魅力ある授業

平成15年9月6日(土)愛媛新聞地軸より

 中学一年のとき、大学を出たばかりの数学の先生がいた。授業が難しすぎて、チンプンカンプン。生徒から苦情が出て、その先生は一年で辞めてしまった▲ 先生は一生懸命だったのだろうが、初めてXやYを学ぶ生徒には合わなかった。今風にいえばミスマッチである。それと事情は違うが、上浦町で開かれたふるさと大学「伊予塾」で、子規記念博物館の天野祐吉館長が興味深い話をしている▲ ある高校の日本史の授業で、先生が鎧(よろい)を着て関ケ原の合戦の説明をした。「こんな重い鎧を着て長時間戦えるはずがない。休み休み戦ったに違いない」。生徒も鎧を着て「歴史」を実感したという▲ 実にいい授業だと思う。通り一遍の説明をして「関ケ原の合戦は1600年。覚えておけよ」では、味も素っ気もない。生徒はすぐ忘れるだろう。鎧を着た生徒は「関ケ原」と聞くたびに、ズシリとした重さを追体験し、年号もしっかり思い出すに違いない▲ところが、PTAの反応は違った。「関ケ原の説明で一時間も使うのはもったいない」という猛抗議があり、先生はやがて異動になったそうだ。授業のせいで異動したのかどうかは不明だが、つくづく教育とは難しいものだ▲ 余談ばかりでは困る、という気持ちも分からないではない。しかし、そもそも暗記偏重の詰め込み教育が「歴史嫌い」や「理科嫌い」を生み出してきたのではなかったか。生き生きとした授業こそが生徒を魅了し、学習意欲を引き出す。遠回りのようでも、結局は近道なのだ。
 話の種に戻る