巨大タンカー

 

                            愛媛新聞 地 軸 2004.06.22(火)  

 進水前の超大型タンカーを間近で見学できるというので、今治造船西条工場へ足を運んだ。現代のハイテクと昔ながらの膨大な人手による作業の集大成。それでこうも巨大な物体を造りあげられるのかと感心した▲ 巨体は30万トン。国内最大級という。見学者の波に乗ってドックの底へ下りてみた。腹をあらわにした鉄の塊が、はるか頭上を覆っている。スクリューだけで直径10メートルを超える。それすら船体と比べると小さく見える▲ 見学者は約15,000人。模擬店も出て、さながら祭りのにぎわいである。人込みを見守りながら造船工さんたちが汗みずくでガイドを務めていた。「組み立てに約3カ月、船体ブロックの製造からだと半年です」―質問にてきぱきと答える日焼けした顔は、大きな仕事への誇りをたたえていた▲ 「若い人はものづくりに汗するのを嫌う。造船業は3K職場といわれるが、実力を知ってほしい」。見学会を企画した会社側の願いである。重厚長大型の地場産業が市民との接点を求めるのには、業界の切実な事情がある▲ この就職難でも、造船の希望者は少ない。「きつい」などのイメージや、好不況の波が激しいことが理由かもしれない。高齢化した熟練工の技の継承も緊急課題だ。このため今治地方の業界を中心に、人材の確保や育成をする機関の創設を検討している▲ お披露目を終えたタンカーはきのう進水した。ドックに海水を張り、巨体がじわりと浮かぶ。ものづくりに汗した人たちの静かな高揚感を想像してみる。
 話の種に戻る