しつけ

 

平成12年5月3日 愛媛新聞「地軸」より

 スーパーの店内でで、懐かしい光景に出合った。三歳くらいの女児が、駄々をこねている。床にべったり座りこみ、まるで顔じゅうを口にして。ワゴンに山盛り積み上げたお菓子の誘惑に負けたのだろう。が、母親は「今日は買わない約束でしょ」。ビシッと言い残して足早に遠ざかった▲母と子の根比べを見かねた女性客がなだめにかかる。「知らないおじさんが変な目で見てるよ。さあ、早くママの所へ行こうね」−。不意に悪者に仕立て上げられたのは心外だけど、その場の結末がすがすがしい。母親は、未練で泣きじゃくる幼い肩を人目も気にせず抱きしめた。我慢したわが子の耳にささやくほめ言葉の温かさが後ろ姿にしのばれる▲親にねだって泣きわめく場面なんて、近ごろめったに見かけなくなった。子どもを不幸にする確かな方法は、欲しがるままに与えることだといわれても、物があふれる中では我慢を教える意欲もかき消されるのか。むしろ、何不自由なく育てたことに胸を張る親が少なくない▲厳格なしつけで知られた英国も、かかえる悩みは日本と大差ないのだろう。今では子どもたちの規律が乱れ、学校の教室も騒々しい。だから世論調査では父母の半数あまりが往年の「ムチ打ち」などの体罰復活を望んでいるという▲しっけを押しつけられかねない学校側は、「子どもが規律を守れない責任の多くは、教師よりも父母にある」と手厳しい。十年来禁止してきたムチを今さら復活する気も起こるまい。父母が求めるムチは逆にピシッと打ち返された▲この連休、子どもがまた一段と甘やかされそう。親はアメだけでなくムチの与え方が試される。
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