カラオケ

地 軸 2004.10.03(日)  カラオケ

 アメリカの科学雑誌が主宰する「イグ・ノーベル賞」(愚かなノーベル賞)に、カラオケを考案したことで知られる井上大佑さん(兵庫県西宮市在住)が選ばれた▲ イグ・ノーベル賞は、独創性とユーモアのある研究や開発に毎年、贈られている。井上さんに与えられたのは平和賞で、その理由がなんともふるっている。「人々が互いに辛抱しあい、寛容になることを学ぶ、全く新しい手段を提供した」とある▲
 なるほど、これが「カラオケ社会学」なのだろう。マイクを手にする人たちの、とりとめもない姿がつい目に浮かぶ。自分一人で盛り上がってしまう人がいれば、申し訳程度にマイクを握る人もいる。そこでは、だれもが少しずつ辛抱しあっているのかもしれない▲ 井上さんが開発したカラオケは、いまや世界じゅうに広がっている。その歌われ方は国によってさまざまで、一様ではないようだ。欧米はみんなで歌う「合唱型」が専らというから、雰囲気が想像しにくい。日本で主流の「自己陶酔型」について、ジャーナリストの大竹昭子さんが興味引く分析を行っている▲ 「聴くほうは、歌う相手の姿に昼間には見られないほころびを見出し、同じ人間としての共感を抱く。それは、人間の弱さの承認であり、見せ合うことがもたらす安堵(あんど)である。陶酔型カラオケを支えているのは、許し合いの感情だろう」(「カラオケ、海を渡る」筑摩書房)▲ たかがカラオケ、されどカラオケ。一夜の座興であっても、その奥は結構深いのである。
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