体と水の話 〜健康を保つために〜


かの文豪・夏目漱石も、晩年は持病の胃潰瘍をはじめ、糖尿病や神経痛などにも悩まされていたそうです。その漱石が病床において胸を開け、「早くここに水をぶっかけてくれ。死ぬと困るから」と訴えたことがあったそうです。その苦しみは尋常のものではなかったことが想像でき、とても気の毒に思ったのですが、一方で人間と水との関係を再認識した次第です。

命を維持して行く上で不可欠な一方、洗う・運ぶ・作るなど他方面でも大活躍の水。人間の生活とは切っても切れない関係があるようです。今回は、とくに人体における水分の不足について、情報をピックアップしてみました。


体内の水が不足するとどうなるの?

体内の水が不足してくると、肌・くちびる・舌が乾燥し、わきの下も乾いてきます。尿の色が濃くなり、量も減ります。この状態が進むと、意識がもうろうとしたり、錯乱状態になったり、うわごとを言ったりするようになります。さらには血液の循環が悪くなるため、脳梗塞などが起こりやすくなります。赤ちゃんの脱水症では、かつては死亡するケースも見られました。


健康維持に必要な水分量は?

それでは、健康を維持して行くためには、日々どれほどの水が必要でしょうか。「健康と料理社」発行の「水の救急箱」によると、健康な成人で1日約2L。食べない・尿も便も汗も出ないという条件下でも1日約1Lの水が出て行くそうです。なお、スポーツや発熱での多量の発汗・嘔吐・下痢が起これば、これらで失われた水分を追加で補う必要があります。汗の出やすい時期には、仮に何もしなくても多めにとらなければなりません。


補給方法は?

1日3回きちんと食事をとっていると、主食・おかず・汁物から約1Lの水が補給されます。普段の生活では、残りの1Lを食事以外でとればいいことになります。たとえば、朝起きてコップ1杯・食事ごとに1杯・ティータイムに1杯程度で、通常は足りる計算になります。

注意しないといけないのは発汗・嘔吐・下痢のときの対応。作業やスポーツなどで汗をたくさんかいたときには、汗の成分に近いスポーツドリンクでの補給が適しています。水分の吸収率も水だけのときより良くなります。最近はスポーツの試合中に水分を補給しているシーンをしばしば見ますが、この行為は、体にはとても優しい、理にかなったものと言えます。

嘔吐や下痢になると、一緒にナトリウムやカリウムといったミネラル分も多く失われますので、経口補水液という塩分濃度の高い水が効果的です。嘔吐や下痢が少し落ち着いたところで、少しづつ何回にも分けて補給しましょう。PETボトル入り水溶液やゼリーになったものが市販されているようです。水や白湯では、嘔吐・下痢があるときには吸収が悪く、水分補給には適していませんし、ミネラル分の補給もできません。

症状が激しいときには医療機関での点滴治療によるのが最善です。

補足

脳梗塞は脳の血管が詰まる病気ですが、夏場に多く発生しています。詰まった先には酸素と栄養が運ばれなくなるため、脳細胞が障害を受けます。また、夏場でもとくに夜間に多く発生しています。寝ているときには脱水が起こりやすく、血圧も下がることが原因です。

脳梗塞予防の為には、こまめな水分補給や就寝前のコップ一杯の水を飲むことなどが推奨されています。夜中にトイレに行かないといけなくなるなどの理由から嫌われる方もおられますが、とくに脳梗塞の既往のある方には必須です。

また、経口補水液(ORS:Oral Rehydration Salt)については、ナトリウムやカリウムの摂取制限をされたり、心不全や腎不全のある方などには害がある場合がありますので、そのような方が利用される場合には、事前に主治医の先生と相談しましょう。

なお、経口補水液はもともと発展途上国でのコレラに対する治療目的で開発されたもの。世界では、発展途上国を中心に、下痢が原因の脱水症で今でも220万人程の5歳未満の子どもが亡くなっているとのこと。それでも経口補水液での治療を行なっていなかった1980年中頃と比べると、死亡者数は半分以下になっているそうです。

十分な水分補給で、みずみずしい体を維持してください。