いようだ。結局、悩んだ末に先生が出してくれたのは、前夜に使った夫の薬と同じものだった。
 目の痛みは二日ほどで治り、改めて鏡を見てみると、目の下に茶色いやけどのようなシミができていた。ジャコの分泌液は皮膚の弱い人につくとやけどのような状態になるらしい。今度はかかりつけの先生に診てもらった。薬をつけなくても、日焼けの皮膚がむけるように自然に取れるだろうと言われたが、数日後、本当につるりとはがれた。  さらに衝撃的な体験をした人もいる。食べかけで封をしていた甘納豆の袋を開け、一つかみして口へ入れたところ、やけどのような刺激と猛烈な悪臭に見舞われたそうだ(お食事中の方、ごめんなさい)。
 ジャコを退治する方法について面河山岳博物館学芸員の矢野さんに聞いたことがあるが、「ありません」ときっぱり。そして「排除することより、共に生きていくことを考えましょう」と言われた。この冬もジャコとの共生は続く。  
(愛媛新聞「四季録」2004年12月9日掲載)
<画像>カマキリ(ジャコを載せるのは遠慮しました)

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